5
翌日、杏夏は帰って来た。
薫はこれまでの顛末を話した。
「……というわけなんだ。……ごめんなさい、引き出し開けちゃって…」
「うーん、もうそれはいいよ、いいんだけど……取られたのはちょっと厄介だな……」
杏夏は丸眼鏡を上げた。
「実はね、君と私はあの鍵を取り返すために、二宮藤子という人物を追っていたの」
「それは誰?」
「鍵を手下に集めさせて、自分の願いを叶えようとしてるの。それがなんなのか分からないけど……少なくともあんまり良い願いじゃないのは確か」
「願いってどういうこと?」
「ああ言い忘れてたね、はざまの塔っていう場所に願いを叶える装置があるんだけど、その装置の部屋を開けるために白い鍵と黒い鍵が必要なんだ」
そこで一度言葉を切り、杏夏は続けた。
「白い鍵は一度取られちゃったから、取り戻したところだったの」
「そう……だったんだ」
「でもまあ覚えてないのはしょうがないし、今回のことは気にしないで!それでも、赤盛さんから取り返す必要はあるから、手伝ってもらえると嬉しいんだけど」
「分かった、手伝うよ。僕は何すればいい?」
「とりあえずB-23のキャビネットに入っている機械を取ってきてほしいな」
「B-23だね」
薫は部屋を出て行った。
「鯨井、お前」
杏夏が振り向くと、白林が不機嫌そうに立っていた。
「……何でしょう」
「いくら薫の記憶がないからといって、あんな嘘をよくも……」
「あとで埋め合わせはします」
杏夏はぽつりと呟いて、薫のもとへ走っていった。
薫は機械を取り出しているところだった。
「ありがとう薫君!」
「これって入構証の管理システムだよね?」
「そうそう、入構証があれば居場所が分かるんだよね!よし、ここをこうして認証して……出た!……あれ、すぐそこの廊下?」
「入構証、捨てられてるっぽいね」
「そっか~まあ普通そうだよね~。仕方ない、これ使って追いかけよう」
杏夏はハガキの半分くらいのサイズの箱を取り出した。
「それ何?」
「魔力の残滓を探す装置。ちょっと出かける準備してくるから待ってて!」
杏夏は走って行ってしまった。
「……薫!?」
振り返るとそこには薫より少し歳上に見える女性がいた。
「ええと……もし前に会っていたら申し訳ないのですが…どなたですか?」
女性ははっと目を見開いたが、すぐ元の表情に戻った。
「……二宮藤子。それが私の名前」
「二宮藤子……!?どうしてここに?」
「どうしてってそれは……荷物を取りに来ただけよ」
「ここの研究員なんですか?……というか何故僕の名前を?」
「従姉妹。従姉妹なのよ、私達。私は隣の研究室にいるんだけど、これから長期休暇を取るから……」
藤子は薫の持つ装置に目をやった。
「その装置を使って、赤盛さんを探すんでしょう。彼女なら魔法の国に向かったはずよ。ここからだと列車で国境まで行くのが近いわね」
「貴女が瑠衣を従えているんじゃないんですか?なぜ瑠衣の居場所を?」
「別に従えているわけじゃないわ。何となくそういう流れになっただけ。じゃあ、もう行くね」
藤子はドアノブを掴むと、小さく呟いた。
「『薫の回復』……その願いはもう良いわ。本当に叶えたかった願いを、叶える」
薫にはその呟きは聞こえなかった。




