第39話:関節技の今実際
35~39話まで、物語の流れとは関係ないエピソードが続きます
よーするに今日アップする分はすべて脱線エピソードといえます(苦笑)
この世界を気に入ってくれた人だけ読めばいいと思います。
複雑な関節技を文章で説明して理解されるか・・・ということがこの話の筆者側のテーマでした。いかがでしょうか・・・?(自信ない(苦笑))
さて、「哀栖」に続いて「阿磐」を習得しはじめた美衣奈の、関節技についての成長について語ることを忘れていた。
以前その事を書いたのは何ヶ月も前なのでもうお忘れかもしれないが、美衣奈は打撃を夜、任天道道場で・・・そして昼のジム稽古では関節の技術について、もくもくと修練を積んでいた。
NANAの見取り稽古を元に、自分なりにその力のかかりかたを研究し、相手の動きを利用して極める・・・その成果が、少しずつ、しかし着実に顕われはじめていた。
ところで女児塾には、関節技に秀でた人が少ないように感じられる。
塾生達のスパーリングを見ても、関節の取り合いで息もつかせぬ・・・ような展開をとんと見ない。先日入塾した真田黒子がその片鱗を見せてはいるが、このエピソードに関してはそれ以前からの総評であるから、除外として(失礼)、まぁ、それはそれでこの団体の色なのだろうから、とやかくは言うつもりはないが、とにかく関節について、先人達の知恵をあまり借りることのできない美衣奈の練習相手は、もっぱらイメージフォグと人型ミットに限られた。
だが、その環境がもたらしたものは不都合だけではない。美衣奈の関節技はそのおかげでオリジナリティに溢れるものになる。
子供というのは本当に発想が柔軟である。何か物を与えてこれで遊べと言われると、大人も気の利いた者は面白いことをするが、それはあくまで確信犯であり、子供の閃きにはかなわないと感じてしまう。
そんなわけで、美衣奈の関節技はしかし実用性に欠けるものがほとんどではあったものの、種類は増えていった。
得意なものは、相手の力を利用して逆関節を捕り、その勢いで相手を転がす合気柔術のようなスタイルで、肘や手首を極めるものがほとんどであったが、中にはやけにハデなものも発想されているので、それだけは紹介しておこう。
2つある。
一つ目は小手を取って後ろに回って肩を極める。ねじりあげると頭を下げざるを得ないので下がったところに踵落しの要領で足を上げて首に膝を巻きつけ身体ごと残った足も宙に浮かせて全体重がねじりあがった肩にかかるように身体を回転させる。相手はその勢いに負ければ受け身がとれないから頭からマットに落ちるし、負けなくてもスタンディングで極められる恰好となる。
二つ目は打撃技「哀栖」を変形させたもので、「蹴る」のではなく、膝を相手の首に巻き付け、それで相手が倒れたら普通に肘や足首の関節を狙うが、倒れなかったら、そこを軸にもう一方足で首を挟み、両手で腕を取ってやはり肩を極める。
いずれにせよ、美衣奈の関節はグラインド勝負でポジション取りの駆け引きを行うものではなく、一撃離脱型の・・・つまり突如極め、極まらなかったら速やかに逃げられるような技に終始している。打撃同様、力勝負にならないようにするための苦肉の策である。
NANAには感謝せねばなるまい。自己流なのにツボを抑えた練習ができているのは、彼女が見せた関節とそれにかかる力の関係が非常に的確であったがゆえである。
そして、これらの関節技の実戦配備により、美衣奈の、いやパピヨンとピノのレスリングスタイルの土台はようやくその形を顕し始めたといってよい・・・のだが、こんな話はおいておこう。向こうで美衣奈と美幸がちょっと面白い話をしている。
「みーなさん。あの二つの関節技はなかなかいいと思うんですけど、まだ未完成だと思います」
「はい、いろいろ工夫してもっと確実に極められるようにがんばります」
「あ、いえ、技自体は、こんなにすばしっこく極められるのかって言うくらい早いし、いいとは思うんですけど・・・」
「けど・・・?」
けげんそうな表情を浮かべる美衣奈。
それに対して美幸はそれを払拭するような微笑を浮かべて、言った。
「名前がないです」
「名前!?」
必要なのだろうか。
「必要ですよ。私の得意な横入りエビ固めだって「カイザ~ガ~ル」ってかっこいい名前がついてるから皆がわかるんです」
「・・・・・・」
釈然としない表情を浮かべている美衣奈の目は、言葉のどこにツッコミを入れているのか。
・・・もっとも、美幸はそんなことはお構いなしなのだが。
「だってみーなさん。みーなさんがさっきの小手とって後ろに回って・・・っていうのをやって勝ったとして、次の日になってファンの皆さんがみーなさんの話をするときに・・・」
美幸はここでコホンとひとつ咳をする。そして演劇部よろしく、声色を駆使して一人芝居を始めた。
「おい次郎。昨日のパピヨンの小手を取って後ろに回って肩を極めてねじりあげると頭を下げざるを得ないので下がったところに踵落しの要領で足を上げて首に膝を巻きつけ身体ごと残った足も宙に浮かせて全体重がねじりあがった肩にかかるように身体を回転させて頭からマットに落としたやつ、あれすごかったよなー」
「そうだな太郎兄。でもあの時相手が体勢を崩さなかったら、あのパピヨンの小手を取って後ろに回って肩を極めてねじりあげると頭を下げざるを得ないので下がったところに踵落しの要領で足を上げて首に膝を巻きつけ身体ごと残った足も宙に浮かせて全体重がねじりあがった肩にかかるように身体を回転させて頭からマットに落としたやつは極まんなかったと思うんだよ」
「・・・ってね、話がとてもややこしくなってしまうでしょ?」
「なるほど・・・」
演劇というか、まるで落語である。
「さらに雑誌の見出しになったり、電車の中刷り広告に載ったりさらに大変・・・」
「もういいです」
筆者としては聞いてみたいが、読者としては美衣奈と同じ感情だろう。美幸はちょっと残念そうな顔をしたが、
「だから名前を考えなきゃ」
と、すぐに微笑んでくれた。
「名前か・・・」
美幸が去るとピノがうなりはじめる。
「ピノと美衣奈のデリデリキッチン!!」
「パクリじゃん・・・」
それにピノが先なのが気に入らない。
「かっこいいのがいいよね」
「かっこいい俺」
「意味わかんない」
だいたい、名前が技っぽくない。
「ペガサス隆盛拳」
「確かに技っぽいけど・・・」
「円月殺砲」
「うーん・・・」
「煙突ミサイル」
「ねぇ、ピノって絶対あたしが生まれる前から生きてるでしょ・・・」
ノリで口が滑ってしまったが、両者知っているはずもないパクリの数々なので、ここだけのネタとして聞き流してもらいたい。
「困ったね・・・」
「そうだな・・・」
技の名前まで考えなければいけないプロの世界というのはいろいろな意味で厳しい・・・。




