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第49話:ほわいとだーく、ボンジュる姉さん

「美衣奈ーー!!」

どんどんどんどんどんどん!!!!

がしゃーーん!!ばりばり!!!どどどどーーーん!!!

ぐもっぐもっぐもっ!!

ずるずる・・・。

「なんなのーーー!?」

声も音も、確かに自分の部屋の中だった。

朝・・・夢と呼ぶにはあまりの大音響に飛び起きた美衣奈の目の前には満面の笑みをたたえた

「糸姉!?」

そう、なぜか糸織が立っていた。

「全部きーてから反応するところが合格~」

なんでここにいるの?・・・聞くより前に確かめることがある。糸織がいるなら原因は間違いなく彼女だ。

「さっきの音・・・なんなの?」

「これ」

手を後ろで組んでいた糸織がその手を前に回せば、現れたのはハンディタイプの小さなラジカセであった。

「えへへー。面白いかなーって思って」

「・・・ラジカセの音?」

「そうだよー」

「もぅ・・・」

自分にいたずらするためにわざわざあんなの録音して来たんだろうか。

「って、それよりあたしの部屋、鍵かかってたでしょ!?」

との問いには、ポケットから取り出したモノですべてが解決した。

「あーーー!合鍵作ってるーーー!!」

「そりゃぁあたし、美衣奈のストーカーだモン」

「きもい~~!」

「そんなことどうでもいいの!」

いきなり表情が変わって、糸織がぴしゃりと言い放つ。

「え・・・?な・・・なに・・・?」

なんだか予想していなかった雰囲気に、とりあえず、突っ込みっぱなしだった布団から足を抜くと、その場に座ってみた。

糸織の目がいつにない色を帯びている。なんだろう。悪いことはしてないと思う。

美衣奈の思考が回りまわってやましいことはないと自信を持った時、糸織は口を開いた。

「あんた、ほんとにボンジュるつもり!?」

「え?」

「ボンジュるの!?」

「ボ・・・ボンジュる・・・?」

「もぅ・・・イギリスに行くの?って聞いてんの!」

「ボンジュールはフランスだよ!」

「え?」

糸織がとまる。そのままコホンと一つ咳き込んで、

「今はヨーロッパ連合だからいいんだモン」

「それより、もうみんな知ってるの!?」

昨日の今日だ。あまりに話の回りが速すぎやしないか。

「みんなは知らないけど、あたしは美衣奈のストーカーだモン」

「・・・・・・」

なんだかこんなに連呼されると本当にそうなのかと思ってしまう。

「やめなよ。あんたがボンジュったりしたら殺されるよ?」

「でももう決めたんだ・・・」

「そんなの撤回しなさい」

「・・・・・・」

そこまであっさり言い放たれると美衣奈も言葉を失ってしまう。黙ってしまうと、やがて糸織が美衣奈の隣に腰を掛け、やさしく言葉を繋いだ。

「どうして?・・・琴っちのこと?」

「・・・・・・」

ニタもそう、後に知る皆もそれが直接の理由であると信じていた。その悲しみを忘れるためにここを離れる・・・。

そう・・・。

確かにそれもあるのだが、それだけではない。

いや、むしろ死んでしまった人への思いはどこに身を移そうがその悲しさが換わるものでもなかった。

自分の気持ちを、今は絶対に伝えたくない人が同じ街に生きている・・・深層にその思いがあり・・・それがとにかく如何ともしがたい。

が、そのことは女児塾でもっとも親しい糸織でさえ知ることはなかったようだ。そういえば糸織は結局、敬二郎のことをどう思っていたのだろう。

・・・こぼれそうな思いのすべてを飲み込んで、美衣奈の目が遠く、限りなく遠くへ向けられる。

「あたし、もっと強くなって女児塾を盛り上げるんだ」

今はがむしゃらになれる目標がほしかった。もちろん家に帰る選択肢もあったのだが、女児塾の、ニタの力になりたい気持ちも本気であり、すべての条件を満たした結果が、イギリスであった。

後は後先を考えない美衣奈のことである。何とかなると考えるその目は、どこまでも澄んでいる。

「だから糸姉は・・・」

美衣奈は糸織の方に向き直った。

「・・・あたしが帰ってくるまで、女児塾でがんばんなきゃだめだよ?」

糸織が思わず吹き出す。

「なにがおかしいのよー」

「あはは!だって・・・」

一年前には魔法がどうのとか言って泊まるところもないまま自分の家に転がり込んで来た、家出同然の少女だったのだ。プロレスとK-1を勘違いして、プロレスがいやだと脱走して、リングの端で震えていた子供が、今は自分を説教している。

・・・笑わずにいられるだろうか。

ゴスロリファッションもビックリな魔女スタイルで街を練り歩いて、常に妙な人形を従え、しかもその人形としか話せなかった内気な少女が・・・まるで女児塾を背負って立つような言葉を投げかけている。

おかしくておかしくて・・・言葉にも詰まる。

糸織は目の前の少女に、もう一度瞳を凝らした。

思えば・・・何もかもが信じられない。

でも、彼女は確かにここにいる。

そして・・・。

・・・・・・。

「やっぱ、あんたを説得すんのや~めた」

ふわりと立ち上がって、笑う糸織。

「そんかーし、あたしを笑い死にさせないでね~」

「どぉぃぅ意味?」

「ううん。美衣奈がボンジュるの、楽しみにしてる~!」

その表情は、まるで久しぶりに会った子供が予想を遥かに上回るほど成長していたというような、いわば驚きのようでもあり、その言葉には、そんな美衣奈に対して、さらなる驚きへの期待が込められている。

こんなヤツがイギリスの名門団体に行ったらどこまで成長してくるか・・・泣いて脱走してきたらそれもそれで面白い。

糸織は満足げに「じゃぁねー」ときびすを返し部屋を出ていった。

「あ!待って!!合鍵だけおいてってよーー!!」

もちろん美衣奈はそんな彼女の感情の変化に気付く由もなかった。

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