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ショーコの息子

「こんばんは、梅ちゃん。あはは、母ちゃんすでにできあがってるみたいだね」


店内に顔だけのぞかせた青年が笑顔を見せた。


「あらタケルくん。いらっしゃい」


梅ちゃんにタケルと呼ばれた青年に続いて健康そうに日焼けした中年男性も入ってきた。


「梅ちゃん、いつも勝子がお世話になってます」


ショーコの夫のマサルだった。


「入って、入って。マサルさんは飲めるでしょ? タケルくん運転してくれるわよね?」


しかしタケルからは返事がなかった。タケルは呆然とつっ立っていた。


「マジかよ……なにこれ」


タケルの視線はまっすぐバネッサに注がれていた。


「どうしたの? タケル」


ショーコも息子の異変に気づいた。


「なんでバネッサがこんなところにいるんだ? 俺、おとつい東京でライブ見た……」


バネッサが立ち上がってタケルに近づいて手を差し出した。


「ありがとう。私たちのライブに来てくれたのね。どうだった?」


「最高でしたよ! まだ興奮してますよ。でもなんで? なんで母ちゃんがバネッサとこんなところで飲んでるの?」


「こんなところとはずいぶんね、タケルくん」


梅ちゃんが笑った。


地元の大学に通うショーコの三男のタケルは、大ファンのデスメタルバンドDELUGEの初来日ライブのために上京して、さっき金沢に戻ったところだった。

そのバンドの憧れのボーカルがどういうわけか自分の母親と金沢で飲んでいる。急には理解できないのも無理はなかった。


「Wow! 婚約者のアーロンもいる! バネッサと一緒にアルバムジャケットになってた。ああ、俺なんだかもう混乱してきた」


「アーロンさんの婚約者のお嬢さんって、タケルがいつも聞いてるあの……なんというか、すごくパワフルなバンドの人?」


ようやくショーコも梅ちゃんもバネッサの正体を知ったようだ。


「Really? 梅ちゃん教えてよ。なんで母ちゃんがバネッサと飲んでるの? 俺、変な薬なんてやってないよ? シラフで幻覚見てるわけ?」


すすめられた椅子に放心したように腰かけたタケルは梅ちゃんからこれまでの経緯を聞いたのだった。


タケルのテンションがマックスに達したのも無理はない。

タケルとバネッサとアーロン、そしてふたりの親友であるゲイカップルとの会話は尽きなかった。


盛り上がる若い人のトークを聞きながら梅ちゃんとショーコ、マサルの三人は静かに酒を飲んでいた。


「バネッサ、金沢はどうだった?」


もうすっかり友人になったタケルが聞いた。


「すごくステキな町だわ。古い物と新しい物がそれぞれ相手を尊重しながら共存しているって感じ」


「金沢の景観は法令によって守られているんだ。市街地では派手な色や奇抜な形の建物や看板の建設が規制されているんだ」


タケルの説明に一同は聞き入っていた。


「でさ、バネッサたち、今後の予定は?」


「まだ数日JAPANを堪能するつもりよ」


「じゃあ明日、もしよかったら僕が運転して能登を案内するよ。日本海に突き出た半島だよ。景色も最高だしシーフードが美味しいんだ」


「最高! ぜひお願いします!」


梅ちゃんとアーロンから始まった小さなつながりが、奇跡のようにひろがった夜だった。


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