09. a confession of guilt
奏には瑞羽の問いの意味がわからなかった。
…瑞羽の寝ている間にあった出来事?
何もなかった。雨足も弱まり、森の中はまるで、自分一人しかいないかのように静まって、時々、木々の葉から垂れ落ちる水滴の音が透き通って聞こえるほどだった。
……でも探索に夢中で、ちゃんと瑞羽の周りを見張り続けていたか?と言われると言葉に詰まる…。自分の目が行き届いてない間に瑞羽に何かあったのだろうか…。
奏は次の言葉に困ってしまい、逆に瑞羽に尋ね返してみる。
「ごめん。寝ている間…、何かあった……?」
「何で謝るかな…。私には多分何も無かったよ、ぐっすり眠れたし…。そうじゃなくて、君だよ、奏に何かあった…よね?」
「えっ…⁉︎何も無いよ。少し周りに食材なんか落ちてないかなって馬鹿なこと考えて、周辺を探索したけど、食材もびっくりするほど無かったし…。」
すると、瑞羽は急に奏に向かって手を伸ばす。その手は奏の右膝の少し下に触れ、さっき奏が用いたハンカチの感触を捉えた。
「やっぱり……。痛くない?」
「痛くても私、何もしてあげられないけど…。」
「なん…で?分かった…の?」
「俺の表情、何か痛そうだった…とか?瑞羽には悟られないようにしようって思ってたのに……。」
「…関係無いけどさ……。奏、一人称が定まってないよね、いつも私といると迷ってる。"僕"だと子供くさくて、"俺"というには強くなくて、男前でなくて。とりあえず"自分"っていう言葉をよく使ってはいるものの、なんか堅苦しい表現だと思ってる…。」
次第に…奏は今まで感じたこともない、表現もできないような感情に襲われた。
「君は僕の何を知っている…?」
「どこまで…知っているの……?」
奏の中に募る"疑念"、"不安"、"焦燥"……。自分の頭の中を見透かされている………?誰も暴いてはならない人の頭の中、誰にも見せたくないもの。
そして、2人の間の会話が途切れるーー
そしてようやく、瑞羽が口を開く。
「いつ言おうか、迷ってた………。ずっと言わないまま…それで上手くいくならそれもいいと思った。」
「いつからか私の意思と無関係に、近くにいる人の考えていることが見えるようになってた…。最初は一度に1人の感情、それも曖昧に。
…いつ見えるかわからないし、始めは数ヶ月に一度、それも1分や2分。ぼんやりとその人の思考が見えて、見えなくなったら急に体が重くなって、具合が悪くなった。
一年もすると、間隔も短くなって、一週間に一度とか、一日に2、3回とか人の頭の中の思考が見えてきて、気持ち悪くなった。道端を歩けば、時々、擦れ違った人から強い悪意が見えたり、独占欲とか、人の汚いところも何回も何回も見た。吐き気がした。もうどうしようもなくて…。悪意に触れる度に、死んでしまいたい…なんて考えた。
…正直辛かった……。見たくないものまで見えるから…。」
「奏もさ、気分悪くしちゃったよね。ごめんね…。ごめん…そんなつもりないの、勝手に頭の中を覗かれたら、嫌だよね。分かってるんだけどね、知らず知らずのうちに奏の意識が私に入ってくるんだよ、許して………。ごめんね…。」
瑞羽は涙を抑え切れなかった…。自分が哀れに思えた。こんなこと言ったって伝わりはしない…。奏はどう思うだろうか…、私を理解しようと必死になってくれるのだろうか…?正直、奏が私を見放してしまったら、今度こそ私は孤独をずっと背負わなければならない…。そんなことになったら、とてもじゃないけど、生きていけないよ………。
どうしよう…。誰かに知って欲しかったはずなのに…。言ってしまえばすっきりする、この心も救われるなんて少しでも考えた私が馬鹿だった…。
「だから言いたくなかったんだよ……。」
奏の心は乱れる…。瑞羽という存在を受け入れられるのか…。理解できるのか…。瑞羽を救いたいと思っているはずなのに、彼女に対する恐怖や疑念、薄黒く濁った感情が溢れている。もはや、自分の感情を処理しきれない………。
自らの溢れ出す感情に溺れていく……。
深海に沈んでゆく……。
奏は深い闇をその双眸に映していたーーー。




