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第27話:打ち上げの席で・・・

26,27話の間に「柳沼ちはる」さんとの戦いが、本来挟まれます。

内容はともかく、結果は本文のとおりです。

6月5日横須賀臨海公園・・・。

会場の興奮はメインイベント、「DG vs 九条清美戦」で最高潮に達し、そして冷めやらぬままに興行は終わった。

美衣奈・・・いや、リングネーム「パピヨンとピノ」もその熱に後押しされながら14分を戦い、まぁ内容はともかくも、前座レスラーとしての役割を堂々と果たした。

ちはるさんはやはり強かった。

試合を振り返れば、すべての展開で一つも二つも上を行かれて、「順当に」負けた感がある。

しかし彼女にしてみれば、やれる事を出しきって、それで負けたのだ。「13歳のあなたが立派に戦ってれば、それだけで最高のパフォーマンスですよ」と言う任天道師範代、左藤の言葉を胸に、今日の試合に悔いはなかった。

もっとも、ハタから見れば単に一人よがりの理屈であり、プロとして通用するものでは本来ありえないのだが、それを知ってもリングにあげつづける女児塾という場と、塾長二田の存在、そして寛容に受け入れて観戦してくれている客たち・・・そのすべてに支えられ、美衣奈の今はある。


「おつかれーぃ!!!」

記者のインタビューも終わり、帰り支度も終えて会場を後にした女児塾一行。

声の主は試合が終わってから相当の時間が経っていたにもかかわらず、一行が出てくるまで会場の外で待っていたようだ。反応したのが美衣奈である。

「浅海君!?」

そう、敬二郎だった。

「美衣奈ー、よかったよー。今日」

琴もいる。

「来てくれたんだね」

先週に敬二郎を誘って、さっそく来てくれたのだ。

なんだか、嬉しいけど恥ずかしい。今日の試合、2人はどんな気持ちでみたんだろう。聞いてみたいが言葉を見つけられずにいると、もう一人の顔見知りの能天気な声が。

「あれー?ケイくんに琴っち。ずっと待ってたの?」

「よぅ、しおりん!」

「糸織さんもおつかれ様。今日は美衣奈をね」

「俺ぁ、しおりんメインで見に来たんだけどよー」

「わぁ~~い!ありがとーー!」

「・・・・・・」

そんな敬二郎と糸織の間を何度か行き来して、目を伏せる美衣奈がいる。

だがそれがなにを意味するのかなど誰も分からずに、話は進んだ。

「いまから一緒にごはん食べにいこうかなって思って。二人とも、どう?」

「おごってくれるの~?」

「いいよ。今日はこの琴スケさんにまかせなさい。美衣奈もいくでしょ?」

「・・・うん。行く。でも、あたしはおごってくれなくてもいい。お金持ってるもん」

糸織とは違うんだぞ・・・と言う事を、さりげなくアピールしてみたり・・・。


「おつかれ様乾杯~!」

音頭を取ったのは敬二郎。まるで居酒屋のようなノリだが、驚いたことに(?)この4人に成人が一人もいないとあって、会場はとあるイタリアンレストランである。

「いやぁ・・・みてみると結構面白いもんだなー。プロレスってのも」

「うん、試合内容も思ったよりショーっぽくないし・・・試合前と試合後が、なぜか笑えること多いし・・・」

それはプロレスっぽくない事を代弁していて、きっとそんなところは女児塾くらいなのだろうが、他を知らない敬二郎と琴は、完全にここでプロレスというものを履き違えた感がある。

まぁしかし、そういう団体でもなければこの二人が(いや、糸織はともかく、少なくとも美衣奈は)レスラーとして存在することはできなかったわけで、そういう団体があってこそ、今日のこの打ち上げも存在すると思えば、縁は異なもの味なもの・・・といったやつである。

さて、味なものといえば、テーブルにはパスタやピザ、サラダやスープなどが広がってさらに賑やかな花が咲いた。

その中に、マシュマロ大の意味不明な食べ物が・・・。

「これなに~?」

美衣奈が首をかしげる。が、聞いたのは糸織だった。

「ニョッキだよ。しらねー?」

ジャガイモをベースにしたパスタの一種で、強力粉のパスタとは違う、もっちりした歯ざわりが独特の北部イタリア料理である。

「にょっき~~~!!?1にょっき2にょっき!」

もっとも糸織にはその歯ざわりよりも、独特なネーミングがいたく気に入ったようだった。

ところで、4人の宴会というのは時間が経てば大概、一人がしゃべって3人が聞き手に回るか、2対2で話すかのどちらかになる。今回もその法則から漏れないようで、談笑はやがて、糸織と敬二郎、琴と美衣奈に分かれていった。

地中海の匂いのする料理が口へと運ばれていく中、ライブやギターの話で盛り上がる糸織達の先にはしかし、どこか落ち着かない美衣奈がいる。

「・・・・・・」

「どうしたの?美衣奈」

「・・・ううん。なんでもない」

でも、話に混ざりたくても、音楽の話は美衣奈には分からない。時間が経てば経つほど敬二郎の天秤は糸織に傾いてしまうようで、焦燥で気持ちにもやもやと霧がかかったようになる。

「ねぇ美衣奈」

「え?」

もちろんそんな事は知る由もない琴には、彼女に尋ねたいことがある。

「あの・・・あの人・・・えーっと、だれだっけ?」

「えーっと?」

「あの、膝蹴りがすごかった人」

「早坂さん?」

「ああそうそう!早坂さん。・・・あの人って、実は相当立ち技ができるでしょう?」

「うん、こてんどーとかっていう格闘技やってたみたい」

「こてんどー?」

聞いた事がない。任天道も知名度の低さでは人のことは言えないが、新しく体系化された武道だろうか。

「どんな格闘技なの?」

「蹴りがすごいの」

「・・・?」

今日び、蹴りがすごい格闘技なんて山ほどある。が、美衣奈の次の言葉で琴は納得した。

「韓国かな?・・・で、やってたんだって」

「わかった。テコンドーだよ美衣奈。それ」

「あ、テコンドーか」

「ふぅん・・・テコンドーねぇ・・・」

意味ありげにうなずく琴の目がいつもと違うことに気付く。

「どうかしたの?」

「え?・・・ううん」

ふっと我に返ったかのように首を振る琴。だがその目は戻ることがない。不敵な笑みすら浮かべる琴の口から、次には意外な言葉が漏れた。

「・・・あの人とやったら、勝てるかなぁ・・・って・・・」

「え?」

聞き返したが琴は繰り返してはくれなかった。


いや、総合ルールでは美衣奈にすら不覚を取った自分だ。彼女をけなすわけではないが、明らかに彼女よりも場数を踏んでいるあのベテランに通用するとは思えない。

しかし、その勝負を立ち技の打撃に限定したら・・・。

きっと面白い勝負になる。そうする自信がある。

「・・・やってみたいなぁ・・・」

格闘家の悪い癖だ。常にアンテナを張り、波長の合う相手を求めてしまう。それは「この人なら勝てそうだから」というような低レベルな周波ではなく、「どんな勝負になるか」という、測定不能の要素に胸が躍るのである。それは次々に新たな山に挑戦するクライマー(登山者)と心理の上では似ているだろうか。

ともかく、打撃のスペシャリストと見た彼女と戦えば楽しいことになるだろうと、彼女は思ったわけだ。

「早坂さんと?」

美衣奈が少し大袈裟に驚いてみせると、彼女も冗談だと笑う。

「あはは、言ってるだけだよ」

だが、その笑顔に、いつものやわらかさはなかった。

「ねぇ、美衣奈って早坂さんと戦ったことあるの?」

「え?・・・うん・・・ある、ょ」

思わず食べかけのピザを置いてしまう。

彼女の膝・・・すんでの所でDGがゴングで受け止めたあの膝を思い出せば、いまだに身震いを覚える。

「私と比べて・・・どう?」

「どうって・・・」

つまり美衣奈は琴とも戦っているわけだから、そのお互いの感触を聞いているようだ。美衣奈はしばらく言葉に詰まっていたが、やがてポツリと呟いた。

「早坂さんは・・・コワイ」

すさまじく稚拙な感想だが、その言いようは実に言い得て妙である。つまり精神的威圧感では彼女に軍配が上がると言う事だ。でもそれは美衣奈の思うところであり、琴ではない。

「私じゃ無理?」

さらに突っ込んで、やさしいが、しかし限りなく挑戦的な目が光る。

実際、その答えは美衣奈にも分からなかった。

彼女からしてみれば空に浮かぶ星たちの地球からの距離の違いを聞かれているようなもので、肉眼で見る限り、どの星だって同じ距離にしか見えないのだ。

キャリアでは早坂に分がある。だが、自分のスタイルが確立できてから先はあまりそれは考慮にならない。年齢も18を越えればリーチの差を除く肉体的アドバンテージもない。

おまけに美衣奈が早坂と試合をした時と、琴から一本をとった時とは2ヶ月の差があり、まるでマンガのような劇的な成長曲線を描いている美衣奈にとって、二人との試合内容の差は一概には参考にし難い。

結局のところ、「打撃限定」となると、筆者にも「わからな」かった。

「ホントウに戦いたいの?琴スケ先輩」

美衣奈にもいい加減、琴の気持ちが冗談ではなくその方向に向いていることに気付いていた。だが彼女はしばし間を置いた後、自嘲めいた苦笑いを浮かべ、

「無理だよねやっぱ。団体にもいないのに・・・」

「先輩もうちに入ればいいじゃん。ニタさんに言ってあげようか?」

「ううん。それはね。美衣奈に負けた時からずっと考えてたんだけど・・・」

強くなりたい。・・・でも、自分の目指すものはプロレスではなかった。

「わたしは任天道が好きなの。戦えればどんなステージでも・・・って言う人もいるけど・・・。

わたしは任天道のルールの中で、任天道らしいスタイルで強くなれれば、それでいい。

よく聞く「最強」。

でもその最強にどれほどの意味がある?

自分の身を守るために人を傷つけたって罪になる時代。

殺傷能力のある攻撃なんて実生活には何の役にも立たない。

ならば自分の決めた「道」に邁進して、それが自分の楽しみと自信に繋げられたら、それでいいのではないか。

・・・これが琴の出した結論であった。

「そっか・・・」

もちろん美衣奈にとってみれば、残念極まりないわけで・・・。

「ごめんね美衣奈」

「ううん。大丈夫」

いつのまにかテーブルの皿もすべて片づけられていた。彼女は美衣奈から眼を放し、いまだ談笑の勢いのとまらない二人に声を掛けた。

「あーお二人さん。もう遅いし、そろそろ行く?」

そして、伝票をいち早く手にして、糸織だけでなく、敬二郎と美衣奈の分も肩代わりして、「今日はおつかれ様」と笑っていた。


美衣奈は、そんな琴に、なにかをしてあげたかった。


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