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第5話:初戦を終えて(負け犬女後編)

出てくる女性名は全員大日本女児塾のメンバーです。

本厚木の駅前交番はタクシーロータリーの向う、道を一本はさんでケンタッキーフライドチキンの隣にある。

「じゃあ、ちょっとまっててね。すぐに連絡できると思うから」

そこで一通りの事情聴取とコーヒーを一杯。そしてこの言葉・・・。

青い制服の彼の話では、これから捜索願いが出ているかを照合してから連絡を行なうのだという。

「でも、よくこんな処まで出て来たね」

「・・・・・・」

安心感と敗北感と、疲労と慣れない暖かさのなかで、彼女は呆けたようにゆっくりとうなずく。交番がこんなにこんなに暖かい場所だとは色々な意味で知らなかった。

「実は僕も秋田から出て来ててね・・・あ、ちょっとまって」

無線が入る。

「・・・はー・・・あー、あーそうですか・・・」

おそらくは自分のことだろう。

「はい了解しました。一応ファックス送って下さい」

案の定、無線を戻した警察官は美衣奈のほうへ振り向いた。

「きみ、もう捜索願いでてるね」

「え・・・?」

そうか・・・。心配してくれているんだ・・・。

お父さん・・・生みの親ではないが・・・の姿が目に浮かぶ。

顔を合わせたらどんな表情を浮かべるだろう。やはり怒るだろうか。・・・泣いてくれるだろうか・・・。

「でも、これ、青森県の調書じゃないよ」

「え・・・?」

うつむいていた顎があがり、彼と目が合う。彼はいつのまに届いたのか、ファックスの紙をテーブルに広げてみせた。

「ほら、厚木市○○、18:23分届。・・・地元に知り合いがいるの?」

「え・・・?」

いるわけない。

・・・・・・

・・・いやまて。

「警察署のほうで連絡しておくって。まぁ、この住所なら20分くらいで来れるとおもうよ」

まさか・・・。

その時だ。

きぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーー!!!

ばぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーんん!!!!!

すごい音がした。いや、稚拙な表現で申し訳ないが、とにかく闇夜をつんざく轟音に思わず二人は交番を飛び出し、音の元を探ろうとする。

原因はすぐに分かった。

交番のすぐ前にあるスクランブル交差点。その信号機のポールにアメリカ製の大型SUV車が衝突、小爆発をし、炎上していた。

「うわっ・・・!」

小さな悲鳴を上げた警察官が交番へ駆け込む。もう美衣奈のことなどは遠い記憶の彼方である。

「まさか・・・」

美衣奈の脳裏によぎったことをここであえて書く必要はあるまい。

だって・・・片道20分の道のりなのだ。いくらなんでも速すぎる・・・。

「でもあの人たちならやりかねない・・・」

思わず独り言が口をついて出る。

本気でそう思った。次の瞬間には、あの火の玉の中から「あービックリした」とか言って出てきそうである。

「ああああ~~~~あたいのクルマ~~~~!!」

「ヘタくそ・・・」

「自分ら、先に探しに言っていいっスか」

「駄目ですよ今話し掛けても・・・それどこじゃないです」

「あーーー!!!いたぁーーー!!」

みんな無傷やんけ~~~ビシッ・・・みたいな・・・。

美衣奈はいつしかその期待に夢中になり、背後に迫ったもう一つのブレーキ音に気付かないでいた。

「いいから消せ!!手伝え!!」

「どうやって!?」

「こんなもんひっくり返せば消えるっス!!」

「よーし!いくわよ~~」

で、クルマ投げちゃったり・・・。

「おい・・・」

・・・不意に頭を小突かれる美衣奈。ハッと我に返ると後ろを振り返った。

一番最初に視界にはいったのが、美しいブロンドの髪。

「この野郎・・・心配かけさせやがって・・・」

ニタであった。

「え?・・・え!?あれ・・・!?」

「何、意外な顔してんだよ・・・」

「え?え?・・・え?だってあのぅ・・・あの車から出てくるんじゃないんですか?」

「なんでだよ」

「なんでって・・・」

なんでだろう・・・。冷静に考えてみるとよくわからない。

「そんなことより!」

ニタの鋭い眼光が美衣奈を突き刺す。少女は思わず目をつぶり、身をすくめたが、次にあったのは彼女の爆発ではなかった。

「あーーーーー!いましたわ!!」

「重かった・・・」

「いきなりいなくなるんだからねー」

「みんな心配してたんスよ!!」

「っと、ねーみんな~、7分54秒だよ。新記録だね~」

ニタの怒りをかき消す勢いで順に美幸、舞、DG、龍子、そして糸織が駈けてきたのである。美衣奈などはとたんにもみくちゃにされた。

「もう、ロリコン親父に拉致られたかと思いましたわ!!」

「あ、事故だ・・・」

「そんなのどうでもいいだろ」

「危うく打ち首になるところっスよ」

「ま~見つかったんだからいいよ。大日本帝国ばんざ~~い!!

・・・なんだか訳の分からない盛り上がりを見せる塾生達を見て、ニタは軽いため息をつく。こんなところでは怒りにまかせるだけ野暮というものだ。

「ほら、帰るよ」

喧騒の中でも聞こえる良く通る声に、美衣奈がもう一度我に返る。皆の動きも止った。その目がみな美衣奈のほうを向く。

「あの・・・あたし・・・」

「帰りたいのかい?地元に」

「・・・・・・」

帰りたくない。ほんとは帰りたくない。美衣奈が唇を噛む。

なんだか、帰りたくないもう一つのモヤついた理由が喉の先まで出掛かっていて気持ちが悪い。ニタは彼女のそんな煮え切らない表情に、フンと鼻を鳴らした。

「ところが帰れないんだよね。あんたは」

「え・・・?」

反射的に顔を上げる。

「あたいねぇ、実はあんたをメンバーに加える時、あんたの親に電話したのさ」

「親」に反応する瞳。初めて知った。

「その時にあんたの親に宜しくお願いされちゃったのよ!!」

「ええ!?」

「住民票ももう移ってるから~」

糸織が「私が手続きをした」と胸を張る。

「契約料も払ってる。つ・ま・り・・・あんたがよしんば地元に帰れても今度は向うからこっちに強制送還されちまうってわけさーー!!」

「ええええええ~~~~~!?」

もう口調はリングサイドでヒールを演じるスラッシャーニタそのものである。こういう人は一度ノるととまらない。どこから持ち出したかワイヤレスマイク片手に、

「あっはっはっはっは!!!あきらめな!!大丈夫だよ、とって食おうってんじゃないからねぇ!!」

今ゴングが鳴れば、必ず誰かが犠牲になるであろうハイテンションで、完全に自分の世界に入って高笑いを始めるニタを尻目に、美幸が囁いた。

「ああ言ってますけど、電話をした時、2時間くらいずっと頼み込んでたんですよ。社長さん」

「え?」

「そうなんスよ。美衣奈ちゃんは絶対いいレスラーになるって・・・」

龍子が言葉を添える。つづいてDGも

「あんたの親も無理だ無理だって言ってたんだけどね。ニタ・・・いや、社長のあんまりの熱心さにとうとう・・・ってかんじだったみたいでさ」

「・・・・・・」

美衣奈がまた顔を伏せる。・・・複雑な気持ちであった。

もちろんなりたいのは魔法使いであってレスラーではない。

でも今、ようやく分かったのだ。さっきからわだかまっていた胸のもやもやの原因が。

つまり、あたしはこの人達ともう少し一緒にいてみたいんだ・・・。

・・・しかし、ということはすなわち、彼女の中で、夢と現実と希望のベクトルが見事に三分割されているということだ。事の複雑さに13歳の頭が下を向いてしまったのも無理はない。ついでにその決断は今、ここでしなければならないのだ。

周りではようやくパトカーやら救急車やらが到着し、再び騒がしくなってくる。

「ほら、帰ろうよ。美衣奈ちゃんに勝ち逃げされたらこのしおりんの立場がないんだから」

「糸姉・・・」

「なーにかわい子ぶってんだよ。さっきは次に当たったら八つ裂きにするわ~なんて言ってたくせに・・・」

DGが言うと糸織はおどける。

「あ、ばらしたらかわいそうだよ~~」

「ええええええ~~~~~~!?」

やはりこの人達の元にいたいと思うのは早計か。

「ほら、いこう」

「・・・はい・・・」

でも、ニタの力強い声に、美衣奈はなぜだかしらないけどうなずいていた。なんだか怖さを忘れてしまうような・・・ニタの声にはそんな安心感があったのかもしれない。

「おし、単車持ってきな」

まもなくやや大型のバイクが、景気よく地面を滑って停まる。それを運転して来た舞がホームシートを譲れば、ニタはそこにひらりとまたがって、左手を勢いよく振り上げた。

「みんな!帰るよ!」

帰るって・・・。

「これで・・・?」

「おーよ。奴等に勘付かれる前に早く乗れ!」

親指の先にパトカーの赤色灯が映る。

いまこの場にいるのは全部で7人だから・・・。

「えええええええ~~~~!?」

美衣奈が思わず悲鳴を上げた時には、既に6人が乗っていた。まるでレゴ・・・。

「うるさいよ美衣奈。見つかる」

舞が諭せば、ニタが言う。

「あ、そっか。一人増えるの忘れてたわ。しょうがねえ一番後ろ!パピヨンの奴、背負ってやれ」

「えええええええ~~~~~~~!?」

「社長の運転、危ないからしっかり掴まってたほうがい~よ~」

それ以前の問題である。

「あー、さっきの酒、今ごろ回って来た・・・」

「えええええええ~~~~~~~!?」

そしてバイクがうなり声を上げた時、美衣奈の目の端に映ったものは血相を変えた警官である。

「こらぁおまえらぁぁ!!いったい何人で乗ってるんだぁ~~~!!」

だがその怒声もむなしく、「女児塾」を乗せたバイクは程なくその場から姿を消した。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

さなぎから孵化してもいない蝶々の、既に燃え尽きてしまいそうな悲鳴だけを残して・・・。

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