第7話 魔力量が限界に達しました
あの古の森の実戦から1年が経ち、俺は7才になった。
この1年で変わったことは、あの実戦の数日後から、槍以外に刀を習い始めたことだ。俺としてはまだ槍一本で行こうと思っていたのだが、父さんが剣もそろそろ始めようよと、暇を見つけては、ずっと俺の近くで言い続け、それがあまりに必死な様子だったので、剣じゃなく刀あったら習いたいなぁと冗談っぽく言ったところ、喜び勇んで持ってきて、その日から直ぐに始めることになった。とはいっても子供の俺に刀は長すぎるので、小太刀で訓練することになった。
以外だったのはこの世界にも刀や小太刀ってあるみたい。固有名詞もそのままカタナ・コダチだったし、以外に地球とこの世界はどっかで繋がっているのかもって思ってしまった。父さんは普段、ラウンドシールドという円形の直径50cmぐらいの盾とバスタードソードという1.3mぐらいの片手半剣を使用している。だけど若い頃は刀をずっと使っていたらしく、むしろそっちが専門だということで、父さんに刀を教えてもらうことになった。父さんは凄く嬉しそうで、これも一種の親孝行かと思うと、習ってよかったなという気になった。
ちなみに俺の《強化知識》にもすでに刀の動作は取り込み済みだ。
そのときのインフォメーションは、
《達人レベルの刀の動きを確認 強化知識に取り込みます》だった。
ほとんど槍と一緒だ。実はわかったことがあって、俺はあの初実戦からグラン先生と共に何度も古の森で訓練を行っているが、その時他の冒険者の戦闘を見る機会があった。初級ではないがギリギリ中級に届くぐらいの実力と先生が評していた人たちだった。
その中には斧と鎚を使う人がいた。俺はそれらの武器で戦闘をする人を初めて見たのだが、俺の《強化知識》は何も反応しなかった。どうも達人レベルの動きでないと、取り込みをしないみたいだ。実証例がグラン先生と父さんだけなので、まだ確証は得ないが、かなり精度の高い予想だと思っている。
さて俺の体の方だが、生まれた時から続けている魔力枯渇による訓練のおかげか、いまやかなりの身体能力を有する体になった。だが問題も出来た。魔力回復スピードが速すぎて、魔力枯渇が出来なくなってきたのだ。せっかく魔力枯渇させても、物凄いスピードで魔力が回復していき、ほんの数分で全快に達してしまう。
そんな状態で困っていた俺に、俺の《強化知識》は反応してくれた。
《強化知識》いわく、どうもここが魔力量増加の限界点らしい、器限界ギリギリまで魔力量を増やすと、こういう逆転現象というか、魔力超回復という現象が起きるとのこと。なんと魔力量増加は15才までリミットがあるにも関わらず、俺は早々と7才にてすでに終了させてしまったようだ。これは俺の器がもともと小さかったのか、成長スピードが早すぎたのかはわからないが、後者であることを信じたい。
これではもうこれ以上の大幅な身体強化は望めないと考えた俺は、グラン先生に相談することにした、先生の解決方法は以下の通り。腕に籠手、足にすね当て、そして胴に鎧をつけて高重量にして訓練すればいいとのことだった。そして俺は先生に黒魔鉄という金属で出来た防具一式を貰った。
なんでも黒魔鉄は強度が非常に高く、しなやかで頑丈であり、武具にするには優秀なのだが、高重量なので武具の補強部分に使用するというように、ワンポイント的に使う人はいるが、そのものを武具にする人はいないとのことだ。
この高重量訓練は先生がよくやっている訓練方法らしく、実際に今もこれで槍の訓練を行っているとのことだ。だがいきなりこれをやると、重さに振り回されて基本の方も崩れて、悪い動作になってしまうとのことで、これをつけて普通に動けるようになるまではとにかく走れということだった。
ところが俺は装備しても普通に動くことが出来た、これにはグラン先生も心底驚いたみたいで、しばし呆然としていた。黒魔鉄より重い金属はないとのことで、とりあえずこれを装備して毎日走り、槍と刀の訓練をしている。
しかしこれだけ強負荷の訓練を毎日続けてて、自分でもよく体を壊さないなと思っているのだが、魔力量の多さが関係しているのか、どれだけしんどい訓練をして体を苛めて、膝が腰が腕が首がおかしくなっても、一晩寝て起きたら怪我は全快している。魔力量の多い者は怪我や病気に強いということだが、この状態がきっとそういうことなんだろう。
毎日コツコツとやり続けて7年、ようやく苦労が実りつつあるのを実感している。と言うか自分でいうのもなんだが、7才にしてずいぶんと人外になってしまった感じがする。だがそんな人外な体を持ってしても模擬戦ではグラン先生や父さんにはまだ叶わない。これがきっと技術の差であり、いままでの努力や経験の差なんだろう。
しかしそもそも俺の目標というか夢はアルガルド大陸の色々な土地を巡る、諸国漫遊のはずで、強さについてはそこまで拘ってなかったはずなのだが、どこでどう間違えたのか、いまやベクトルは完全に武人コースまっしぐらになっている。
体を動かすのは楽しいし、1日1日強くなっていく自分を感じるのは、とてもやりがいがあることなので、まあよしとしよう。前世では1日1日弱っていく体だったことを考えると、日々健康に過ごせるということは本当になんて素晴らしいことなんだろうと思う。




