第3話:初戦を終えて
注釈
美衣奈は入団後3日目にしていきなりプロレスの舞台にリングネーム「パピヨンとピノ」という名前でデビューさせられる。
相手は先日世話になった先輩レスラーの糸織。(リングネームWD糸織)
彼女はパピヨンに初戦の花を飾らせるために勝ちを譲る。
おかげでデビュー戦を白星で迎えた美衣奈だったが、試合中、糸織の栓抜き攻撃を受け、額を怪我してしまう。
ニタ・・・プロレス団体「大日本女児塾」塾長。ニタは自身の苗字、二田を使ったもの。社長令嬢
1月11日・・・初リングの興奮覚めやらぬ中、美衣奈は手鏡を覗いていた。
勝った・・・。プロレスという"格闘技"で自分が勝った・・・。人と叩き合いの喧嘩などまるでしたことのない自分が、プロのリングで試合を行い、内容はともかくとしても最後にリング中央に立っていたのだ。
途中おでこの右に恐ろしい一撃をくらったのに、血が吹き出して顔面が信じられないほどに腫れ上がったのに・・・
「って、やっぱりこんなに腫れてるぅ・・・」
試合後の自分の顔を見るのは、一日置いた次の日、つまり今が始めてである。
というのも、極度の緊張状態と興奮状態が続いた試合の10分間は彼女にとってはひと月分くらいの体力消耗だったようで、控え室に戻ったっきり意識を失っていたのだ。
その状態とおでこの怪我を心配していたメンバーも中にはいたが、
「あぁ大丈夫大丈夫。あたしがこれくらいの時、熊とやって一週間こんなだったけど、ほら見な、今は元気だろ?」
ニタの嘘かどうか怪しい冗談で一蹴され、彼女は寮へ移送後放置されることになる。
で、2日後に起きた彼女は、目覚ましとなったこの鈍痛により、ことの顛末を思い出した、というわけだ。
腫れ物の中央には栓抜きの先でつけられた痛々しい傷跡があった。
「あ~あ・・・」
思わずため息を吐く。ハレはひいてもこの傷は残るかもしれない。大して美人でもないこの顔にこんな傷が残ったら、と思うと・・・とにかくため息が止らない。
「おぅ、コブじぃさんだな」
「うるさいなぁ・・・」
ピノはいつもそうだ。自分が思っていることをいつもストレートに代弁してくる。憎たらしいこともあるが、たった一人の気の許せる友達である。ここ(東京)来てからはなおさらだった。
「ねぇピノ。あたしのプロレス、どうだった?」
「うん、見苦しかった」
「うるさいなぁ・・・」
「じゃぁ、・・・よかった」
「うそつき・・・」
「・・・俺にどうしろと・・・」
「・・・うん・・・」
虚ろな瞳が自分の今まで寝ていたベッドを離れ、窓から見える空に向く。
今回の試合、糸織が手加減をしてくれて、さらに勝ちまで譲ってくれたことくらい、自分だって分かっている。その上反則までして、お客さん達の目を自分贔屓に持っていき、デビュー戦を最大限飾ってくれたことだって・・・。
でも・・・。
「これからやっていけると思う?」
「プロレスを?」
「うん」
「無理だね」
実際、一度リングに上がって実感した。
あんなに(といっても3日だが・・・)気の通じた糸織との一戦でさえ、この怪我なのだ。メンバーには男も道を譲りそうな体躯の持ち主が何人か見受けられるわけで、次の試合、自分の身体はこの程度では絶対にすまない。
「そうだよね・・・やっぱ・・・」
それからしばらくの時が流れ、美衣奈は何かを決めたように一つ、うなずいた。
瞳に力が戻ってくる。ベッドから降りると自分のホウキを手にとって、言った。
「ピノ・・・逃げるよ!!」




