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第50話:海を渡る蝶

そんな訳で、渡英することが決まった美衣奈。

とはいえ、もうしばらくここにいる訳だからまだボンジュるには早いのだが、場所が場所なので、以後彼女はその準備に追われることとなる。

その忙しさもあいまって、取り巻いている様々な感情を忘れることができたのが、美衣奈にとってはありがたかった。


あれから、任天道道場には行ってない。敬二郎にも会っていない。ずるいことかもしれないけれど、何も言わずにイギリスへ発つつもりだった。

数年後、日本に帰って来て、また敬二郎に会うことがもしあったとしたら、その時にいろんなことを話そう。自分が親の死を10年の年月を経て乗り越えたように、時が感情を超えてすべてを思い出にしてくれる日がきっと来る。

「糸姉。パスポートってどうやって作るの?」

「プリントゴッコで印刷するんだよ~」

「そんなんでいいの!?」

「ふっるいの持ってるから貸してあげる~」

だから・・・今は遠い再会の日を胸に、自分の今に集中することにする。

「そうだ。お父さんに手紙書かなきゃ・・・」

まぁ・・・ハタから見れば、なんともまだるっこしい心理ではあるのだが、思春期の初恋というのは自分の中でとかく美化されるわけで、旅立つ本当の理由を知っている者から見れば、さながら少女漫画のヒロインになったかのような空気を感じ取ることもできよう。とくに美衣奈は精神構造が純粋にできているから、なおさらである。

「みーなさん。ちょっといいですか?」

「あ、美幸さん」

「間違って私のポストにみーなさん宛の手紙が入ってたんですけど・・・国際郵便です」

「ビルさんだ。ありがとうございます!」


そんな美衣奈は一つ、決めていることがあった。

12月23日の試合・・・つまり女児塾最後の試合についてである。

「美幸さん。お願いします」

「わかりました」

その特訓のコーチとして付き合ってもらうことになったのが、美幸であった。

内容についてはまだ明かさない方が面白いと思うので、ここでは筆を控えようと思うが、ひょっとすればパピヨンにとっては、今までで一番きついのではないだろうか、と思う。

同時に、今まで行って来たどの修練よりもその集中力は著しいようだった。

夜になれば一人部屋に篭り、どうやら最近買ったらしいビデオデッキを操作して、テレビとにらめっこをしている。

任天道道場にも通わない彼女はひたすら、ひたすら、それらのことに対して、時間を費やした。


カレンダーを見れば、もう師走の月も中旬にさしかかろうとしている。

厚木では12月に雪が降ることなどはまず考えられないが、空を仰げばその色は冬特有の澄んだ青色であり、その空めがけてそり立つ落葉樹群もすっかりと葉を落とし、冬の支度を済ませている。


一年が、終わろうとしていた。

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