もう、呆れて何も言えません。
「誠!」
「凛!」
玄関を乱暴に開けてはいると、ちょうど靴を履こうとしている誠に出会った。
「凛、よかった……。リクから連絡あって今迎えに行こうとしたんだ」
「リク?」
なんでリク?
「この前電話で話しただろ? そのときにアオイちゃんから俺の連絡先聞いてって言っといたんだ。だから結構こっちで凛が何してるか知ってるんだよ」
「そうなんだ。知らなかったよ。あ、そうだ。誠……さっきはごめんね。嘘つきだなんて……。私、もう少し考えてみるよ。だから、さ」
「うん。別れるっていうのはなしにする。俺も若干混乱してて、気づいたらあんなこと言ってた……」
そう言って頭をポンポンしてくれる誠。
木梨くんには悪いけど、やっぱり誠のポンポンのほうが好きだ。
「誠、部屋でちゃんと話そう?」
「そうだね。俺さ、考えたんだけど……。遠くに離れない?」
「ん? どういうこと?」
「うーん……うまく説明できないんだけど、俺と凛が、簡単には会えないくらい遠くのところで暮らすって事。そしたら子供も作れないし凛も夢に向かって頑張れるでしょ?」
え、ちょっと待ってよ……。
「そうしたら、あの約束は……?」
「……」
俯いてしまった誠。
え、なんでそうなるの?
「ごめん、私バカだから誠の言ってる意味がよく分からないよ。やっぱり一緒に住むのはダメなの? 私達血は繋がってないんだから、内緒で子供作っても大丈夫じゃない? ねぇ?」
「それはダメだよ……」
「なんで……?」
「子供のこと考えてみろよ。大きくなってこのことを知ったら一番傷つくのはその子だ。だから、ダメだ」
「そっ……か……」
……結局、私達は幸せになれないんだ。
そんなの覚悟してたつもりだったけど、現実は思った以上に厳しかった。
「誠、ごめん」
「どうした?」
二人が幸せになる方法ってこれしかない。
「別れよう」
「は?」
――私は、一番ずるい『逃げる』という方法をとった。
さっき木梨くんの家を飛び出したときのような決意とは真逆の決意。
逃げるための決意。
ごめんなさい、誠。
さっき仲直りしたばかりなのにね。
本当、自分でも驚いてる。
「やっぱり、誠とは付き合えない。私にはこの現実が厳しすぎるみたい。本当にごめん。今までありがとう」
「……」
「……」
二人で何も話さず、刻々と時間が過ぎていく。
「わかっ、た。凛がそうしたいなら……。親父達には俺から言っておくよ。……凛、ありがとう」
「……ッ」
なんで、なんでそんな泣きそうな顔しながらありがとうなんて言うの……?
せっかく、泣かないようにしてたのに……。
「じゃあ……。次会ったら普通の兄妹としてよろしくね」
「……う、んッ」
泣き顔を見られたくなくて二階の自室に入る。
それから子供のように声を上げて泣いた。
自分で言ったことなのに。
自分で決めたことなのに。
私は弱い。
自分でも呆れるくらいに……。