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未だ見ぬ虹の彼方へ  作者: 楪 玲音
episode 0:終わりへ向かう始まりの合図
2/10

02. preparation

この日は父は夜勤、もう家族は皆寝静まっていた。


一階へ下り、玄関から靴を持ち出す。靴は二足持ち歩こう。靴底が擦り減ってしまった姿で歩く旅のその先の光景が目に浮かんでいた。

これから始まるのは"逃げる" 旅だ。これから先は追手から逃れる為に常に先を急がなければならない。でもスタートの合図を鳴らすのは自分自身だ。今だけは焦らずに。そう、できるだけ身を整えて…。


足音を立てずに暗闇の段差を上り、部屋へ戻る。午前2時を指す針。教材やプリントが散らかりっ放しの床。布団も起きた時のまま。いつも母親に任せてばっかりだったな…。いや懐かしむのはまだ早いか…。なんとなく布団を畳んで、枕もしっかり配置して。まあ、流石に床のプリント類には手が出なかった。"今" 片付けるなら、別にもう二度見ないこれらを束ねて全て捨てればいいだけなんだけど。やっぱ面倒だった。


必要なものをかき集め15分。勉強机に置いたリュックの中には結局、予備の靴一足と音楽プレーヤー、お気に入りのSF小説2冊と昨日のおやつの残り(包装されたクッキー)、あとなんとなく着替え1日分が入った。着替えはかさばる。本当になんとなく入れた。あまり必要性を感じなかった。


いざリュックを持ち上げると机のマットの下に挟まれた2年前の思い出が顔を出して、泣けやしないけど、何か心に詰まるものを感じた。机の正面には高校の日程表が貼ってあり、決して日々が充実してた訳じゃないのに、いやそれだからか余計に悲しくなった。自分をからかって、憎らしいけど嫌いじゃない、愉快な同級生達の姿が思い出された。身勝手ながら今日で最後、お別れだね。皆、じゃあね…。先生方もどうか……。さっきの"今は懐かしむのは早い" とかどこいったんだろう…。まあ、いいや。さあ、そろそろ行こうか。



窓の外、暗闇の向こうでは細かな雨が落ち着いた音を立てて、奏を待っていた。

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