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ここ、科学の国では若いうちから研究所に入るのはそう珍しいことではない。薫もその例に漏れず15歳の頃から第7研究所で魔法やエーテルの研究をしていたのだと、杏夏は説明してくれた。
「君も私も白林教授のチームで研究してたんだよ。魔力とか魔法そのものの仕組みとか…」
「白林教授?」
「そう、魔法研究の権威って言ってもいい人かな。魔力測定の機械を開発したの」
杏夏はそっと付け足した。
「正直、気難しいっていうか……副リーダー的存在の蔵中准教授の方が接しやすい」
「鯨井さん、多分だけど、白林先生にがっつり聞こえてるよ」
そう言いながら男性が歩み寄ってきた。薫はその顔に見覚えがあった。
「政臣さん!?」
「退院おめでとう、薫君。回復して良かったよ」
政臣はにこりと笑ってそう言った。
「どうしてここに……というか、准教授!?」
「そういえば言い忘れてたっけ。僕は鯨井さんの言う通り、准教授だ。そしてあちらにいらっしゃるのが噂の白林先生」
政臣はそう言ってコーヒーを飲んでいる男性を指した。
「…………ふん」
白林はこちらを一瞥すると、部屋を出て行ってしまった。
「白林先生も『退院して良かったね』くらい言えばいいのにね……あの人、いつも君にはああだけど」
「僕、もしかして嫌われてます?」
「いや、嫌ってはいないと思うけどね。実際、魔力測定器は君がいなかったらここまで早く形になっていないし。ただ、別に君は何も悪いことはしていないけど、何となく君を避けてるだけだよ」
「それを嫌われていると言うのでは……」
「はは、そうかな。そうかも。まあ、あんまり気にしないで」
政臣はくすくす笑った。
「そうそう、薫君と鯨井さんに紹介しておきたい子がいるんだ。最近配属された助手の、赤森瑠衣さんだよ」
瑠衣は素っ気なく
「どうも」
とだけ言った。
「初めまして、水本薫です」
「鯨井杏夏でーす。……でも蔵中先生、助手を入れるなんて初耳なんですが」
「ああ、うん。葵さんの代わりにね。彼女、長期欠勤してるから……」
すると突然背後から声がした。
「薫」
「えっ、あっ、はい!」
振り向くと白林が怪訝そうな顔をしている。
「そんなに驚くか?」
「すみません、気配が全くなかったもので……」
「……まあいい。ところで薫、自分の研究についてはどれだけ覚えている?」
「まったく……」
「そうか、それなら」
白林は書類の山をどさっと置いた。
「この文献をすべて読んでおけ。それから後で送るデータにも目を通して、レポートにまとめろ。終わるまで自分の研究には戻らせないからそのつもりでいるように」
それだけ言って白林は足早に去っていった。
杏夏と政臣は顔を見合わせた。とんでもない書類の山だ。これを一度に一人で持って来た白林とは……。
「うわあ、これ……基礎的なものばっかりだけど大体1年かけて読む量だね」
「白林先生にも多分考えがあるだろうから……恨まないであげて。質問にはなんでも答えるからね」
そういわれても恨めしい。




