表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その男、規格外につき  作者: しんぷりん
第1章 雌伏の時
10/46

第6話 初めての実戦

今日はイブですね。

 初めて入った古の森は、噂通りのおどろしさはなく、鳥や虫の鳴き声、草や土の香りが漂い、木々の間から指す木漏れ日がなんとも美しく、自然の織り成すその光景に俺は目を奪われる。だがここは大勢の命を吸った魔物が住む古の森、そう思いだし、気を引き締め直す。

 俺の前を歩く先生は軽い足取り、されど歩幅は俺に合わせてゆっくりで進んでいく。先生は見た目完全に脳筋なのに、こういう細やかな心配りが出来る。20分ぐらい歩いただろうか、先生は立ち止まり、こちらに振り向き、木の根本を指差した。


「ジェノ坊、あそこにあるギザギザの草が分かるか?」


「あれですか?」


俺は先生が指したであろうギザギザの小さい草を指差す。ちょっと歩いているぐらいでは見落としてしまうであろう小さな雑草みたいな草だ。


「そうだ、その草はな、フィール草といって回復ポーションの原料になる。」


おぉ、ポーション!やっぱりあったのか。ファンタジーの定番だ。


「採取の仕方だが、根本から優しく掘り起こし、葉や茎、根っこを傷つけないようにしないといけない。傷つけるとポーションにしたときに質が落ちてしまう。ジェノ坊採取してみろ。」


俺は先生に指導された通り、指で土を掘り起こし、フィール草を採取する。土は柔らかかったので、すぐに掘り起こすことが出来た。


「そうだ、うまいこと採ったな。冒険者ギルドではこのフィール草の採取依頼を常時行っている。覚えておいて損はない。新人にはよい実入りになる。フィール草は柔らかい地面にしか生えないが、固い土にしか生えない素材もあるし、非常に固い素材もあるので、採取依頼の際はスコップや鎌を持っていくといい。」


なるほどなぁ、素材によって色々な採取法がある・・か。それを如何に採取出来るように準備しておくのも大事なことだな。ところでやっぱり冒険者ギルドってあったのね、見てみたい、行ってみたいぞ。

そんな思案しているうちに先生は次元収納にフィール草を仕舞っていた。


「さて、寄り道してしまったな。進むぞ。」


ーーーーーーー


さらに奥地に入り、ちょうど木々の途切れ目があるちょっとした広場に出た。木漏れ日がなくなり、太陽が顔を出す明るい場所だが、何か雰囲気が変わってきた感じがする。肌に刺すというのだろうか、うまく言えないが違和感を感じる。


「気付いているみたいだな、その感覚を大事にしろ。ジェノ坊、来るぞ。」


グラン先生の言葉を聞いて槍を構える。構えてすぐやつらはやってきた。

初めて見た魔物は思ったより小さかった。身長は俺と一緒ぐらいか、緑色の肌に出っ張ったお腹、日本で言うところの地獄にいる餓鬼みたいな容貌だ。


「ジェノ坊、あれが緑小鬼リョクコキだ。」


コイツがそうか。俺はグラン先生に座学で色々な魔物の特徴を教えてもらっている。元来、魔物は太陽の光を嫌う傾向がある。だから深い森や洞窟、迷宮などを棲み家にする。だがそれは傾向があるというだけで、別に太陽を浴びたからといって死ぬとかそういうことではない。やつらが陽の光に出てくるのは、餌の臭いがするとき、つまり人間が側にいるとき、まあそれはつまり今ってことだ。先生の話では、緑小鬼というのは強さは最下層、知能は低く人間の子供と変わらない程度の強さであるが、集団で行動し、何匹殺そうが決して逃げることはないという、やっかいな性質を持つ。今も考えている間にわらわらと湧いてくるように出てくる。ひぃ、ふう、みぃ、・・・・10匹か。数が多いな。明確な殺意を持つ相手に震える体を押さえつけ、空いている手で頬を叩く。ぱちんと小気味良い音が響く。覚悟は決めたはずだ、いくぞ!


「ジェノン・レイヴァン、参る!」


大きな声を上げることで自分を鼓舞し、活を入れる。

先手必勝だ、素早い足さばきで一番前にいる緑小鬼に詰め寄る。槍の間合いに入った緑小鬼に中段突きを放つ。穂先が抵抗もなく緑小鬼の腹に突き刺さる。すぐに引き抜き軽くバックステップ。槍が優位な点は何よりその間合い。身長も変わらない素手のあいつらと槍を持っている俺では、間合いを保っている限り、間違いなく俺が有利になる。ちらっとさっき突き刺したやつを確認すると、もう地面に倒れていて動かない、殺ったのか?ピクリともしない。殺ったみたいだ。なるほど、最下層と言われるだけあって脆い。続いて3匹が俺に向かってくる。右、中央、左・・囲むつもりか?俺は槍を横に一閃、右の緑小鬼の首を撥ね飛ばす、いきおいそのままの穂先が中央の緑小鬼の首に軽く食い込んで止まった。そのまま槍を引き戻し、止めとばかり鋭くソイツにそのまま中段突き。崩れ落ちる2匹。だが左の緑小鬼は間に合わず間合いに入られる。俺は焦らずに槍を縦にすると両手を捻り、目の前で槍を回転させる、槍の根本にある石突きが下から上がってきて、間合いに入ってきた緑小鬼を弾き飛ばす。止めをさそうとしたが、さらに違う緑小鬼が間合いに入ってきたので、ソイツを先に突き殺し、弾き飛ばした緑小鬼に詰め寄り、槍を突き下ろす。


「グラァァァ!!」


緑小鬼の怒声が響く。仲間が殺されて怒っているのだろうか?

やつらに仲間意識があるようには感じないが、俺が知らないだけで、あるのかもな。

前を確認すると4匹しかいない。後1匹いたはずだが・・逃げないという性質を考えると、後ろに回られたか。

前のやつらが間合いに入るにはまだ少しだけ余裕がある。俺は先に後ろのやつを対処しようと決め、振り向きながら、その勢いを利用し槍を牽制も兼ねて横に一閃する、すると穂先が後ろから忍び寄っていた緑小鬼の胴に上手いこと食い込んだので、俺は勢いを止めずに振り切り1回転し、正面に向き直す。体液を撒き散らしながら上半身と下半身が真っ二つになる緑小鬼を目の端で確認しながら、向かってきた緑小鬼2匹に直ぐに連続突きを放つ。残った2匹に素早く詰め寄り、突き殺す。


構えはそのままに残心、辺りに敵がいないことを確認する。


「ハァハァ、ハァハァ、ハァァー。」


俺の息づかいだけが周囲を支配する。戦闘で乱れた息を整えていく。ふと殺した緑小鬼を見ると、次々に溶けていき、透明な小石だけが残った。


「よくやった!!文句無しだ。」


俺の頭をガシガシと撫でるグラン先生。その大きく温かい手は、俺の頭だけでなく全身を包み込んでくれる。


「どうだった、初めての実戦は?」


「怖かったです、緑小鬼の殺意を浴びて震えました。でも戦えました、勝てました。僕がここまで戦えたのは、グラン先生の指導のおかげです、ありがとうございました。」


「お、おぅ、そう面を向かって言われると照れるな。ま・まだ教えることはたくさんある、武の道は長い。むしろこれからが始まりだ、バシバシしごいてやる、覚悟しろ。」


「こちらこそ、厳しいのは望むところです。」


「言ったな、本当に泣くほどつらいからな。本当だぞ。」


「泣かされたら、母さんと姉さんに報告しますので、大丈夫ですよ。」


俺はニコリと笑う。グラン先生はその言葉を聞いて苦虫を噛み潰したような顔をする。


「ま、まてーい、それはいかん!いかんぞう!」


グラン先生の弱点は母さんと姉さんだ。身の丈2m筋肉隆々の立派な体格をしていて、あの2人にはまったく頭の上がらないのだ。ニコニコ笑う俺をみて、先生は冗談だと分かったのだろう。


「いいか、絶対に内緒だからな!あの2人は怒らすと本当に大変なんだぞ。・・・まったく焦らすな。ふう、じゃあ帰るか。おっと、その前に魂石を拾っておこう。」

 

先生は緑小鬼が残した透明の小石を拾い、次元収納にぽいぽいと入れていく。


「先生、魂石って?」


「魂石とは魔物を殺した後に残る透明の石のことでな、まあ帰り道に説明してやる。とりあえずこの10個の魂石はジェノ坊のものだ、後で渡しておく。」


帰り道、グラン先生は魂石について説明してくれた。魂石とは魔物を倒すと手に入る。魔法の発導体になり、ポーション等の素材にも使える。魔法を魂石の中に込めて使用することも出来るらしい。非常に興味ある話で最後まで聞きたかったが、まだ幼い子供の体の俺は、初めての戦闘で限界だったらしく、帰る途中に力尽き、気絶するように寝てしまい、結局先生に背負われて帰ってきた。気づいた時はすでに自分のベットの上だった。ちょっと最後が締まらなかったけど、俺の初めての実戦は、こうして終わったのだった。

戦闘シーンを書くのって本当に難しいです。お読みいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ