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第42話:小春日和の10月に(前編)

この辺からようやく物語が走り出します。

ただ、ここまである程度しっかり読んでこないとここから先、何も感じないだろうなぁ・・・

「こんど、遊園地でも行くか?美衣奈」

「え・・・?」

いつものように敬二郎の歌を隣で聴いていた美衣奈の耳に、曲なしでそんな旋律が流れ込む。美衣奈は思わずつばを飲み込んで、軽く咳き込んでしまった。

「浅海君・・・と?」

「おー、後、琴スケさん」

それを聴いて少しほっとした。敬二郎と遊びに行けるなんて願ってもないことだが、二人きりで一日なんて・・・恥ずかしくてとてもではない。

「っていうか、元々琴スケさんが誘って来たんだけど・・・」

話によれば、琴のバイト先で、都内遊園地の特別優待券を配布されたそうで、正規の値段の半額で一日遊べるらしい。話の中で、美衣奈を是非誘おうと言う事になったそうだ。

「行く!!」

一も二もなく返答する。

琴がきっと気を利かせてくれたに違いない。

「いつなの!?」

この時の美衣奈はまるで喉の辺りで心臓が脈動しているかのごとく息浅く、身を乗り出して、その目を輝かせている。

そのあまりの反応に気圧されたか、「そうか・・・」と、息を詰めるとうなずいた。

「じゃぁ、琴スケさんのバイトの関係もあるから、今度連絡するよ」

「うん!わかった!!」

無邪気な声がはじける。それ程に心は躍っていたし、他方で少し驚きも感じていた。

敬二郎に誘われることがこんなに嬉しいことだとは・・・。

遊園地は大好きだが、これが遊園地でなくても、きっと自分は同じくらい喜んだだろう・・・と、なぜか冷静にそう思えた。

とにかく、思いっきりかわいくしていこう!

こんど、服を買いにいこう!!

・・・今日はその後の敬二郎の歌さえ、ほとんど耳に届かなかった。


跳ねるような足取りで女児塾に戻った美衣奈は寮の前でふと立ち止まった。

「関所がある」

なぜか彼女はそう呟く。

・・・もちろん比喩だろうが、美衣奈のこの気をつけなければ顔がほころんでしまう胸いっぱいの気持ちを、どうしても当日まで悟られてはならない人物がこの女児塾にはいることに気がついた。

つまり糸織である。

「どうしたらいい?ピノ」

「念仏でも唱えるってのはどうだよ」

「なるほど」

ナムアミダブ・・・ナムアミダブ。

「よし、行くよ・・・」

「なにやってんの~?みーな」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

不意に後ろから生まれた声に美衣奈が飛び上がって驚く。

関所だ。・・・もとい、糸織だ。脅かすつもりはなかったが、その滑稽なまでの反応に思わず笑みをこぼした。

「痴漢じゃないよー」

「な・・・な・な、なんで糸姉はいっつもあたしの後ろにいるわけ!?」

念仏がまるで彼女を誘致してしまったかのように思えた。

「そりゃだって、みーなのストーカーだモン」

「キモい!」

「へへへーー、みーなの考えてることなんて全部お見通しだよー」

「え・・・?」

一瞬で沸騰した血がさっと引いていくのが分かる。途端、本当に自分の心が見透かされているような気さえした。

「ほ・・・ホントに・・・?」

「ほんと。例えば・・・」

じ・・・っと、目を見据えてくる糸織の目が美衣奈には心底怖い。

「念仏だ!美衣奈!」

ピノの声が響く。そっか!

「ナムアミダブナムアミダブ」

露骨に怪しい。目を背けて念仏を唱え始められれば、糸織でなくたって不信がる。

「なんか、あたしに隠してる~?」

「ナムアミダブ!!ナムアミダブ!!!」

なんてわかりやすいんだろう・・・。

「お金・・・じゃないねー」

「ナムアミダブナムアミダブ・・・」

「あたしに隠れて何か楽しいことしようとしてる~~?」

「ナムアミダブ!!!!ナムアミダブ!!!!!」

「え~!?なにするの!?」

「な・・・なんのことでしょうねーー」

アヤシすぎる・・・。

しかし糸織は同時に、秋分を越え夏という季節は完全に去ってしまったことを、半そでから伸びた白い腕で感じていた。特に今日は間違いではないかというほど、昼と夜の温度差が激しい。

「まーいーか。帰ろ」

「う・・・うん」

季節に救われた美衣奈はほっと安堵した。


風呂から戻り、さて寝ようかとベッドに腰掛け明かりを消してまどろんだ。

・・・そんな時である。

「開けろーーー!!」

だんだんだんだんだん!!!

という、ドアを叩く音とともに、明らかに糸織と察せる声が、しかし声色を変えて、美衣奈を呼んだ。

「御用改めであーーる!!!」

まぁ、糸織のノリなどはいつも似たようなものなので、美衣奈も別段驚かないわけだが・・・。

「なに?糸姉」

と、なんのためらいもなく鍵を外した瞬間。

「キャ!!」

突然脇を抱え挙げられると乱暴にベッドの上に組み敷かれた。

「な!?なんなの!?」

そのまま、複数の黒い影が彼女の両手足の自由を奪う。暗くて良く見えないが、全員が全員、なぜか獣神サンダーライガーのマスクをかぶっていた。

「おとなしくせ~~い!!」

糸織の声がする。

「なんなの糸姉!!誰!?この人達!!」

「この白いか黒いか分からぬこの糸織太夫に、隠し事とはフトドキ千万。天許せしとも我は許せじ!」

「何で時代劇っぽいの!?」

「黙れ!!あくまでシラを切るならばこの腕を見るがよい!!」

そして糸織は着ていたトレーナーを脱ぎ捨てるとキャミソールの恰好でずいと前に出てその左腕を披露した。

まさか桜吹雪が・・・!?

・・・。

「・・・何もないじゃん」

「この、BCGの跡が目にはいらぬかぁ~~!!」

BCG?

「あぁ・・・ホントだ」

鈍い反応だ。あたりまえといえばあたりまえだが。

一発ネタを普通に流された糸織はコホンと一つ咳をすると、

「と・・・まぁ、遊びはここまでにする~」

「ねえ、何しに来たの?この人達誰?」

「そんなことより今日はこんな物を用意しました~!」

そしてどこから取り出したか両手を広げたくらいの大きさの赤い箱を美衣奈の目の届くところへ近づけた。

「ゴキブリホイホイ!!!??」

「しかも3年間熟成させました~~!!」

「ええええええ~~~~~!!!!???ちょっとヤダ!キモイィィィ!!!」

「さぁいいなさい~!楽しいことってなんなの~?」

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!近づけないでぇぇ!!!」

「言わないとこのまま開けて中見せるよ」

「ヤダ~~~~!!!死ぬ~~~~~!!!」

肌が見えるところは暗くても分かるくらいボツボツに鳥肌が立っているのが分かる。

「楽しいこと言ったら許してあげる~~」

「え!?楽しいこと!?」

まさかあのことか!?

・・・駄目だ!あれを言ったらこの人、絶対についてくる!!

「なんにもたのしいことなーーーいぃぃぃ!!!」

「はい、嘘言った~~!罰としてホイホイご開帳!!!」

「にヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

しかも彼女は開けただけではなく、用意していた懐中電灯でそれをありありと照らしたのである。黒くて細長くて何かふさふさしてるあしがろっぽんとあんてなみたいなのがでていてくろてかてかしているやつとか、もうかさかさになってるやつとかが

いっぱいいっぱいいっぱいいいっぱい・・・。

「あちゃぁ~~~、泡吹いてるよ」

サンダーライガーの一人が言った。

「死んだ?」

「多分」

「なんだ、ハリアイがないなー」

「顔に落書きでもしてく?」

何人かの声が交錯する。

「あ!そうだ!」

「どうしたの?」

「そういえばこの子のことで前から気になってることがあったんだ」


そしてその日、美衣奈にとっては特別な夜となる。

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