ダンスレボ
あるショッピングモールの噴水広場の前。なにやらざわついていた。
「なにしてるんだろう?」
人壁の隙間から様子を覗くと、スーツを着た男性や派手なシャツを着た若い女性、灰色のジャンバーを着た老人などが円になって、若いカップルを中心に据えてダンスを踊っていた。
「へぇ~、『フラッシュモブ』っていうのか」
「なにそれ?」
家に帰ってから、僕はショッピングモールで見たあの現象を調べた。
「サプライズでダンスを踊るらしい。ほら? 今日見たじゃないか」
僕は今日のことを思い出すように、彼女に促す。
「ああ、あれね~」
彼女は思い出したらしく、ショッピングモールで買ったスフレを口に運びながら話す。
「あれのどこがいいの?」
「え?」
彼女は平然と言ってのけた。
「だってさ、見ず知らずの人が踊ってるんでしょ?」
「まあ、そうだね」
「それのどこが嬉しいのかよく分からないんだよね」
僕もスフレに手を伸ばす。うん、甘くておいしい。
「こんな風にスフレがおいしいなら意味があるけど、ダンスを見せられて何を感じ取ればいいのか、あれはただ仕掛けた側の自己満足でしかないと思うのよね」
「あれじゃないか? サプライズを仕掛けてくれて嬉しいとかじゃないのか?」
「あら、あなた。今回はやけに擁護するわね」
「まあ、巷の感想を伝えているだけだからね」
「そう、それならよかった」
彼女はスフレを口に運ぶ。
「結局、仕掛けた側も仕掛けられた側も嬉しいと感じなければサプライズなんて仕掛ける価値は無いということよ」
彼女はそう言って立ち上がった。
「どうした?」
「ちょっと、飲み物を」
彼女が冷蔵庫を開けると、そこには彼女の好きな飲料水が入っていた。
「昨日、買ったのを忘れてたよ」
「さすが、分かってるね」
「そりゃどうも」
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