いよいよこの時がやってきました。
「……」
イスに座ってボーっとすること数十分。
いや、数時間?
とにかく長い間ボーっとしてる。
なぜって?
……計画が思いつかないー!
こんな目に遭ったのはもちろん初めてだし、でも今回は何が何でも成功させなきゃいけないし……どうしたらいいか全然分からない!
とりあえず、こんなときどうするか調べようと携帯の電源を入れるとメールが来ていた。
これ誰だろう?
知らないメアドだったけど、一応開くとすぐに正体は分かった。
『凛ちゃんに早く会いたいよ。今夜は楽しみだね』
なんで?
メアド調べたの?
というか、他人のメアドって調べられるの?
……でも、これでひらめいちゃった。
かなり危険だけど、試すしかないよね。
私は急いで返信メールを作り始めた。
――「ママ、ちょっとアオイの家行ってくる!」
「もうこんな時間よ? 明日にしなさい」
「今電話あって、アオイかなり落ち込んでいたみたいだから行かなきゃ!」
「……そう。じゃあ気を付けるのよ!」
「はーい」
携帯の時計をチェックすると午後九時三十分。
ちょうどいいかな。
「いってきます」
ママ、嘘ついてごめんね。
心の中で謝ってから外に出た。
たまにしか乗らないバイクに跨って駅へ向かう。
結構前だけど免許取っておいて良かった。
駅から家まで近いので約十分で着いた。
だから駅周辺を軽く見回る。
見回りしていると、なんとなく怪しい感じの人物がちらほら。
あ!
もうすぐ十時だ。
バイクを見えないところに置き、わざわざ遠回りしてコインロッカーへ向かう。
「これか……」
意外と歩いてすぐのところに、鍵と同じ番号のロッカーを見つけた。
すると、後ろから男の人の声が。
「凛ちゃんだね」
「!」
後ろを振り向くと、若いサラリーマンの人。
思っていたのと全然違う。
さっき見た怪しい人たちは全部ちがかったみたい。ごめんね。
あの気持ち悪かった人に会っているのに、冷静な自分に少し驚いた。
「こんばんわ」
「ははっ! 堅いなぁ」
「すいません。あの、この中身は何ですか?」
ロッカーを指差して聞くと、ニヤッと気持ち悪い笑みを浮かべて、開けてご覧、と言った。
軽く悪寒が走ったけど、気のせいとして鍵を開ける。
でも普段ロッカーを利用しないため、若干苦戦していると……。
「きゃ!」
「そんなに驚かないでよ。君も僕のこと愛しているんだろう?」
気持ち悪い……!
後ろから抱き着いてきた変態男。
耐えなきゃ!
「ご、ごめんなさい。ちょっとビックリしちゃって。これ、開けられないんですけど、開けてもらえませんか?」
これは本当だったけど、変態男に離してもらう口実になったから良かった。
ってか、本当に……気持ち悪い。
いつまで精神がもつか分からない。早く終わりにしなきゃ。
「しかたないなぁ。凛は甘えん坊だから」
「……ち悪……」
「ん?」
「あ! なんでもないです。中身なんだろうなー?」
「楽しみにしててね」
危ない。
だって凛とか呼び捨てにしてくるんだもん!
何度も言うけど、気持ち悪い!
変態男が鍵を開けて、中身を取り出した。
なに、これは?
変態男が取り出したのは、おしゃぶりや、哺乳瓶などの赤ちゃんが使うグッズ。
「これは……?」
「僕達の子供用のやつだよ。僕はね、女の子だったら凛花で、男の子だったら悟がいいと思うんだ。僕の名前が賢悟だからね。いい名前だろう?」
「……そうですね」
気持ち悪いー!
勝手に名前とか付けないでよ!
あんたの子供なんか誰が生むか!
「そろそろどこか行きません? ファミレスとか?」
「お腹が空いたの? しょうがないなぁ。でも僕電車なんだよね。凛は?」
来た。
「バイクです」
「えっ! バイク乗れるの?」
「はい。後ろ乗りますか?」
「凛の後ろかぁ。いいねー」
「では、こっちです」
さっき隠した場所に案内すると、変態男は驚いていた。
「こんなのに乗ってるんだ! 大きいね。というか、なんでこんなに人から見えないところに隠しているの?」
「このバイク珍しいやつらしいから、盗まれちゃうんです。さ、ここ座ってください」
「うん」
変態男がバイクの後ろに座る。
やっと、この瞬間が来た。
「ちょっとすいませんね」
足をバイクに縄で固定して、手にこの前アオイがふざけて持ってきて、そのまま置いていった手錠をする。
そして男のポケットに入っていた携帯を取り出し、自分の携帯にデータを送る。
変態男は戸惑っている様子。
「な、なにをしているんだい?」
「賢悟さん、でしたっけ? 私、あなたのこと知らないし気持ち悪いです。今後、私に付きまとうようでしたらこの携帯の情報と、今までにもらった物を証拠に警察行きます。あなたまだお若いから将来もあるでしょう。どうするんですか? こんなことで将来潰すんですか?」
耳元で、出来るだけ狂気に満ちた声で話す。
そうすると変態男は焦りだし、悪かった! だから許してくれ! 警察だけは! などと喚きだした。
よし!
「今後、私に付きまとってみてください。私の親戚にあんまり言いたくないけどアッチ関係の人が居るんですよねー……。あなたのおかげでフルネームも住んでいる場所も分かっているんです。いつでも消すことは出来ますよ? どうですか? 一発。それが嫌だったら今すぐここから立ち去れ」
「は、はい!」
やった!
成功!
もちろんアッチ関係の人なんて居ないけどね。
最後に出来るだけ低く言ったのが良かったのかな。
足と、手の拘束を解くと転びながら逃げていった。
もうこれでアイツが来ることもないかな。
……あ。携帯返すの忘れた。
ま、いっか。
とりあえず誠に報告しなきゃ。何も話さないっていうのはダメって前に分かったからね。
でももう遅いし、家に帰ってからするか。
そう思ってヘルメットを被ろうとすると、なにかが頬を濡らしていた。
「え……?」
なんで私、泣いているの?
自分で思っていた以上に無理してたのかな。
泣いていることを自覚した瞬間、涙が止まらなくなり嗚咽まで込み上げてきた。
最近泣いてばかりだな。
みんなと出会ってから泣き虫になったよ。
ヘルメットを被ってバイクを走らせる。
夜に走るのってこんなに気持ち良かったんだ。
家まで遠回りして帰った。
その頃になると、泣いた跡もなくなっていて家に入るとママが迎えてくれた。
「おかえり。もう全部終わったの?」
「え?」
私が聞き返してもママはただ微笑むだけ。
やっぱり全部お見通しだったのか。
「終わったよ」
「そう……。お風呂入ってもう寝ちゃいなさい」
「うん。ママ」
「ん?」
「勝手にごめんね」
「いいのよ。でももう無茶はやめてね」
「うん」
二階の自分の部屋に戻り、お風呂の準備をしてお風呂に向かった。
本当に今日はいろいろあった。
誠への報告はやっぱり明日ゆっくりでいいかな。
みんなにも心配かけちゃったし。
今日は早めに休もう……。