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第17話:ホントは中学生

この日、塾長室に一枚の封筒が届いたところから今回の話は始まる。

「神奈川県教育委員会」という、団体とは普通関わりのない送り元に、二田は思わず顔をしかめた。

「なんだよ・・・ひょっとして、今ごろ賠償請求か?」

教育委員会が自分に用があるとしたら、学生時代に何度かしでかしてしまった器物破損の保障くらいしか思い当たらない。

「ったく・・・不可抗力だっつーの・・・」

例えば、音楽室のピアノを3階から校庭に投げ捨てた行為にいかなる不可抗力が働いたのかは謎だが、彼女自体はそれを固く信じている。

なににせよ、その程度のことなら問題ない。物珍しさも手伝い、彼女は封筒を開けてみることにした。


<保護者様各位。今年一月に住民票を神奈川県に移動された、細川美衣奈さんの地元中学編入手続きがまだ行われておりません>

「中学は義務教育だから、とっとと手続きを済ませて新学期から学校に通わせろってさ。・・・どう思う?」

「で、何であたしを呼ぶのさ」

手紙の内容を読んだ二田が塾長室に招いたのは女児塾一の豪腕レスラー・・・ノンストップアマゾネスのDGであった。

「こういう時に先輩の知恵を借りようって言う、カワイイ後輩の配慮がわからないのかね」

「んなこといわれたって、あたしの専門外だよ。そんなことは」

「ま、いいから、意見ちょうだいよ」

「ん~・・・」

腕を組み、眉間にしわを寄せて中空に目をやるDG。

「まぁ・・・中学くらい通わせたほうがいいんじゃないか?」

「・・・相談する相手を間違えたわ」


続いて呼び出されたのが美幸である。0期生ではもっともまともに相談できる相手とふんだ。

案の定、てきぱきとした返答が返ってくる。

「そりゃぁもう、中学は基本ですから。なんなら、私が手続きしてまいりましょうか?」

「・・・・・・。舞を呼んで来てくれ・・・」

そうか、まともな奴を呼んではいけなかったんだ。

舞が来る。

「じつは、かくかくしかじかで、奴を中学に通わせるべきかの相談なんだが・・・」

「・・・しらない」

どうでも良さそうだ。ついでに糸織も呼んだ。

「中学~?そういえばぱっぴ~って中学生なんですね~」

「そうらしいなぁ」

「そういえばあたし~、中学の頃修学旅行にさつきくんっていうのがいたんですけど~」

「もういいや。さがって」

糸織だと話が進まない。

「ふぅ~~~」

いやはや、相談のし甲斐のない塾生達(と先輩)である。中学生が中学に通うことなんかは、小学生でも知っている。あたいの思惑を汲んでくれる奴はいないのか・・・。

ため息を吐き、どうしたものかと頬杖をついた・・・その時である。

不意にドラを叩くような音が聞こえたかと思うと、まるで小爆発でもあったかのような大音響が塾長室のスピーカーからはじけた。二田の腰が椅子から跳ね上がる。

「これは!燃えよドラ・・・」

「ほわっちょぉぉぉぉぉぉぉぅ!!!!!!」

がしゃ~~~~~~~~ん!!!

大音響にくわえてカマイタチの舞いそうな奇声、そして今度こそ起った小爆発で、塾長室の扉が、塾長室内を勢いよく跳ねて転がった。扉があったはずの場所には、もうもうとたち上る、埃だか砂煙だか分からないもやにかすんだ女の足が、すらりと伸びている。

「だれだ!!!」

二田が思わず声を荒げた。

「ひとーつ人の世の生き血をすすり。ふたーつ不埒な悪業三昧。みっつ、醜い浮世の鬼を退治てくれようブルースリー」

「それは桃太郎侍だ!!!!!」

「そんなことはどうでもいいっス!何でこの龍子に相談してくれないんスか!?」

「あ、いや・・・」

忘れてたとは言えない。

「お前はどう思うんだよ」

ようやく意見を求められた龍子が、ずいずいと二田の前に進み出る。そしてまるでマイクパフォーマンスをするかのようにポーズを取った。

「と、その前にこの音を止めろ」

「おっとっと・・・」

出鼻をくじかれる。この辺でツッコまれてしまうスキを残すから、彼女はいつまでも「ここ一番に弱い」といわれてしまうのだ。

ともあれ、龍子はいまだに部屋の空気を占領しきっていた「燃えよドラゴン」をダッシュで止めに行くと、再び塾長室へ戻って来た。そしてもう一度ポーズを取り直す。

「・・・古来、武士は「己を知る者のために死す」と言われてるっス。それはすなわち主君のことを指してるんスけど、私はもちろん、美衣奈の主君はニタ塾長っス!そのニタ塾長をお守りするのにすべての時間を惜しんで技を磨き力をつけることが、本来「女児塾」の有るべき姿ではありませんか。それを今更中学などと・・・」

「お、おう・・・よく分からんが・・・いいぞ!」

意外なところに賛同者はいるものだ。よし、こいつに相談しよう。二田は話を進めることにした。

「それで、どうしたらいいと思う?」

「え?」

「どうしたら奴を中学に行かせないで練習に専念させられるようにできると思う?」

「それは・・・」

自分が予定していた口上をすべて言いきってしまった龍子の勢いが完全に止る。もともとアドリブが聞く女ではない。他のメンバーに聞いた時はまさかそこからが本題などということは夢にも思わなかったから、先の意見などは用意していないのであった。

「それを相談できる奴を探してたのさ」

後押しをするニタに対して、龍子は先ほどのきめポーズのまま、口をぱっくり開けて、彫刻のように固まっている。

「おーい。お龍?」

「・・・・・・」

その滑稽な姿にニタの表情が、思わずほろこんだ。

が、それはそれ、これはこれである。彼女は、そんな龍子の場外20カウントを狙った牛歩戦術を微笑んで許すほど気は長くない。

「言っておくけど、考えつかないとしばらくファイトマネーないから」

「え~~~~~~~~~~!?なんでっスか!?」

「ったりまえだろ!!!あんたが壊した扉!!いくらすると思ってんだ!!!!」

「ヒドイ・・・・・・」

本当に彼女はツメが甘い。さておき、さっきの勇ましさとはうってかわって、小さくなってしまった龍子はやっとのことで言葉を絞り出し始めた。

「あのぅ・・・なかったことにしちゃうってのは・・・・・・どうっスか?」

「どういうこと?」

「その手紙をぽいぃっと捨てて、「記憶にございません」ってのは・・・」

「・・・・・・」

そっか。回答しなければいいだけの話だ。美衣奈にも知らせず、まるで何もなかったかのようにふるまえばよいのだ。思えば、学校の編入手続きを怠ったばかりに逮捕をされた話などは聞いたこともない。

「よし、わかった。それで行こう」

何か根本的なことが違う気がするが、正直ニタは美衣奈が練習に専念してくれれば、後のことはどうでもよい。

「そうするよ。ありがとう」

「お役に立てて光栄っス!!」

「新しい扉代もあたいがもつ」

「オス!!」

「ただし、扉が届いたら、あんたが取りつけなよ」

「ええええ~~~~?」

「ったりまえだろ!!!修繕費っていくらすると思ってるんだ!!!」

その言葉を最後にニタは龍子を退出させると、いわれた通り、何もなかったかのようにその封筒をシュレッダーにかけてキレイサッパリスッキリの気分で仕事に戻ったのであった。


<おまけ>

ぱっこ~~~~~~~ん!!!

「いたぁ~~~~~~~~!!!な・・・なんなのーーー!?龍子さん!!!」

「べつに・・・殴りやすそうな頭があったからっス」

くーーーー!!

事情を知らない美衣奈は早々にABC同時押し(怒りMAX)を済ませる。

きっとこれまでやってきた特訓の成果を試したい気持ちもあった。

「やっつけてやる~~~~~~~~!!!」

「ふん・・・返り討ちにしてやるっス!!!!!」

・・・その日の二人のスパーリングは、実にアツかった・・・。


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