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第35話:第59回、あつぎ鮎まつり!?

35~39話まで、物語の流れとは関係ないエピソードが続きます

この世界を気に入ってくれた人だけ読めばいいと思います。


一応この話で大日本女児塾のメンバー全員の名前が出ています。

そんなやつがいるんだなぁと思っていただければ幸いです。

女児塾のある神奈川県厚木市で行われる祭りのなかで、一年を通して最大規模を誇る「鮎まつり」。

メインは総数10000発という大花火大会で、毎年、8月の第一週に催される。

つまり今日だ。

この大イベントのために集まる群衆は地元民だけではない。半径10kmほどの周辺駅には臨時の切符売場が設けられるという事実からもそれを語るには十分だろう。

本厚木の駅は案の定、若者がごった返している。

浴衣姿、ハーフパンツの群れ、親子連れから、どこかの翁まで、・・・とにかく駅を降りると皆同じ方向へ歩いていた。

メイン会場は相模川河川敷である。その場を取り囲むように並ぶさまざまな出店・・・たこやき・ヤキソバ・お好み焼き・スーパーボールすくい・お面・チョコバナナ・・・が人々の目を引き付け、祭りを盛り上げる。

真昼の暑さも徐々に融け、辺りに星が瞬き始めるころ・・・心地よい風を感じはじめた皆の足がふと止まる。

メインイベントの始まりである。

ある人は河川敷の砂利の上から、ある人はその川を渡す橋の上から、ある人は御座に座って、ある人は手をつないで・・・みんなおなじ方向を眺め・・・

「・・・てんだろうなぁ・・・」

自室の窓からぼんやりと外を眺めれば、夏の夜のふわりとやわらかい風に乗って、打ち上げ花火の音がどーんどーんとかすかに聞こえてくる。

その音を聞きながら、柔軟体操などをしている美衣奈の軽いため息が舞った。


明日は試合なのだ。

いかに慣れて来たとはいえ、基本的に一回一回が自分よりも遥かに強い相手との対戦であり、前日に遊びに行けるような余裕などはまだないのである。

というか、余裕があろうがなかろうが、試合の前日に遊び呆けるなんて馬鹿だっ!馬鹿だっ!かなりの馬鹿だっっ!

「糸姉のっっ、っばかーーーーーーー!!」

糸織は試合前日のミーティングを終えたあと、忽然と姿を消していた。ストイックに部屋に閉じこもって明日に向けて神経を尖らせるようなタマではない。部屋でないとしたら祭りじゃなくてなんだというのだ。

「ずるいっ!ずるいっ!!ずるいぃぃーーーーー!!」

実は美衣奈の知らないところで、(誰とは言わないが)他数名も「いなく」なっていたりするのだが、糸織以外とは同じ時間を過ごすことはほとんどないので、その矛先はもっぱら彼女にだけ向いてる、という具合である。

「もーーーーー!!!・・・・・・・・いいなぁ・・・」

「もぅしかたねぇんだからよ。さっきのあれ見ようぜ。アレ」

ピノのほうは意外に冷静である。彼は正直、花火よりも花火の音が聞こえ始めるまで読んでいた雑誌のほうに興味があるようだった。

しかたない。美衣奈は「うん」と小さく答えると、開脚をしたまま地面にひじをついて頬杖をつき、そのページに目をやるのだった。


・・・◆血液型でわかる!性格と相性◇・・・

「ぜったいね、ニタさんはBだと思うんだ」

「えーなになに・・・B型の女性は常にマイペースで、気分屋でさっぱりしていて、自己主張もあまりしないタイプ・・・か、うん、自己主張うんぬんは微妙だけどなぁ」

「で、舞さんがA」

「A型の女性は人格や品行が清く潔い人が多く、清楚で、控えめ・・・か、うーん・・・ただしゃべらねーだけじゃねーのか?」

「だって、自分を表現することが下手だから努力や主張が理解されないこともありますって、舞さんっぽいじゃん」

「ふむ・・・」

「で、ナニゲに龍子さんがO」

「O型の女性は、純粋で夢や理想を追い求めるロマンチスト・・・」

「美幸さんがABかな」

「感情にいくつもの局面をもつAB型・・・か。あれ、演じてるんじゃねーの?」

「いいの。ABが余ったから」

「じゃあ糸姉は?」

「糸姉なんかはC型肝炎」

「病気じゃねーか・・・」

「だって「秘密で自分だけお祭り行っちゃう人」って欄なんてどこにもないもん。だから、血液型なんてないんだよきっと」

どうやら相当悔しいらしい。

「じゃぁ、おまえを気絶させてからココアをおごってくれる人はなに型なんだ?」

「あれはわざとじゃないから仕方ないよ。・・・香澄さんはねー・・・AB」

「ほぅ・・・」

「ここ見て。繊細で鋭敏な面をもち、思いやりがある穏やかな人格ですが、表現が苦手なので冷たい印象を与えてしまうこともあります」

「じゃあ杏里」

「杏里さんはAだよ。ここ」

「一途ですがひっこみがち、でも意地っ張りで勝ち気な一面を持ち合わせています・・・か」

「ちはるさんは、Bだね。きっと」

「気分屋でその場その場の気分で行動してしまい、情は厚いが気持ちの切り替えも早い・・・って、この辺のことか?」

「う・・・うん・・・でも、ちはるさんの前で言っちゃダメだよ?」

「じゃあ、あいつは?・・・ほーっほっほっほって笑うやつ」

「いいかげん名前覚えなよ。一畳さんでしょ?」

「おぅ、そうそう。一錠さん」

「B型じゃない?・・・魅力的で、明朗な人が多いようです。その存在が楽しい雰囲気を作り出すので、人気があるって」

「ちはるのときにそういってやりゃよかったのに・・・」

「あ、でも違うや。自己主張をあまりしないって書いてある」

「じゃあ違うな。これだろ。O型」

「自分の感情に対して率直で、一途に走ってしまう傾向にあります・・・確かにこれっぽいかな・・・?」

「後は静江と黒子か」

「静江さんはAで、黒子さんはOだね」

「してその心は?」

「常に周りの人に気を使い、他人にも細かい配慮ができ、どんなときでもまとめ役として一目置かれる静江さんと・・・黒子さんは水あめくれるからO」

「もはや意味わからん」

「で、ピノは何型?」

「俺か?俺は、なんせマジカルクリーチャー(魔法の生き物)だからなぁ」

「血も涙もないの?」

「ちがわぃ!!」

・・・とはいえ、もともと美衣奈もピノが何型かを言えるとはあまり思っていない。そもそも人間でない彼が人間と同じ系統の血液型であるとは思えないわけで・・・。

ともあれ、と、美衣奈は別の言葉を振った。

「今度みんなにあってるか、聞いてみようね」

「正解率が半分以下だったらなんかバツゲームな?」

「いいよ。多分あってるから」

・・・なにか、オチを期待していた人には申し訳ないといわざるを得ないが、盛り上がりなどはまったく感じさせない雑談を一通り終えた二人はふと、ひとつの疑問に行き着いていた。

つまり・・・敬二郎は何型なんだろう・・・。

血液型というのは相性もわかるらしい。いや、よかったからどうというわけでもないのだが・・・うれしいじゃないか・・・。

なんとなくやんわりした気持ちになりながら、「O型の男性」の欄を読んでいた時、不意に自分の部屋の扉がノックされる音で、美衣奈は顔を上げた。

「はい」

・・・と応える美衣奈の目が、扉の向こうから聞こえてくる声を聞いて真ん丸くなる。

「浅海くん!?」

「おーう」

間違いない、敬二郎の声がすぐ目の前に彼がいることを伝えていた。

飛ぶように立ち上がり。・・・そして急いで扉を開けに・・・行こうとする体を別の感情が抑え、自分の部屋に落ち度はないかときょろきょろ見回して、とりあえず雑誌をベッドの上にまとめて、そして扉の前に立つ。

そしておずおずとノブを握る。

・・・確かに彼はそこにいた。灰色と紺の相の色のような甚平と、それにはおおよそ似合わない半帽タイプのヘルメット、・・・どこかで歌ったのだろう、ついでにギターケースまで持参である。

「どうしたの?」

「おー、今日祭りこれねえって言ってたからよー。これがたこ焼きで、これがイカ焼き」

「え!?」

差し出されたビニール手提げから立ち込めるのはまちがいない。お祭りのにおい。

「うそ・・・ほんとに!?」

「あ、違ったわりぃ。これがたこ焼きで、こっちはとうもろこしだった」

そんなことはどうでもいいのだ。「あたしに!?」・・・という意味での「ほんとに!?」である。

受け取る際のほんの一瞬接触する手のぬくもりに上気する心を必死に抑えて、彼女は髪の毛が地面いつかんばかりに頭を下げる。

「えっと・・・えっとえっと!・・・どうもありがとう!!」

「おう」

そのうれしさを例えるにはどうすればいいんだろう。ほしいものを買ってもらった瞬間とか、マシュマロに大好きなブルーベリーソースをかけたものを満足するまで食べたときとか・・・いろいろな感情を思い出してみたが、その色はそのどれとも違っている。

少なくとも自分が今まで生きてきた13年間では味わったことのない感情であった。

にわかに生まれてきた不思議な高揚感にとまどいながら、それでいて心地のよい感覚に身を任せていると、その暖かさの元は言った。

「それじゃ、俺まだ行くとこあるから」

「うん!・・・ありがとう!」

「おう。明日がんばれよ」

「うん!」

糸姉がいなくてよかった。

彼の後姿を見送りながら、つくづくゲンキンなことを考える彼女の末端でピノが言う。

「馬鹿だな。ついでだから血液型聞けばよかったのに・・・」

「あ、そっか」

追いかけようかと思う。が、それはすんでのところで思いとどまった。

「大丈夫だよ。相性いいよ。きっと・・・」


初めて包まれた未知の気持ちをゆりかごに、そんな余韻も心地よい祭りの夜・・・。

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