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第41話:決闘

物語の本筋とは関係ないエピソードです


今日・・・


「ぱっぴー・・・」

20畳ほどのスペースにレスリングマットが一面、敷き詰められている。その上で対面する二人のレスラー・・・いや、この二人だけをもっと正確に表現するなら、二人の格闘家・・・といったほうがインスピレーションがよく働くように思う。

すなわち任天道スタイルの美衣奈。截拳道スタイルの龍子の二人だ。

「打撃を駆使しつつ関節をとるスタイルはもともとブルースリー40余年の歴史が培ったもの・・・截拳道でもないあんたがそのスタイルで戦うのは許しがたい事実!!・・・今こそ決着をつけるっス」

すると「フン」と鼻を鳴らす美衣奈。いつになく強気の目が龍子を見据える。

「前のハイキックみたいにはいかないよ。ね?ピノ」

「おうよ。今日はお前のほうの頭・・・カチ割ってやるぜ」

「6秒・・・」

龍子が、彼らのやり取りをさえぎるようにして右手5本に左手1本、合わせて六本の指を立てた。

「6秒でカタをつけてやるっス・・・」

6秒は截拳道でいう真理のひとつであり、「実戦は6秒で終わらなければならない」という思想に基づいている。

「細川さん、気をつけてください。ジークンドーには目突きがあります!」

任天道、左藤師範代の声だ。彼はこの決戦を前にセコンドにつくことを了承してくれたらしい。

「別にあたし、見てるだけでいいよね~」

ちなみに龍子のセコンドは糸織である。

ほかはギャラリーもいない。

そして・・・ゴングが鳴った!!


先をとったのは龍子である。

怪鳥の奇声とともに一気に間合いを詰めた彼女の第一撃は、裏拳をつかった、いわゆる「寸勁」であった。

突進の勢いを殺さないそれは不意打ちとしては極端によけづらい。美衣奈はこれをすんでのところでかわすが、反撃どころか体は不安定に浮いたままだ。

そこへすかさず二撃目がいく。体を空中で一回転させての回し蹴りが美衣奈を左から凪ぐように襲いかかった。

よけられないと踏んだのだろう。故意に足の力を抜いた美衣奈がその場で尻餅をつく。

その上を、ムチのようなしなった一撃が通り過ぎていった。

「キィェェェェ!!!」

一瞬目標を見失った龍子だったが、長年の格闘暦を誇る「勘」が美衣奈を的確に追いかけている。

今使った右足をもう一度返して平素はふくらはぎを狙う下段の蹴りを打ち下ろす・・・だがそれも空を切る。

「ちょろちょろと・・・」

それから一瞬の後にくるりと身を翻し、距離をとった美衣奈に、龍子は舌打ちを送った。

彼女はまもなく立ち上がり、小悪魔のような微笑をうかべてみせる。

「6秒たったよ龍子さん」

「いや、ぱっぴー。後ろの時計をよく見るっス!」

「え?」

反射的に振り返り、時計を探した美衣奈の背中が何かに弾かれた。

「あうっ!!」

しばらく物理法則にしたがって流れたあと、美衣奈は無様に腹から突っ伏した。今まで彼女のいたところには横蹴りの余韻を残す、龍子の足が伸びている。

「ずるーーいぃ!!」

もっとも、さほどのダメージでもなかったらしい。立ち上がる美衣奈の抗議の声の余裕がそれを物語っている。

「ずるくないっス!決戦の途中に時計なんか探すぱっぴーが悪いっス!!」

「そう。わかったよ・・・」

ゆらりと陽炎のように一瞬揺らめいた美衣奈が今度は人差し指を突き出すと

「あぁ!!!あれはなんだろう!!」

わめいて同時に大地を蹴る。

まぁ、・・・もちろんうまくいくわけはないわけで・・・。

「何でだまされないの!?」

「今の今、自分が使った技じゃないっスかぁぁぁ!!!」

カウンターをモロに食らって再び地面に転がった美衣奈の声に龍子が応えたものだ。

それにしても今日の美衣奈は頑丈である。意地がそうさせているのか、はたまた任天道で培ってきたうたれ強さなのか・・・。


それからしばしの時間、技の応酬が続いている。

つくづくプロレスではないのだが、「女子のレベル」ということを割り引いても、この立ち技同士の異種格闘技戦の様相を呈している戦いはなかなか見ごたえがある。

特に龍子の動きがいい。

興行で意識する観客の目がまったくないことが、本番に弱い彼女をのびのびさせているのか。試合では見られない技の数々をまるで舞を舞うように連続して繰り出してくる。

一方美衣奈も「阿磐」を柱にして猛然と迎え撃ってはいるが、いかんせん手数が違うのと、回転の速い龍子の攻撃に、もうひとつの柱である関節を取りにいくタイミングが掴めないでいる。

自然、彼女は部屋の端へと追い詰められていった。

壁を背にするほうは本当に不利である。逃げ場が限られるだけでなく、追い詰められたことによる閉塞感、何よりここまで前に出てこられたという精神的圧迫が心の平静を奪ってしまう。

もちろんそれを、セコンドは心得ている。

「細川さん!コーナーワーク!!」

まずは窮地を抜け出して仕切り直しを・・・という意をこめた左藤の言葉が美衣奈の頭の上を通過していった。

いつもならそうしただろう。だが今日の彼女は少し違っていた。豹のような鋭い目で左打ち下ろしの蹴りを見送った瞬間、一瞬極端に低く構えた彼女の左足が・・・続いて右足が大地を離れる。

「哀栖!?」

あまりに距離がない。

だが、まるでバレリーナのように鋭い角度に伸びた足が作ったのは紛れもなく「哀栖」の弾道であり、それは昇り竜のいななきにも似た勢いで、龍子のあごを貫いた!

・・・かと、思われた。

龍子にしてみれば、彼女のその技は一番の警戒対象であった。わかっていても今のタイミングで出た大技を良くぞかわしたといえるが、逆にそれを最大限気にしていたからこそ、端に追い詰めた美衣奈を攻めきれていなかったのかもしれない。

そして、それを打ち終えた後の隙をこそ、龍子は待っていたのかもしれなかった。

前回もその際のハイキックで美衣奈を病院送りにしている。また怪我をさせることが忍びない・・・とは龍子は考えない。自分のもてる力を加減することこそ、相手に対する最大の冒涜だと思っている。

だから、その右は前回の惨状と同じ弧を描いて美衣奈に襲い掛かった。


だがそのとき・・・美衣奈の体は前回と同じところにはなかった。

一瞬、龍子は肩に何かの衝撃を感じ、

次の一瞬で、地上145cmを狙った蹴りが何も得られず通り過ぎていく。

寸前に何かを見たのだろう。龍子は今度は下ではなく、上に目を走らせた。

自分の身長よりはるかに高いところに、美衣奈がいる。

「芭留雲ファイト!?」

ついでに美衣奈の体には回転力が加わっていた。左藤はそれでなにがしかの技を想起したのだろう。その、呆気にとられた顔と、声の取り乱し方がその技の難易度を物語っている。もっとも、そんなことは今までの説明の荒唐無稽さからも想像がつくだろう。

どの部位を当てるのか、どの部位に当てるのか。少なくとも左藤以外には想像すらつかない技を、彼女は繰り出そうとしている。

「行くよ龍子さん!!」

そして、その回転力が最高潮に達した時、


「くっ!ガッツがたりない!!!!!!!!!!!!!」

と、誰かに叫ばれた。


・・・そんな、夢を見た。

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