学校の日、死の日
静かな教室。
――静かすぎて、むしろ息が詰まるほど退屈だった。
教室の前には一人の女性が立っていた。黒板に書かれている内容から察するに、この授業は数学らしい。
何人かの生徒はうとうとしている。
何人かはペンを指でくるくる回している。
他の連中はこそこそおしゃべりしていた。
教師は特に気にしていないようだった。眠たそうな表情を見る限り、彼女自身も生徒と同じくらい退屈しているように見える。
まるで、ただのいつもの一日であるかのように。
教室の後ろの席では、一人の少年が頬杖をついて座っていた。
彼の目は黒板ではなく――
その上にあるものを見つめていた。
壁に掛かった時計だ。
彼はため息をつく。
(この後、化学かよ……)
(なんなんだよこのクソ学校)
(朝から数学二コマやって、そのあとすぐ化学?)
(拷問するなら最初からそう言えっての!)
彼は横にちらっと視線を向けた。
隣の男子は手で顔を半分隠しながら――よだれを垂らしていた。
(トミー、もう寝てるし……)
デイビッドは小さく笑い、視線をまた動かす。
今度は――一人の女子へ。
彼女は綺麗だった。
いや、綺麗という言葉では少し違う。
まるで雑誌からそのまま出てきたモデルみたいだった。
(告白してみようかな……)
(俺みたいなのでも可能性あるのか?)
彼はまたため息をつき、椅子にもたれかかる。両手を後頭部で組んだ。
(でも……上級生たち、もうジュリアン狙ってるしな……)
(俺が告白したら、ほぼ自殺みたいなもんだろ……)
彼は目を閉じて、苦笑した。
(クソみたいな人生だな……)
「デイビッド!」
教師の声に、彼は飛び上がるほど驚いた。危うく椅子ごと後ろに倒れそうになる。
彼は慌てて立ち上がった。
「は、はい! なんですか先生!?」
「今言ったこと、もう一度言ってみなさい!」
教師は彼を指さした。
クラス全員が彼を見た。
ジュリアンも含めて。
「えっと……あの……」
デイビッドは素早く友達の方を見る。助けてくれと無言で訴える。
「どこ見てるの? トミーに聞いた? あなたに聞いたのよ!」
「話してる時は私を見なさい!」教師は怒鳴った。
トミーは唇を噛み、どうしようもないというように首を振った。
デイビッドは固まる。後頭部をかいた。
「ねえ……」
デイビッドは振り向いた。
隣の席の女子が、彼の袖を軽く引いていた。
「平行線のもう一方の直線にできる同位角の大きさは?」
彼女は小声でささやいた。
救命ロープのように、デイビッドはすぐそれに飛びつく。
「えっ! 平行線の同位角について聞いてたんですよね!」
「じゃあ答えは?」教師がさらに聞く。
「えっと……それは……」
デイビッドはまた彼女を見る。
しかし彼女が答えをささやく前に――
「エマ! これ以上答えを教えるんじゃありません!」
「自分で答えさせなさい!」
エマは静かに俯いた。
最後の希望が潰えたのを見て、デイビッドはゆっくり教師の方へ向き直る。
「僕は……
わかりません……」
「でしょうね」
教師は鼻で笑い、腰に手を当てた。
「勉強もしないし、授業中はいつも上の空!」
「廊下に立ってなさい!」
「チッ……またこれかよ」デイビッドは小声でつぶやいた。
「今なんて言った!?」教師が鋭く言う。
「何も言ってません!」デイビッドはすぐ返した。
「外へ。今すぐ!」
「行きますよ!」
彼は椅子をガタンと引き、机の間を歩いていく。
クラス全員がまだ彼を見ていた。
顔が真っ赤になる。
「クソ数学ババア……」
今度はもっと小さな声でつぶやく。
彼はドアノブを握る。
カチッ。
バタン!
「はい、みんな。彼は無視して続けましょう」
教師は言った。
「授業を続けます」
***
廊下。
デイビッドは壁にもたれ、ポケットからガムを取り出して口に放り込んだ。
(あのクソババア……)
(さっさと辞めて家で子育てでもしてろよ)
「はぁ……」
彼はため息をついた。
目を閉じて、頭を後ろに傾ける。
(そういえば……)
(エマ、けっこう可愛いよな)
(でも他の女子はいつも彼女をハブってるし……)
(もし告白したら、ジュリアンに笑われるだろうな)
(クラス全員に……)
クンクン。
金属のような匂いが空気に広がった。
(なんだこの匂い?)
デイビッドは辺りを見回し、廊下の手すりへ歩いていく。
中庭の向こう、隣の校舎。
廊下を必死に走る生徒たちが見えた。
(体育の授業か?)
(なんであんな――)
彼は目を細めた。
ただ走っているんじゃない。
追われている。
他の生徒たちに。
その生徒たちは――
口の周りが血だらけだった。
しかも動き方がおかしい。
(あの動き……)
(なんだよ……)
(演劇の練習とか?)
グルルル……
デイビッドはびくっとして左を見る。
そこに一人の生徒が立っていた。
口の周りは血まみれ。
肌は青白い。
そして目は――
完全に狂っていた。
デイビッドは言う。
「お前、大丈夫か? 兄弟……?」
ガアアアッ!!
突然そいつは飛びかかり、デイビッドに噛みつこうとした。
「おい――!」
デイビッドは迷わなかった。
振り向いて走る。
(なんなんだよあいつ!?)
***
教室の中では、教師の授業が続いていた。
外で何が起きているか、誰も知らない。
トミーは窓の外をちらっと見た。
廊下を走る友達が見える。
目を見開く。
デイビッドが――
血まみれの誰かに追われている。
***
「もう追ってくんなって言ってんだろ!!」
グラアアアッ!!
デイビッドは階段へ向かって全力で走り、後ろを見る。
あいつがすぐ後ろまで来ていた。
「クソッ――!」
最後の瞬間、デイビッドは横に避ける。
そいつは手すりに激突した。
デイビッドは両足をつかみ、そのまま押し出す。
「このクソ野郎!」
……
ドサッ!
(やば……殺したか?)
デイビッドは手すりから身を乗り出して下を見る。
そして――目を見開いた。
そいつが……
ゆっくり起き上がっている。
頭を持ち上げる。
そして真っ直ぐデイビッドを見る。
そのまま――
また登り始めた。
「うわ、マジかよ!!」
デイビッドはパニックで後ずさる。
ドン。
足が滑った。
そいつはもうすぐそこまで登ってきている。
デイビッドの足は力が抜け、麺のようにふにゃふにゃだった。
立ち上がれない。
だから彼は後ろへ這って下がる。
目をそらすこともできない。
ガァァァ……
「お、おい! 落ち着けって――!」
この短編は、昨夜見た悪夢から書きました……
もしこの物語をもっと広げてほしいと思ったら、ぜひ教えてください。
ちょっと仕事で忙しいので、正直に言うと、できればこのままにしておこうかなと思っています(まだ、これにもっと時間をかける価値があるかどうか分からないので…すみません)。
なので、もしこの物語に興味がある人が多ければ、シリーズ化するつもりです。
この話はオープンエンドで書いていて、すでにいくつかのキャラクターやアイデアも頭の中にあります。
何か反応をもらえたら、本格的に取り組みます。




