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第10話:ファンレター

補足:美衣奈は2試合目で糸織の頭を殴った

それからしばらく、昼はジム、夜は道場の日が続いている。

子供は打算で動かない分、夢中になって物事に取り組む・・・大人はそう理屈づけるだろうか、いずれにしても、恐るべきモチベーションである。

なにより気になるのは内容だが、その事は次回にしたい。別件があるからである。

その日、美衣奈が道場から戻ったとき、たまたま玄関にいた糸織と話す機会があった。

「あ~、みーなじゃん。おかえり~、最近おそいねぇ、補導されるよ?」

ジーパンと白いふわふわセーター姿の糸織がいたずらっぽく笑う。

「まぁ、あたしはいいんだけどね~。緑のおばさんじゃないから」

緑のおばさんは補導しないと思うが・・・。

「糸姉、頭、だいじょうぶ?」

美衣奈の真剣な眼差しに糸織が大きく破顔した。

「へ~、ぱっぴーも言うようになったね~。そりゃ~わたしも馬鹿だけどさぁ」

「ちがうよ。ホウキで殴っちゃったとこ。もう平気?」

「あぁ、そっち?まだ気にしてんの~?」

すでにその事故(?)は一ヶ月前である。もしどこかマズければ、こんな風には話していないと思うのだが・・・。

「だって・・・・・・」

美衣奈にしてみれば、ホウキの柄から伝わってくる手応えは会心という文字が似合うほどに重かったのだ。これがドラクエなら、レベル1でも「おおありくい」くらいはしとめられよう。

「・・・ごめんなさい」

「大丈夫だよ~。あんなこともあろうかとあの時は脳ミソ、リングサイドにおいておいたモン」

また、彼女ならやりかねないことを平気で言ってのける。

「それに、もっと前の試合でしおりんったら、みーなのこと栓抜きで殴っちゃったじゃん?・・・だからおあいこだよ~」

え・・・?

「あれ、栓抜きだったの!?」

「あらら~、知らなかったの~?」

能天気にからからと笑う糸織。対する美衣奈は思わずひたいに手を当てた。

・・・よく死ななかったものだ・・・。

あの瞬間が美衣奈の脳裏で再現される。正確にはあの寸前、美衣奈の目は確かに糸織の表情を捉えていたのだ。

・・・笑ってた・・・。

つまり、笑ったまま人を殺そうとしたのだ・・・。

大袈裟だが、美衣奈は真剣にそう思った。改めて今自分がやっていることへの不安が募る。だが、今までと違って、目の色を失う事はなかった。

「糸姉・・・」

「ん~?なに・・・?」

「あたし・・・糸姉の足引っ張らないくらいに強くなるからね」

それはいわば、美衣奈がプロレスラーとして初めて、さなぎから脱皮することを誓った、所信表明のようなものであった。

それを美衣奈を最も良く知る糸織が受け止める。その心中は如何なものか。

・・・糸織の次の言葉がいつになく哀愁を帯びた。

「駄目だよ。強くなっちゃ・・・」

「え・・・?」

どうして・・・?美衣奈は反射的にその意味を探ろうとしたが、その時間を糸織は与えてくれなかった。

「はい、これ」

その糸織が、答えのかわりに何かを手渡してくれる。その表情はすっかり元の表情だ。

「手紙?」

いろとりどりの手紙が数通何通。

「パピヨンちゃんへのファンレターだよ~」

ファンレター!?

「あたしに・・・!?」

「芸能人みたいだね~。ぱっぴーったら!」

「でもあの・・・全部開いてるんだけど・・・」

「面白そうだから私が全部開けてみた」

「開けないでよ!」

「ま、いーじゃん。とにかく読んで。おもしろいから~」

「もぅ・・・」

美衣奈の心境をマンガ風に言えば、フキダシの中に黒い糸が複雑に絡まってるあの感じであろうか。ともあれ、端から開けてみることにした。

「えーっと・・・パピヨンちゃんへ。僕は大好きなパピヨンちゃんがやられている姿を見ると、無性に腹が立つけど、興奮もします。これからも頑張って、腹も立つけど興奮させて下さい・・・って、なにこれーーー!」

「そんなの序の口」

不吉なことを言う。まさかヒドイ順に並べてあるのか?

なんだか次の手紙を広げることもはばかられるが、自分へのメッセージである。まさか捨て置くわけにもいくまい。

「拝啓・・・パピヨンちゃん。パピヨンちゃんは13才ですよね?特に実績もないのにその年齢でプロレスのリングに立つのには、失礼ですが、お金のからんだ事情があると推測しております。もしパピヨンちゃんの気持ちが許せば、週末に私の遊び相手になってくれるだけで、それなりの資金援助をいたします・・・」

「援助交際だね~つまり・・・」

「ちょっ・・・みんな!なんなの!?」

自分へのメッセージとはいえ捨て置きたくなる。だが、ここで読んでおかないと、知らない間にどこかで話が進展してしまいそうで怖い。とりあえず次の一枚・・・、

「おうえんしてるよぼくのぱぴよんおうえんしてるよぼくのぱぴよんおうえんしてるよぼくのぱぴよんおうえんしてるよぼくのぱぴよん(以下略)

・・・ちょっと~~~!!もうやだぁ~~~!!」

「すごいよね~!みーな専属のストーカーになるよ。彼」

「こわいよ~~~!!いとねえなんとかしてよ~~!!」

「ほらほら、次いきなよ~。もうすでに実力行使してる人もいるから」

実力行使・・・?

その言葉は捨て置けない。・・・美衣奈はもう半ばやけくそになってピンク色の封筒から最後の一枚を取り出した。

すると手紙の間になにかが挟んであったようだ。美衣奈の手元からするりと抜け落ちた一枚の・・・なんだろう・・・。

「なにこれーーーーー!?」

美衣奈が血相を変えて確保したのは一枚の写真であった。

リングの上の自分である。だが痛みにあえぐ自分の身体は一糸も纏っていない・・・つまり裸であった。

ありえない。だいたい、首から下の身体は明らかに別人のものだ。

俗に言う、コラージュというやつであった。

「うまいよね~。みんなにも見せようかと思っちゃった」

「絶対駄目!!ぜぇっっっったい、、、、、だめぇぇぇぇ!!!!!!」

もう気が気ではない。怒りに全身が震えるが、とりあえず手紙の主はどんな奴かとくしゃくしゃになった紙を広げた。B5の便箋にサインペンで書かれている文章はたった二行である。

・・・これからも、いっぱいやられて下さい。作品はその都度届けます・・・。

「・・・・・・」

「ね~。わかった?みんな、ぱっぴーが強くなっちゃったら悲しむよ~」

・・・・・・。

絶対強くなってやる・・・。もう絶対に痛がるものか!!

その後、パピヨンの練習メニューはさらに苛酷なものへとなっていった。

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