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第36話:夏休み集中講義(勝夏編)

35~39話まで、物語の流れとは関係ないエピソードが続きます

この世界を気に入ってくれた人だけ読めばいいと思います。


要するにこの辺は美衣奈の周辺を固めてくれている方々のエピソードですね。

メンバーは

「~ッス」の熱血女龍子さん、

インチキ魔王と呼ばれるしたたかで芸達者な美幸さん、

美衣奈の保護者のような?アイドルレスラー糸織さん、

無口ですがツッコミ厳しい舞さん

辺りをおぼえておいてもらえればだいたい話はわかります。


・・・これ、もうちょっと前の話で書くべき?(笑)

「パピヨーーーーーーン!!」

「はいぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

ある日曜日の朝、地鳴りのするような声の圧力で美衣奈の身体はベッドから跳ね上がった。

「うむ、なかなかの反応だな」

ゆうに1mは跳ねたであろうそのレスポンスの良さに、声の主は満足げな声を上げる。

「なに!?なんなのーーー!?」

だが彼女はその声の主に気がついていない。真ん丸く見開かれた目が、狭い視野の中を何度か行き来した後、とりあえず地震や火事でないことには気付いたようだ。

「夢か・・・」

何かしらないが、一瞬ものすごい怖い夢を見たような・・・。

・・・・・・。

・・・。

ま、いっか。今日は日曜日だし、もうちょっと寝よっと。・・・そう思えば再びまぶたがまどろむ。上半身をベッドに横たえる、一日のうちで一番気持ちいいひととき・・・。

「寝るでない!!!!!!!!」

「はぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

なにかいる!!

反射的に身を翻した美衣奈が手に取ったのは、寝グセ直しのジェルのチューブ。さらに身を翻し、ベッドの裏へ身を隠・・・そうとしたところで、そこにおいてあった朝顔のプランターにつまづいた。

美衣奈の身体が床を打つ音と、プランターが倒れて土が床に広がる乾いた音、その時にぶつかったことで反応した、音の出る時計の「8時2分です」という声が部屋に交錯した。

「いたたたたた・・・なんなのーー!?」

ようやく顔を上げた先には自分の部屋のドアがあり、それを開けて立っていたのは・・・。

「美幸さん!?・・・あーもぅ・・・脅かさないでよぉ・・・」

面倒なので土の掃除は後にして、とりあえずプランターを元にして・・・。

「いいから寝直すでないっっっ!!!!!」

「そんな・・・ビックリマーク3つもつけなくても・・・なにかあったんですか?」

「3つではない5つなり!!!余は塾長に頼まれて、はるばるやって来たのだ!」

「はるばるって・・・2部屋隣じゃないですかぁ・・・」

「ぬぅ・・・起きたばかりのわりにずいぶんと台詞を拾うな。気に入ったぞ!」

「ちょっと・・・今日はどうしたんですか・・・?しゃべり方も試合みたいだし・・・」

「うむ・・・」

ずいと前に進み出る美幸。

「じつはですね。塾長が「パピヨンはエンターテイメント性が無さすぎるからちょっと鍛えてやってくれ」っていわれまして・・・」

素に戻るところはそこか!?とツッコみたくもなるが、とりあえず、部屋に入って来た美幸はプランターの土を卒なく片づけながら言った。

「えんたーていめんとせい?」

対して、ぽかんと呆気に取られたように、ベッドの上に女座りの美衣奈。

「はい。やはりプロレスと言うものはお客様を楽しませるものですから・・・」

ごめんなさいね。とプランターに土を戻す美幸。床が絨毯張りでなくて良かった。

「何かこう・・・インパクトみたいなのって重要なんです」

彼女のいわんとしていることは美衣奈にもなんとなく分かる。確かに皆、それぞれのキャラクターを演じてリングに上がっている。素なのは自分だけだ。

「そろそろ、パピヨンちゃんもそういう物を考えていく時期なのかなって思ったんだと思いますよ。塾長は・・・」

「美幸さん・・・でもあたし・・・無理だよ。そんなこと考えられない・・・」

自分と言うキャラクターを商品価値にして演じきると言うのは、戦うこととはまったく違う才能と努力が必要である。それは言ってみれば、朝の出勤時間に駅のプラットホームで大声で歌うような能力であり、どちらかと言えば引込み思案な美衣奈には到底できない芸当であった。

美幸もそれは汲んでいる。「わかりますよ」と微笑みかけて、ゆっくりと美衣奈の前に躍り出た。そして、

「だから余が来てやったんだろうがぁぁぁ!!!!」

今度こそ腰を抜かすような大声に、美衣奈は再び飛び上がり、ピンと背中を貼った正座になって硬直した。

「よいか!!余が来たからには甘えは許されんぞぉぉぉ!!」

「ええええええ~~~~!?」

「ええではないぃぃ!!!!!!!!!!!!!!」

「はいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」

美衣奈の、長い一日が始まった。


「うぬぅ・・・貴様!魔女のクセに飛ぶ事もできんのか!?」

「無理だよぉ・・・」

一応現実世界を扱っている物語である。さすがに不可能だ。

「うぬは自分をなんと呼ぶ!?」

「あたし・・・ですけど・・・」

「例えば自分の名前で呼べぃ!」

「へ?」

「一人称にはリングネームを使うのだ!!試しに、「パピヨンは今日絶好調だからやっつけちゃうぞ~~」・・・と言ってみぃ!!」

「無理~~~~!!!」

さすが元演劇部である。彼女の言い回しのところだけはガラリと子供口調だ。

「パピヨン、絶好調りん♪今日はあなたのハートをドキュンだりんりん♪」

「いやだ~~~~!!!!!」

ギヌロッ・・・音がするような睨みを効かせる美幸の目は完全に血走っている。気がつけば自分のキャラでは越えてはいけない一線を踏み外したことに気付き、ある意味で正気を失っていた。

「貴様・・・帝王である余にここまでさせて、だんまりを決め込むつもりかぁぁ!!」

「だってぇ・・・!」

「・・・よかろう。よい度胸だ・・・」

「え・・・?もう許してもらえるんですか?」

「今日の晩飯は抜きだ」

「ええええ!?」

どこかで何かを買ってこなければ・・・。あぁ、あの春雨ヌードルと言うものを一度食べてみよう。

「何を考えておる!!!」

「はぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

・・・とはいえ、今日はあれから昼メシも除いて7時間以上が経過している。さしもの美幸も、疲れの色が見え始めた。

いったいどうしたらいい・・・。演劇もそうだが、タレント性と言うものは天性によるものが大きい。彼女にそれがないとは言わないが、一朝一夕に見つかるものではないことは、美幸自身、重々承知だ。

だがまかされた以上は何かの成果を出さねばなるまい・・・彼女の責任感がこのまま引き下がることをためらわせる。

部屋を見回してみる。

あまり家具の多い部屋ではない。8畳ほどの大きさのフローリングのワンルームで、ベッドにタンス、ホウキに朝顔、それに数冊の雑誌と青いごみ箱・・・。

「ぬ?」

小さな机の上には白いテーブルクロスが掛かっていて、その上にさも大事そうに奉ってある筒のようなものがある。

「・・・なんだ。それは」

「え・・・?あ・・・」

美衣奈は今初めて、自分がいまだに寝グセ直しのジェルのチューブを握ったままだったことに気がついた。

「あ・・・これ・・・寝グセ直しです」

「そうではない。そっちの筒のようなものだ」

「あ・・・それは・・・」

よく見ると巻き物だ。それも一目見て最近に作られたものではいことが分かる。・・・いや、最近ではないなどという表現では誤解を受ける。少なくとも100年単位の歴史を感じさせる代物だ。

「うちの家系図なんです」

「家系図・・・」

「あたしの自慢です!」

「ほほぅ・・・」

「見ます?」

「よいのか?」

見たい気持ちはあったが、手に取るにしてはあまりに年代ものである。広げた瞬間に崩れてしまいそうで、口にすることをはばかられていたところだ。

美衣奈は大切そうに巻き物をベッドに置くと、慎重に広げ始めた。

長い・・・。とてもベッドの長さでは全貌を現わすことはかなうまい。

案の定、2m弱広げたところで、美衣奈はその手を止めた。

「うちの家系は以心居士から始まってるんですよ」

「以心居士?」

「戦国時代にいた大幻術師です」

「ほほぅ・・・」

「でその一人娘が細川ガラシャです」

明智光秀の三女である。敬謙なクリスチャンだったことから、洗礼名として「ガラシャ」をもらっている。

「おかしくないか?」

「うちに伝わる話だと、流れ者だった以心居士が光秀を幻術で助けたことがあって、しばらく屋敷に滞在した時にできた子で、流れ者ですから光秀が引き受けたそうです」

まるで何かの文章を読んでいるようなしゃべり方だ。

「次がね・・・」

棒読みなのだが、まるで水を得た魚のようにいきいきと説明を続ける美衣奈を見て、美幸はひらめいた。

「ねぇ美衣奈さん。試合前のパフォーマンスで一代ずつ簡単な説明をしていくっていうのはどうですか?」

いつのまにか素に戻っている美幸。

「え?これを?」

「美衣奈さんがそこまで胸はってしゃべれることなら、それをウリにすればいいと思うんです」

「そうかな・・・」

「はい・・・」

言い出してみたが自信はない。

「まぁ・・・すべったら、次回からは辞めればいいので、とりあえずお客さんの反応をみながらやってみたらどうでしょう」

美衣奈は美幸の顔を見て、巻き物に目を落とす。

確かにさっきのパピヨンりんりん♪に比べれば、自分にもできそうなことではある。

「わかりました。やってみます」

やっと解決した。クリティカルヒットとはいかないが、それでも美幸はほっと胸をなで下ろした。

「さ、今日は特別に美衣奈さんが食べたいものを作ってあげますよ」

「え?いいんですか!?」

花が咲くような表情を浮かべる美衣奈に微笑む美幸。

「なにがいいですか?」


・・・女児塾随一のタレント性を誇る帝王美幸の、本来の姿がそこにあった。

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