第15話:ノンストップ・狂想曲
あのマシュマロの歌の最後について、たっぷりじゃれあっていた、あの夜の話がまだ続く。
前回も少し触れたが、この日女児塾では、スタッフが一同に会して一つの議題について議論を割っていた。
つまり、早坂を相手にまさかの白星をあげてしまったパピヨンの次の相手を「予定通り」DGとするか否かである。
白熱した議論であり、ここに書き記録しておくのも一興かと思ったが、本稿とは主旨を異にするので、省くことにする。
結果は、「予定通り」と決まった。
「糸姉、糸姉!!、糸姉~~~~!!!」
美衣奈の、まるで10年越しに親の仇を見つけて、タレコミに行くような血相の変わり方に、ドアを開けた糸織も思わず息を詰めた。
「どうしたの!?」
「あ・・・あたし!・・・あたしの、あ、相手!!」
「相手?」
「今度の相手だよ!」
「あーなんだ。知ってるよ~。DGさんでしょ?」
「なんでなの~~~~~~~~~~!?」
核融合でも始めたかと思われるほどの勢いには、さすがの糸織もたじろぐ。
「し、知らないよ。・・・あ、知ってるよ」
「どっちなの~~~~~~~~~~!!」
「「知ってるほう」が、せいかーい!」
完全に他人事か、美衣奈の飛び込んで来た原因が知れれば糸織も完全におくつろぎモードに戻る。美衣奈を部屋に招きいれ、自分はベッドに腰掛けた。
「だって、ぱっぴーったら早坂さんに勝っちゃうんだモン。あの人に勝った人がDGとなんだよ?知らなかった?」
知らなかった・・・。いや、なにか、リング上でそんなことを叫んでたヒトがいたような気がするが、まさか自分のことだとは思ってもみなかった。いや、冷静になってる場合じゃない!
「異議ありーーー!!!」
机をバンと叩く美衣奈。
「どう考えたってあの試合、あたしが勝ったんじゃないじゃん!!」
「異議を認めません」
「どぉして!?」
「だって勝ちって判定になっちゃったんだモン」
「あんなのインチキだーーーー!」
「アンタが言う?それを・・・」
確かに明らかに被告側(美衣奈)の台詞ではない。
「まーでも、みーなもつくづく強い人とやるよねー。NANAさんとかDGとかさぁ」
「やっぱDGさんって・・強いよね・・・?」
ワラをもつかむ思いか、無駄なことを聞いてみたりもする。
「なんのマンガで例えてほしい?」
マンガ?
「じゃぁ・・・美幸さんに借りたほくとの拳で・・・」
「あんたがリンだとしたら、ジードくらいかな~」
わかりにくい・・・。
「ごめん。ドラえもんで言って」
「ドラえもん!?」
しばし考え込む糸織。
「あんたがスネ夫だとしたら、メガ粒子砲積んだドラミちゃんくらいかな~」
「ぜんぜんわかんない!」
「だって~、せめてポンキッキとかなら・・・」
「ムックとガチャピンしかいないじゃん!」
そもそもマンガじゃない。
「とにかく~。そんな強さの差なんて知っても仕方ないよ~。早坂さんに勝ったんだモン。勝てるよきっと」
つくづく他人事だ。いつのまにか糸織の隣に座っている美衣奈は大きなため息を吐いて、彼女の布団に仰向けに倒れ、天井を仰いだ。
なぜ、こんな事になっているのだろう。なんでこんなに怖いことを、自分はいつのまにかやっているんだろう。
ふと、素に戻る瞬間だった。遠くへ飛んでいくなにかを夢中で追いかけて、ふと振り返ったら、自分の知らない場所に来ていたような感覚・・・。
そこには「なぜ」など存在しないのに、人間にはそれを問いたがる時がある。
理由なんてない。あるのは、その方向に走って来たという事実だけだ。そして、元いた場所には戻れない。時とはそういうものなのに。
それでも美衣奈は、天井の模様を呆然と眺めつつ、自分の運命の不思議を思い描いていた。糸織が苦笑する。
「どうしたの~?また逃げたくなったの?」
「・・・・・・」
でも、逃げたい気持ちは今はない。今は自分のやるべきことを精一杯やって、そしていつか夢・・・魔法学校へのキップを手に入れるのだ。DGとの対戦は怖いけど、今までなんとかなって来たように、今度だって何とかなる。
そう信じた。
「糸姉。DGさんのこれまでの試合ビデオ、見せてよ」
そして、1時間が経った。
ビデオの停止ボタンを押すと、テレビ画面には深夜のバラエティが軽い笑いを提供している。
それも消す。そして美衣奈は再び糸織の布団に仰向けに倒れた。
仰ぎ見た天井に4文字熟語が書いてあるかのような錯覚を受ける。
絶対無理!!!!!
「4文字熟語じゃないモン、それ・・・」
「お願いだから台詞にしてないところツッコまないでよぉ~・・・糸姉」
そしてため息まじり。いきなり大声があがった。
「もーーーーーーーーーー!!!なんであたしがDGさんなのよ~~~!!」
「早坂さんに勝ったから~?」
「そんなこと言ってんじゃないんだよ~~~~~!!!も~~~!!!バカバカバカぁ!!!!」
枕に八つ当たり。
「だいたいDGって何の略よ~~~!!!ドジ!?ディグダグ!?ドラゴンボール!?」
「どれも微妙にDGにならないよ~」
という糸織も気で圧されはじめる。
「わぁかった!ダンディなジーパンだ~~~!!!!」
さっきの枕を両手で高々と持ち上げる。
「ジーパンめぇぇぇ!!許せない~~~!!!」
ブンっ・・・。
その枕が、糸織の頬をかすめた。
「あははははははははははははははははは!!!!!」
「きゃぁぁ!!!美衣奈が壊れた~~~!!」
先ほどの決意もどこへやら・・・その日美衣奈は糸織を巻き込んで、朝まで乱心しつくしたのだった。




