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第20話:檄春!花見ライブ!(後編)

そして18時・・・。

客席側のライトが消える。かわりに完全に逆光になっているステージライトが一瞬客席を照らしたかと思うと同時に、中央で巨大クラッカーのような破裂音!

「!?」

数瞬遅れてなにかが客席全体に降ってくる。

「わぁぁ!桜!?」

思わず美衣奈が口にして、会場が静まっていることに気付いて身をすくめた。

よく見ればピンク色の紙吹雪である。桜が散る様を表現しているのだろう。巧みな照明術も手伝って、まるで本物のように会場を包み込んでゆく・・・。

その風に乗って、敬二郎のギターソロが始まった。

ライトアップがされ、ステージに映し出されたのは彼も含めて4人。・・・彼らを確認した時には既に、美衣奈はその圧倒的な勢いに息をのみ、言葉を失っていた。

ギターをかき鳴らして大声を張り上げている敬二郎をステージ正面に、その影のように寄り添うベース、その後方上手かみてではキーボード、下手しもてではドラム。・・・それぞれが一斉に形成した「春」と言う名の息吹が、美衣奈の目の前で見る見るうちに芽吹いて咲き乱れる花畑のように大きく広がったのである。

「ふゎぁ・・・」

見たことのない世界であった。ステージの圧倒的な雰囲気も、その地面が揺れんばかりの音量も、すべてが美衣奈の理解を超えている。だが、それについていこうと一生懸命になる必要はなかった。

その濁流のような熱気が、刹那にして美衣奈を飲み込んでいったから・・・。

もちろん美衣奈だけではない。

・・・早くも会場全体が一つになろうとしていた。

「ベース!もっとがんば~~!」

約一名、我が道を突っ走る女はいたものの・・・。


二曲、三曲・・・。

それまで一呼吸も休まずに弾き終えると、ようやく歌は一段落を迎えた。

その間隙を縫って、美衣奈と琴が顔を見合わせる。

「すごいんだね・・・」

「来て良かった?」

「うん!」

「敬二郎君も喜ぶよ。そう言ったら」

本当に喜んでくれるかな・・・。

美衣奈には今、いくつかの気持ちが交錯していた。

まるでステージの彼が、自分の知っている敬二郎ではない、誰か別人のように見えるのだ。いや、敬二郎には違いないのだが、なにか・・・自分が言葉を発しても、彼の耳には届かないのではないかと思ってしまう。届かない気がして・・・それが今はなぜかとても残念に思えた。

ステージではMCが始まっている。

自己紹介、バンドの近況などを笑いを交えて語る4人。しばらく夢中になって聞いていた美衣奈だったが、ふと隣を見ると糸織が震えている。

「どうしたの?糸姉」

「う~~~~~~」

調子が悪いのか?

「糸姉、なに、トイレ?」

しかしこの心配が、ガマンしていた糸織の緒を切ることになる。

「し・・・」

「え?」

「しおりんもMCした~~~~~~いぃぃぃぃぃぃ!!!!」

・・・・・・・。

一瞬で、会場全体が静かになった。


MCも含めてすべての空気が一瞬止った・・・それくらいの大声であった。すべての顔が一斉にこっちを向いて、自分がそんな大声だったという意識のない糸織は何がおきたのかわからず、辺りをきょろきょろと見回している。ちなみに隣の美衣奈は真赤になって糸織の袖を引っ張りながら小さくなっていた。

「あれ?」

次の声は意外なところから上がった。

「しおりんって・・・あのしおりん?」

ステージの上、声を上げたのは敬二郎・・・の隣のベーシストだった。

「おお!!しおりんだ!!」

「しおりんって、あの?ベースの?」

敬二郎も知っているようだ。

「そうそう!・・・しおりん!ちょっとステージ上がってくれるかな」

「え~?」

などといいつつ、その誘いに糸織に否やがあるはずはない。ひょこひょこと女走りでステージへかけ上がると深呼吸などを始めている。

「ひさしぶり!っていっても知らないよね。俺、結構しおりんのライブ見に行ってたんだよ!」

ベーシストが歓喜の声を上げれば、観客も何人かは糸織を知っているようだ。意外なゲストに会場は異様な盛り上がりを見せ始めた。もちろん糸織のほうもノリノリである。

「しおりんも弾くよ~~~~!!らんにゅ~~~お~~~け~~~!?」

「いぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

・・・そして完全に、美衣奈と琴は呆気に取られていた。


糸織を交えた「檄春!花見ライブ」は大盛況に終わった。

途中、即興で糸織のバンド現役時代の曲をコピーすれば、糸織の方も4人のオリジナル曲のアレンジを即興で行うなどして盛り上げる。その巧みなミックスアップに客が満足しないわけはなかった。もちろんそれは美衣奈や琴も含まれる。

「糸織さん、かっこいいね」

「うん・・・みんな・・・すごい・・・」

春の風を閉じ込めていた箱を一気に開け放ったような、妙にさわやかで暖かい空気がラストの曲を飾っていた。

・・・糸姉は、本当はきっと、久しぶりにこの空気を吸いたかったのだろう。・・・保護者と言って無理矢理ついて来た訳が少し分かった気がする。

・・・ステージが終わり、糸織がメンバー全員と握手をし、客が三々五々帰っていく。

「なんだよ美衣奈。しおりん知ってるんなら言ってくれりゃいいのに・・・」

他のメンバーが糸織と話している間に敬二郎は美衣奈のところにやって来てそういった。

「えー?だって・・・知らなかったんだよ。浅海君が糸姉知ってるなんて・・・」

ライブの時、あんなに遠かった彼が、今自分のそばにいる。そこにいるのはいつもの敬二郎だった。

いや・・・違う・・・?

美衣奈は琴と話し始めた敬二郎を視線を沿わせた。

いや・・・違わない・・・か・・・?

「なににしても、今日はありがとうな。美衣奈」

いや・・・違う・・・・・・。

不意にこちらを向いた彼の視線を受け止められずに目をそらす美衣奈。

「そういやそのカッコ。ハリーボーダーの制服だろ」

「え?・・・う・・うん・・・」

「あぁ、そうなんだ。私わかんなかった・・・」

敬二郎がなるほどとうなずいている琴の方を向くと笑った。

「このくらいの子がやってると可愛いっすよね」

「え・・・?」

かわいい・・・?

「そうだよ。美衣奈、いいね。私くらいのおばさんになったらそんな恰好できないよ。・・・って、ひょっとして私にあてつけてるの!?」

「いーえ、滅相もございませんって」

いつものように琴と敬二郎の舌戦が始まるが、美衣奈はそれどころではない。既に3歩先くらい進んでる会話をものともせず、絞り出すような声で、言った。

「そ・・・そんなことないよっっ!」

なぜかその表情は真赤に染まっていたが、二人は気付かなかった。

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