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目を開けると、白い天井が見える。薫の右腕には点滴の針が刺さっている。
「薫君?目を覚ましたの?ここ病院よ、分かる?」
看護師が薫の顔を覗きこんだ。だが返事をしようにも、すぐに声が出てこない。とりあえず頷くと、首の骨が軋む感じがした。
「詳しくは後で説明するわ。とりあえず先生を呼んでくるわね」
看護師は慌ただしく病室を出ていってしまった。
1人残された薫は、窓の外を見た。景色からするとここは「科学の国」だろうか、機械じみた建物が規則正しく並んでいる。何故ここにいるのだろう。思い出そうとしても、頭がズキズキと痛んで集中できない。
一通り診察が終わって、薫は看護師から渡された水を飲みながら先程医者が言っていたことを思い出していた。
「僕は、水本薫。17歳。5日前に事故に遭って病院に運ばれてきた…」
それが、医者に教えられた薫の「すべて」だった。薫には、今のところそれしか自分を確認する手段はなかった。
薫は記憶喪失になっていたのだ。
看護師が尋ねた。
「事故のことは覚えてる?」
「いえ、全然……交通事故とかですか?」
「さあ、それが……周りには何もなかったし、事故ではあるんだろうけど、どういう事故なのか分からないのよ」
怪我がこの程度で済んでまだ良かったわ、と看護師は言うと、空になったコップを片付けに行ってくれた。
しばらくするとガラッとドアが開いた。
「薫君!良かった、心配してたんだよ!」
入ってきたのは若い男性だった。
「……どちら様ですか?…」
「ああ、記憶喪失とは聞いてたけど、本当なんだな。僕のことは覚えて…なさそうだね?」
「……すみません」
「うん、そうか。謝ることはないさ。俺は蔵中政臣。君との関係は……なんていうか……近所のお兄さん、かな?幼馴染なんだ」
政臣はてきぱきと紙袋やパンを置いた。
「これは着替えね、それからこっちは暇つぶし用の本。あとこれはさっき売店で買ったパン。美味かったよ」
「ありがとうございます」
なんだか普通に受け入れてしまっている。本当に幼馴染、ということなのだろうか。
「薫君、多分家族のことが気になってると思うけど、君のお父さんはちょっと今の連絡先が分からないんだ……お母さんには連絡しておいたけど、ピンときてなさそうだったしお見舞いとかは来ないかも。悪気はないけどね」
なるほど、それで近所のお兄さんが世話をしに来てくれたのか。
「それと、葵……君のお姉さんだけど」
「僕に、姉が?」
「うん、そう。俺はどっちかというと葵の幼馴染って感じかな。葵は……端的に言うと今は行方知れず」
「僕の家族って一家離散とかしてるんですか?」
「いやいや!そうじゃないんだ。確かに君のお父さんはよく番号変えるしお母さんはあまり家に帰って来ない人みたいだけど、一応離散はしてない。ただ葵までいなくなるのはイレギュラーでね……」
政臣は窓に目を向けて言った。
「薫君の事故と同時期にいなくなっちゃったんだ」




