第34話:晴れた日に
あはは、こんなのあったなぁ・・・
詳しく解説するものじゃないと思いますのではしょりますが、
9年前これらのエピソードがアップされていた頃
こんな子供に真剣に目くじらを立てたプロレスマニアの方がいらっしゃいまして、その流れをなんとなくネタに使わせていただいたものです(笑)
7月の某休日・・・。
今日、美衣奈は泣いて自室を飛び出した。
乱暴に開け放たれたドアの向こうには、夏を迎えて青さを増した空と、生ぬるい風が萌えている。7月も、もう半ばを過ぎたことを、白い太陽が教えていた。
その、ガムシャラな暑さを受け止めきれない肌を包み守ろうとする汗。普段うっとうしいだけのそれを今日はぬぐおうともせず、彼女はまるでなにかから隠れるように、女児塾裏の椎の木陰にへたり込んで、一度しゃくりあげた。
「どうしたよ。パピー」
その様を偶然目撃した人がいる。彼女はどうしたものかと迷った挙げ句に、彼女を追いかけることにした。正直、暇がてら・・・という気持ちも手伝っていたが、まさかそんなそぶりは見せない。
美衣奈は声のした方を一瞥して、すぐに目を伏せた。泣きっ面を見られたくなかった。
「何でもないです」
「何でもないんなら、あたいと単車でどっかいくかい?」
「・・・・・・いいです」
・・・ふぅ。
軽いため息を吐く。彼女はこんな風にふさぎ込んだコドモをあやしてやる術を知らない。そんなにたいしたことではあるまいと、その場を立ち去ろうとすると、立て膝に顔を埋めたまま、くぐもった声で自分を呼ぶ声がする。
「ニタさん・・・」
「ん?」
「あたし・・・、女児塾のコブですか?」
「は?」
「ホントはあたしがいるからメイワクしてますか?」
「あ?」
「あたし!!!・・・一生懸命やってるのに・・・!!」
鳴咽で語尾がかすれている。
だが、対する二田は思わず苦笑いを浮かべてしまった。なにがあったのかなど聞くまでもない。彼女に立ちはだかった壁は、以前自分が突き破って乗り越えたものと同じであった。
「・・・誰かに何か言われたのかぃ?」
しかし知らないフリをする。すると、彼女は顔を伏せたまま、ポケットから4つ折りにされたコピー用紙のような紙を取り出し、自分の方へ突き出した。
乱暴にポケットに突っ込んだのだろう、端の少しよれたその手紙にはワープロ文字で、こう、記されていた。
「早く辞めろ!!!
お前みたいなプロレスをなめている奴を見ると腹が立つんだよ!
女児塾のコブがイキがんな!やめねえと殺すぞ!!」
読んでいるうちに二田の肩が小刻みに震えてゆくのが分かる。やがて、こらえきれなくなって来た彼女の感情が表情、息遣い、そして声になって顕われた。
「あははははははははははははは!!!!!!!!!」
「なにがおかしいんですかぁ~~~~!!!」
睨む美衣奈。そういえば彼女はこれで初めて二田の目を見た。
「いやぁ・・・パピーの奴ぁ人気があると思ってさ」
「どこが人気ですか!!」
悔しさが怒りに、そしてすべての放棄へとつながる。
「あたし!!・・・こんなこといわれながら試合なんて・・・できません!!」
「じゃぁ、辞めるかぃ?」
「辞めます!!」
「若いねぇ・・・」
「ほんとに辞めます!」
「あんたがいつも言ってる魔法学校とやらで、同じ事を誰かに言われたら、そこも辞めるのかよ」
「・・・・・・・」
美衣奈は思わず息を呑んだ。必死で言い返す言葉を捜すが、詰まった言葉を吐き出す術がない。
眉間の険が解けたのを見た二田はゆっくりと言葉を発した。
「人ってのはね、簡単に他人を否定するものさ」
矢面に立つ人間は常にその的に晒される。プロスポーツの選手に限定して言えば、その競技スタイルはもちろん、性格や言動や行動、身長体重年齢容姿、果ては収入や週末のすごし方まで、一つでも気に入らないものがあれば、その選手の苦肉の労力や覚悟、ひたむきさまですべてを否定してかかる。
「ま、「出る杭は打たれる」ってやつだね」
それどころではない。最近は「出る杭」は逆に抜かれてボロボロにされてしまう。しかもそういう力を加えるのは、常に、その努力や苦労などを経験したことのない凡人や、知識や理屈ばかりが凝り固まったシッタカブリばかりだ。
「あんたはプロレスをナメてんのかよ」
美衣奈の首がすかさず横に振られる。
「なら、それでいいじゃないか。ヒトにどうこう言われようが自分が信じてるんなら、それを揺るがす必要はないさ」
二田は、この13歳の少女がどれほどの苦悩とハンデのなかで、苛酷な世界を立ち回っているかを知っている。そして、その穴を少しでも埋めようとそれこそ血のにじむような努力をしていることも・・・。
正直彼女がここまでやるとは思わなかった。数日前の入院劇だって、そのまま尻込みしてしかるべきなのに、この少女はけろりとして戻ってきて練習を再開している。年齢的な幼さから判断してもそうだが、始めた時の精神状態を知る二田にとって、彼女のたどっている軌跡はにわかに信じがたいものである。いわんや、彼女の表面だけを見る者にとったら彼女が何も見えないのは当然なのだろう。
理解などされなくてもいい。数奇な運命を自分の信じるままに生きてゆけば、通ったところが道になっていく。
「って、あたいは思ったよ。まわりが敵だらけになった時はね」
「・・・・・・」
「いいじゃん、いわしときゃ。アンタ殺しにここに乗り込んできたって、あんたにゃターミネーター級の殺人兵器が11人もついてんだからさ」
誰のことだ。
「・・・っと、あたいも入れて12人か」
二田が微笑む。が、すぐにいつもの表情になり、
「ほら!分かったらしゃんとしろ!!あたいはもういくからね!!」
言い捨ててさっきの手紙を破り捨てると、きびすを返し大股で自分の来た道を戻っていった。
「・・・・・・」
空を見上げる。蒼い・・・。その青さに身を預け、美衣奈は何度かうなずいた。
やっぱりニタさんだ。あの強い心がこの女児塾を支えているのだろう。
・・・感傷に浸っていた時である。
ばーーーーん!という衝突音と「はうぅぅぅぅぅ!!!!」という、本気だか嘘だか良く分からない悲鳴が、向うから聞こえて来た。
向う・・・すなわち先ほど二田が立ち去った方。
というか、その声は二田の声だ。反射的に振り向いたが、声は建物の向うである。見えない。
「ニタさん!?」
弾かれたように立ち上がる。そしてそちらへ駈けようとした時、更なる声が聞こえて来た。
「柳沼お前ーーー!!わざとやってんだろぉーーー!!」
「と、とんでもない!!二田さん見つけて「あ、二田さんだ!」と思ったらボーン!!って・・・」
「んな奴いるかぁ~~~!!!!」
「え!?いや、だって!ほら、バイクって目の行った方に進むじゃないですか・・・って、ぐわぁ!!」
どうやら、ちはるがまた二田をハネたようだった。
しかしあの様子だと平気らしい。美衣奈もいい加減慣れっこである。
やっぱりニタさんだ。あの強い身体がこの女児塾を支えているのだろう。
なんだか元気が湧いて来た。この人達と一緒なら、なんでもできそうな気もした。
そう思った時、美衣奈の顔には笑みが戻っていた。
それにしても・・・。
・・・・・・。
オチが同じというのも考えモノだが・・・。
人は人を簡単に否定する。その言葉は、否定する人間の苦労や努力を本当に奥底まで見てからの言葉か?
・・・日常生活でもそう思えること、結構ありますね・・・。




