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杏夏とともに、薫は車に乗り込んだ。
「杏夏さん、多分瑠衣は魔法の国に向かったと思う」
「あーなるほど、確かにもう1つの鍵は魔法の国にあるからね。だとすると、駅に行けばいい感じかな?」
「多分そう、違ってたらごめん」
「大丈夫大丈夫!さあ行こう!」
車を十数分走らせ、駅に着いた。
「うんうん、装置もちゃんと瑠衣ちゃんの魔力に反応してる。とりあえず改札通っちゃおう!ほらこれ薫君の定期券」
「何で僕の定期券を杏夏さんが持ってるの……?」
「う、うーん、まあちょっと独自のルートで?」
怪しいことこの上ない。だが今は杏夏を信用するしかない。
改札を通りホームへの階段を駆け下りた。
「あっ、瑠衣だ!」
ホームには瑠衣が並んでいた。
薫はホームの人の波をかき分け、瑠衣の腕を掴んだ。
「瑠衣!」
「……!」
瑠衣は一瞬目を見開いたが、すぐ腕を振りほどいてホームを走り出した。
駅にアナウンスが鳴り響く。
「電車が遅れております。ご迷惑をお掛けし申し訳ございません。繰り返します……」
「薫君、当分電車は来なさそうだし、とりあえず捕まえたらOKってことで!」
薫は頷き、薫と杏夏は瑠衣を追いかけた。
すると、巨大な鎌を持った女性が瑠衣の前に降り立った。
「アサカ……」
アサカと呼ばれた女性は眉一つ動かさず言った。
「よく取ってきてくれましたね。その鍵は頂いていきます」
「これは私が手に入れたの!あんたなんかに渡すわけないでしょ!そんなことしたら……」
「病気の妹が死んでしまう、でしょう?……私にも妹がいますし、そちらの事情は分かります。……ですが、私には関係ありません」
病気の妹?薫は杏夏と顔を見合わせた。
アサカは鎌を振り上げた。
「瑠衣、危ない!」
薫は瑠衣を突き飛ばしたその瞬間、ガラス片のようなものが薫の頬を突き刺した。
「痛っ!」
頬を触ると、濡れた。
「ガラスじゃない、氷だ……」
「薫君、大丈夫!?」
駆けつけた杏夏は、アサカにスプレー缶を向けた。アサカは顔色一つ変えない。
「……それは、魔力を変換するスプレー缶ですね。残念ですが、私の方がより魔術ランクが高いので、あまり効かないと思いますが」
「魔法が、効かない……」
薫は逡巡した。魔法が無理なら、物理は?
「申し訳ないけどくらえ!」
薫はスプレー缶をひったくり、そのまま投げつけた。
「きゃっ!」
バランスを崩したアサカは倒れ込んだ。その隙に、薫は瑠衣を引っ張り、杏夏とともに改札階へのエレベーターに乗り込んだ。
改札階に着くと、3人でエレベーターを降りた。
瑠衣はポケットの中を探った。
「ああ、やっぱりアサカに取られたわ、鍵」
「瑠衣はどうしてこんなことを?」
「はざまの塔で願いを叶えるためよ」
瑠衣は続けた。
「二宮藤子、ていう女がいるの。彼女は魔力が高いから、願いを叶える装置の目の前まで行けるんだって」
薫は唾を飲み込んだ。杏夏から聞いた名前、そして研究室で会った女性と同じ名前だ。
「魔力が高くないと装置の目の前に行けないの?」
「そうね、強い魔術防壁があるから、対抗出来るだけの魔力がないと進めないみたい。あるいは、魔力が全くない人も防壁に邪魔されないから進めるようだけど」
瑠衣は壁にもたれかかった。
「手下たちの中で貢献度が最も高い者に、装置を使ってなんでも願いを叶える権利を与えると言っていたの。私も手下だし、さっきのアサカ=クレッセントっていう女も手下の1人。正直アサカは自力で装置にたどり着けるはずなんだけど……」
杏夏が尋ねた。
「これから二宮はどうするつもりか、瑠衣ちゃん分かる?」
「今度は魔法の国の王宮に乗り込んで、女王から鍵を奪うつもりみたい」
薫は口を開いた。
「じゃあ、魔法の国に行かなきゃいけないってことだよね、杏夏さん」
「そうだね、二宮に鍵をとられる前に確保しなくちゃ」
それを聞いた薫は瑠衣に向き直った。
「行くところがないなら、ついてきて協力してくれないかな?」
「ありがたいけど、私は行かないわ」
瑠衣はポケットに両手を入れた。
「待たなきゃいけない人がいるし。だから私はいいのよ、二人で行ってきなさい。……幸運を祈るわ」




