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部屋に入ると、そこには装置と思われる機械しかなかった。
「さて、次ハあなたノ番でスね」
「ここに水本葵という人が来なかったか?」
「はい、先ほど願イを叶えまシタ。その代償とシテ、彼女ノ存在をいただキましタ」
「……彼女はどんな願いを?」
「『魔法なんて消えてしまえ』ト……叶えルには世界への影響ガ大きスぎるため、当然ノ代償です」
部屋は何の物音もしない。目の前の機械は首を少し傾けた。
「そレで、あなたノ願いハ?」
「僕は……」
薫は唇をかんだ。ゆっくり目を閉じ、息をつく。
僕の願い。それは何だろう。不完全な記憶を取り戻したい?それを願わないと言えば嘘になる。でも、今叶えるべきはきっと違う。
目を開き、機械を見据えた。
「僕は水本葵と……姉さんと、生きて帰りたい」
「そうなルと、先ほどノ水本葵さンの願いは叶えられナくなリますが……」
「それでいい。姉さんのことは今でも何も思い出せないけど……きっと許してくれるはずだ。許してくれなかったら、また喧嘩でもするよ」
機械の中心の歯車がぐるぐる回り始めた。
「それでハ、そノようニ。代償とシて、あなたが思い出スはずダった記憶をいただキます」
薫は頷いた。歯車は見えないほどのスピードで回り始め、部屋が光に包まれる。
あまりのまぶしさに薫は目を閉じた。光が弱まり、薫が目を開けるとそこには葵がいた。
「何これ。どうして、私がここに……」
「ごめん、姉さんの願いはなかったことにさせてもらった」
「はあ!?何やってるの!」
「記憶が消えたのは魔法のせいだとしても、それで魔法を使う人達から魔法を奪っていいことにはならない」
葵は目を伏せ、ぽつりと呟いた。
「記憶を失う前も同じこと言っていたわね。でも……」
葵は叫んだ。
「薫はなんで自分が意識を失うほどの怪我をしたと思っているの?魔法のせいよ!私が暴発させた魔法が薫の頭に当たったの!研究室でだって、あなたの身体は魔法の実験に使われた!子供の頃だって、魔力のない希少な存在だからって薫はしょっちゅう狙われた!それもこれも全部魔法が、」
「それってさ」
薫は苦笑した。
「それって、全部魔法がどうこうっていうよりただ僕が魔法がらみでひどい目に遭ったとか遭いそうになったっていう話じゃん。いいよそんなの、もう何も覚えてないし、二度と思い出すこともないし」
「でも……」
「そんなことより、僕は姉さんとここから生きて出たい!もう姉さんとの過去は思い出せないけど、姉さんと思い出を作り直したい!」
葵はまだ何か言いたそうに口を開いたが、しばらく逡巡して、あきらめたようにため息をついた。
「……そう。そんなに言われたら仕方ないわね。分かった、私が悪かったわ」
そして、葵は手を差し出した。
「帰りましょう、薫」
薫は手を取り、笑った。
「帰ろうか、姉さん」




