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その男、規格外につき  作者: しんぷりん
第1章 雌伏の時
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幕間4 ベルとジェノン ベル語り

今回は第8話で出ていたメイドのベルを主軸に物語は進みます。

 私がレイヴァン家のメイドになった切っ掛けですか?

どうしてそんなことをお聞きになられるのですか?


 えっ?姉さんになる人だから・・・ですか。

ジェノン様にそうおっしゃられると、物凄く実感が湧いてきますね。


 ですが長くなりますよ。いいんですか?

そうですか、わかりました。では聞いていただけますか?



 私が生まれ育ったのはルーガニア王国ではなく、ルーガニア王国の西に隣接するファイバール王国ミール村というところです。ミール村はファイバールの王都から遠い距離にあり、ルーガニア王国ファイマ領との国境沿いにある総勢100人にも満たない小さな村です。村は貧しくみながみな生きていくのにも必死で、その日の食事すらままならないほどで、もちろん私もいつもお腹を減らしている欠食子供で、とても食べられたものでない虫や草を食べては、その日の空腹をまぎわらせていました。


 なぜこんなに私の村が貧しかったのか、幼く学もない当時の私には、まったくわからないものでした。実はファイバール王国は長く続く内乱の真っ只中で、国の政治も経済も疲弊しきっており、人々の心は荒み、それは主要の都市から遠く離れた田舎のミール村までさまざまな影響を及ぼしていたのです。

内乱で警備がなくなった街道には盗賊が溢れ、そのせいで商人は村に来なくなりました。また村の働き手である若い男たちは戦争で貴族に徴兵されました、その中には私の父もいました。後に残ったのは老人・女・子供だけ。

 

 このままではもう、緩やかに死を迎えるしかないと子供ながらに感じていた私でしたが、子供であった私にはどうすることもどうしていいかもわかりませんでした。そんな幼少時代をなんとか生き延び、9才の少女になった私に転機はやって来ました。ミール村に魔物が侵攻してきたのです。栄養不足で戦い手のいない村は、魔物にとっては本当においしい餌場だったのでしょう、逃げ惑う私たちを嘲笑うように次々と蹂躙していきました。


 私と母、何人かの村人は何とか隙をついて逃げ出し、恐怖で震える体を奮い立たせ、何かあった際には逃げる場所と決まっていた、村で一番丈夫な村長の家の地下室に逃げ延びました。ですがその逃げ込む際に私を逃がすため、母が犠牲になってしまいました。

地下室に逃げ込んで1日ぐらいは何事もなく過ぎ、魔物も去っていったと思ったのですが、そこもやがて見つかってしまい、地下室の扉にドカンドカンと魔物が突進し始め、そして扉はその都度少しずつ歪に形を変えていきました。それを呆然と見つめながら、私の心はどうしようにもないほどの絶望に染まっていきました。


 やがて扉が破壊しつくされ地下室に魔物が侵入してきて、いよいよここまでかと覚悟したとき、それは起きました。銀色に輝く鎧を着た男の人を先頭に、数人の鎧を着た人たちが地下室に雪崩れ込んできて、あっという間に迫りくる魔物を切り伏せたのです。私はその光景を見て自分が助かったことに安堵し、眠るように意識を失いました。


 私が次に意識を取り戻したのは馬の上で、あの銀色の鎧を着た男性の胸に抱えられて移動中の時でした。その銀色に輝く鎧を来ていた人物こそ、ルーガニア王国の英雄、守護騎士と誉れ高いジルオール・レイヴァン様でした。ミール村と隣接するファイマ領からこの窮地に駆けつけてきてくれたのです。ジルオール様は意識を取り戻した私によく頑張った、そしてすぐに助けられなくですまないとおっしゃりましたが、助けていただいた私たちにしてみれば、感謝の言葉しかありません。


 ファイバール王国は内乱開始前ぐらいから他国の貴族や軍隊の入国を全て拒んでいたので、入ることは侵略行為と見なされます。そのためミール村の現状がわかっていても傍観するしかなく、唯一許可なく進入が出来るのは、魔物の氾濫があった場合のみでした。この魔物氾濫時の介入はアルガルド大陸協定ですべての国々で決まっていることです。前々からミール村の惨状を聞いていたジルオール様はなんとか介入する隙を探していたらしく、今回ミール村で魔物の侵攻があったと聞いてすぐに手勢を連れ、ファイマ領から駆けつけてくれたのです。


 結局あの魔物の氾濫で助かったのは私を含めて5人だけでした。ファイマ領に連れて来てもらった私たちは、ジルオール様に全員手厚く保護され、私と私の幼友達のミミはそのままジルオール様の執事であるセバスチャン様の養子になりました。他に助かった村人たちもそれぞれの道を歩んでいます。お義父さまは学もなにもない私たちに、勉学や礼儀作法、戦闘術に魔法のことなど、本当に色々とご教授くださいました。そして私たちはそのままレイヴァン家のメイドとして働くことになったのです。




 とまあこんなところです。

ジェノン様、そんな悲しい顔をしないでください。私はまだ運のいい方ですし、今はとても幸せなのですよ。旦那様や奥さま、レイヴァン家の方々は、こんな私に沢山の愛情を注いでくれました。


 はい、もちろんジェノン様からも愛情をたくさんいただきました。

生まれたばかりのジェノン様はとても可愛らしいお子さまで、見ているだけで心が癒されました。それにジェノン様のお世話をするのはとても楽しかったですよ。知っていますか?おしめを替えていたのも私なのですよ。


 そんなこと忘れてくれって?

そうはいきません、私の宝物ですよ、一生覚えておきます。絶対に忘れません。

でも動けるようになると。すぐにふらっとどこかに行ってしまうようになりましたよね、何度私がいなくなったジェノン様を探しに行ったか知っておられますか?


 えっ、ミミを知らない?まだダンテ様との出会いを聞いていない?

今露骨に話を誤魔化しましたね。・・・まあ姉として許して差し上げます、ふふふ。

ミミはジェノン様がお生まれになる前にエリーゼ様がご結婚の際に侍従としてついていったので、ジェノン様はお会いする機会がありませんでした。私より1才年上で性格もしっかりしたとても頼りになる人です。

ダンテ様は初めてお会いした時からお優しい方で、ガリガリに痩せ細った私たちを見て凄くビックリなさっていました。そして私たちの話を聞いてその境遇に憤慨し、何かあったら俺が守ってやるともおっしゃってくれました。

ジルオール様譲りの目の覚めるような黄金色の髪に、深い群青の瞳、整った容姿の可愛らしい、けれど逞しく真っ直ぐな性格の元気な男の子でした。ダンテ様はその容姿と性格から相成って、女性から凄くおモテになりました。そんなダンテ様に初めて告白されたのは、私がレイヴァン家にきて5年目の春、私が16才でダンテ様が15才のことでした。その時は私などにダンテ様はもったいないと、お断りさせていただきました。


 その頃から好きだったのかって?

そう・・ですね、そのお人柄に心惹かれてはおりましたが、ダンテ様はレイヴァン家のご当主になられるお方、私では釣り合いがとれませんし、この想いはずっと墓場まで持っていこうと思っていました。それでも何度も告白なさってくれるダンテ様に私は諦めてもらうためにある計画を思い付きました。


 そうですね、そこで騎士団の話になってきます。

王都に修行に出ることになっていたダンテ様に10年以内に騎士団に入団出来ることがあれば、お話をお受けさせていただきますと約束したのです。ジェノン様は知らないでしょうけど、ルーガニア王国の騎士団に入団するのは非常に困難で、まさに精鋭中の精鋭のみ入ることが許される選ばれし者の集団なのです。

それに王都には美しい女性たちも大勢いらっしゃいます。例え騎士団に10年以内に入団出来ても、王都に居れば田舎者の身分の低い私のことなど忘れて、違うお方とお幸せになると思っておりました。


 えぇ、えぇ、馬鹿ですね、本当に私は浅はかでした。

そんな浅はかで捻くれた私の想いは、ダンテ様の熱い想いに完全に溶かされてしまいました。あの方は一切心変わりすることなく、私の想いに応える為にずっと頑張ってくれていたのです。私はその想いが嬉しくて、そして自分の馬鹿さ加減が恥ずかしくて・・・あぁすいません、涙が。


 泣いているより、笑っていて欲しいですか?

ふふふふ、ジェノン様はダンテ様と同じことおっしゃるんですね。そうですね、今度は私があの方の想いに応える番です。これからはダンテ様のお隣りで、何があろうとどんな苦難があっても、笑って支えて愛して共に生きていこうと思います。

お読みいただき、ありがとうございました。

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