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嘘つきは嫌いです。


「……」


「……」


「……」


「……」



気まずい!

昨日、私達のこれからのことを話すために今日の夜、話し合うことになった。

さっき誠が来て、リビングに全員集合ししたんだけど……。

誰も話さない……。



「……それで、お前らはいつから付き合っているんだ?」



やっとこの沈黙を破ったパパの声は、怒っているような、悲しいような、いろんな感情が交じり合ったような今まで聞いたことのない声だった。



「私が中三で、誠が高三のとき……」



私が答えるとパパは、そんな前から……と驚きを隠せないような表情をして俯いた。



「俺、凛を幸せにしたいんだ」


「そうは言ってもお前なぁ……。凛ちゃんとお前は兄妹なんだ。分かるよな? これから先結婚も出来ないし、いくら血が繋がっていないとはいえ子供も作れないんだぞ?」


「それは……!」


「誠。ママとパパはあなた達のことを心配して言っているのよ? 将来絶対に苦労する。凛だって保育士になるのが夢で今勉強してるんでしょ? もし保育士になれても子供達を見ているうちに自分の子供も欲しくなる。辛いだけだとママは思うわ」


「でも……。誠と一緒になれないなら保育士になんてならない!」



ママの言うことはもっともだと思う。

だけど今一番大事なのは誠だ。

誠と保育士どっち取るかって言われたら、誠に決まってる。

本当は保育士も小さい頃からの夢だったからなりたいけど……。

だってそのために今まで勉強してきたわけだしね。



「凛、それはダメだ」


「誠! どうして?」



私は誠と一緒にいたいから言っているのに、誠は違うの?



「だって凛、ずっと言ってたじゃん。保育士になって、いろんな子と接してみたいって。そのために今大学行ってるんでしょ? だからダメだよ」


「……」



じゃあ、どうすればいいの……?

誠を取ったら保育士はダメだし、保育士を取ったら誠と一緒にいられない。



「凛、誠。今日はもう終わりにするから良く二人で話し合いな。話はまた明日にしましょう。誠も今日は泊まっていきなさい」


「……わかった」



ママがそう言ってくれて助かった。

まだ考えがまとまっていなかったし、誠と話がしたかったから。

誠と二人で二階の私の部屋に入る。



「誠、なんで反対したの? ずっと一緒に居るって言ったじゃん」


「でも凛、保育士になるのずっと夢だったんだろ? 初めて会ったときも言ってたよ。俺は凛のそういうところに惚れたんだもん」


「だけど! ……私のせいで誠と別れるのは嫌だ」



……もう、何がなんだか分かんなくなってきちゃったよ。

保育士になっても自分の子供を欲しくならないって断言できない自分にも腹が立つ。

誠も黙ったままだし。

私、重いのかな? 嫌われちゃった?



「凛。凛が俺と別れたくないって思ってくれるのはすごく嬉しいよ。だけど俺のせいで凛の夢まで壊すのは違うと思う。結婚できないのは辛いけど、凛がずっと抱いてきた夢を捨てるのはもっと辛い。だからさ……どうしてもって言うなら……別れる」


「え……何言ってるの?」



嘘でしょ。

なんでよ。

別れないって昨日言ってくれたじゃん!

あの言葉は嘘だったの!?



「……嘘つき」


「え?」


「嘘つき……嘘つき、嘘つき!」


「凛、落ち着いて」


「触らないでよ! もう、誠もママもパパも大っ嫌いだ! 誠の馬鹿!」


「凛!」



もうヤダ!

溢れてくる涙を堪えて、階段を降り、家を飛び出した。

バイクに跨ってひたすら走る。


嘘つき。守れないなら約束なんてしないでよ……。

一緒に住むの……すごく、楽しみにしてたのに……。

今度の、クリスマス旅行も……。


涙で視界がぼやけて危ないと思ったけど、いっそトラックとかに轢かれてもいいかと思った。

もう、私には何もないんだもん……。

でも弱虫の私にはやっぱりそんな勇気はなくて、近くの公園に入って泣き止むのを待った。



「あれ? 佐々原さん?」


「……木梨、くん?」



声を掛けられて、顔を上げると木梨くんがいた。

いつもとは違うスウェット姿で、片手にコンビニの袋ぶら下げている。



「どうしたの? なんかあった?」


「……」



言ってしまおうか?

少しは楽になるかも知れない。

だけどやっぱりかっこ悪い姿を見せたくない。それにこんな私に相談されても木梨くんに迷惑がかかる。



「無理にとは言わないけど、話なら聞くよ?」


「迷惑、掛けたくないから……いい」


「迷惑? 佐々原さんそれ本気? 俺ら佐々原さんに頼ってもらいたいんだけど。『いつも辛いときに凛は我慢して、一人で抱え込んじゃう』ってアオイも言ってたし。少しで良いから相談して? 俺がダメだったら美香とか呼ぶし」


「そんなこと……」



みんなそう思ってくれていたんだ。

確か誠も同じようなこと言ってたな。

頼ってもいいって言ってくれる人がいるってこんなに幸せなことなんだ。


私は今までのことを全て話すことにした。

誠とは実は血の繋がっていない兄妹って事も、親に反対されていることも。

そして、別れを告げられたことも全部。

木梨くんは、終始黙って聞いてくれていた。

私が話し終わると、木梨くんはそっと私の頭に手を乗せ、そっか。辛かったね、とポンポンと軽く叩いてくれた。

それのおかげで収まり始めていた嗚咽がまた出てくる。



「木梨、くん。私っ、これから……ヒック……どうしたら、いいのかな……?」


「とりあえず、ここは寒いし、風邪引くから俺の家に来な」


「うん、わかった……」



優しい木梨くんに話してよかったと思う。

木梨くんに支えてもらってアパートにお邪魔させてもらった。



「佐々原さん。佐々原さんは誠さんのこと好き?」



適当なイスを用意してくれた木梨くんはそんなことを言い出した。

そんなの……。



「好きに決まってる」


「だったら、なんで誠さんが別れるって言ったのか分かるんじゃない?」


「……」



私の、夢のため。

誠も言ってくれてたけど、あの時全てが嫌になっていたから耳に入ってこなかった。

でも確かに誠は確かにそう言っていた。



「でも……私誠にひどいこと言っちゃった。だからもう嫌いになったかも……」


「そんなことないと思うけどな。さっきからずっと携帯震えてるし」


「え?」



ポケットに入れていた携帯を取り出すと、着信十件、メール五通の通知が表示されていた。

慌てて開くと、全部誠から。……気づかなかった。



「本当だ。私、急いで帰らなきゃ!」


「うん。バイクはリクたちに運ばせたから下にあるよ。急いで誠さんのところに行ってあげな」


「リクたちが、いつの間に……。木梨くん、ありがとう! 元気でた!」


「良かった。また辛いときは俺らに頼って良いから。じゃ、おやすみ」


「ありがとう。おやすみなさい」



木梨くんの部屋を出ると、一目散にバイクへと走った。

早くしないと!

下に行くと、なにやら少し汚い字で『何があったかは知らないけど、頑張れよ』と、リクの字で書いてある紙切れがバイクに張ってあった。

その下には、よっしーの丸っこい字もある。


リク、よっしー、ありがとう。


私はいろんな人に支えてもらっているんだって実感した。

今度からはちゃんと頼ってみよう。

そして家に帰ったら誠に謝ってちゃんと話をしよう。

そう思って急いで家へ向かった。




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