表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リコリス・ミッドナイト・ヘブン  作者: ネオもろこし
千年の黄昏(ミレニアム・トワイライト)編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/78

第二十三話「螺錠門の決闘」2

第二章 術式解体(コード・ブレイク)


「……硬いッ!」


 白雪美流愛(しらゆき みるあ)が、悔しげに舌打ちをした。 彼女の手首から伸びたマイクロフィラメント・ワイヤーが、十二神将の一体――巨像のような鎧武者の首を捉え、締め上げた瞬間だった。キィィィン、と耳障りな高周波音が響き、鋼鉄の糸が弾かれたのだ。


 物理的な装甲の硬度ではない。 甲冑の表面に張り巡らされた、不可視の膜。幾重にも重ねられた呪術的な障壁(バリア)が、あらゆる物理干渉を拒絶し、無効化している。


「嘘でしょ……!? 私のワイヤーが通じないなんて!」


 美流愛がバランスを崩す。その隙を突き、神将が巨大な金棒を横薙ぎに振るった。 風圧だけで肌が切れるほどの質量攻撃。


「お姉様!」


 白雪亞莉愛(アリア)と白雪華琉愛(カルア)が、身を挺して前に出る。 双子のナイフが金棒を受け止めるが、その衝撃は彼女たちの細い腕をきしませ、後方へと吹き飛ばした。


「ぐぅッ……!」


「申し訳ありません……お姉様……!」


「アタシの雷も吸われた!」


 辰巳響(たつみ ひびき)が、焦げた拳を振るいながら悪態をつく。先ほど放った渾身の雷撃は、門の前に立つ別の神将が掲げた大盾によって、完全に遮断されていた。 盾の表面に刻まれた梵字が怪しく明滅し、高圧電流をどこかへと逃がしていく。アース線のように、あるいは底なしの沼のように。


「グルルル……!」


 喉の奥で駆動音を鳴らしながら、神将たちが進軍してくる。 その一歩ごとに、石畳が悲鳴を上げ、空気が重く澱んでいく。


「チッ、図体がデカい割に小賢しい真似を!」


 久遠灯(くおん あかり)が、正面から突っ込んだ。 彼女はM500を連射し、神将の兜の隙間――センサーアイと思われる部位を狙い撃つ。 着弾。爆発。頭部が吹き飛び、黒いオイルと紫色の煙が噴き出す。


「へっ、ざまぁ見ろ!」


 だが、灯の勝利の笑みは、瞬時に凍りついた。


 吹き飛んだはずの頭部が、陽炎のように揺らめいたかと思うと、次の瞬間には元通りに再生していたのだ。 傷口から溢れ出したドロリとした呪力が、鋼鉄の細胞を高速で再構築していく。 まるで、時間の巻き戻しを見ているような、生理的な嫌悪感を催す光景。


「な……ッ!?」


 灯が驚愕に目を見開く間に、再生した神将が腕を振り下ろした。 避けきれない。 灯は咄嗟に身を翻すが、衝撃波だけで吹き飛ばされ、地面を転がった。受身を取って立ち上がるが、その顔には焦りが滲んでいる。こいつらは、ただ硬いだけではない。 終わらない悪夢だ。


「ダメです!」


 空中に浮かぶ天羽祈(あもう いのり)が、悲痛な声を上げた。彼女は『祈りの魔天子』となり、灰色の翼を広げて戦場を俯瞰していたが、その魔眼には絶望的な光景が映っていた。


「門が……あの『螺錠門』そのものが、巨大なエネルギータンクになっています!」


 祈が指差した先。 朱塗りの楼門が、脈打つように明滅している。その巨大な螺旋構造は、ただの装飾ではなかった。地下深く、京帝の心臓部である『大龍穴』から湧き上がる龍脈の奔流を吸い上げ、増幅し、十二本のパイプラインを通じて神将たちへと供給する、巨大な増幅器(アンプ)


「あの門から力が送られ続けている限り……彼らは何度でも蘇ります! 無限のエネルギーを持った、不死身の軍団です!」


「……マジかよ」


 響が唇を噛む。 口の中に鉄の味が広がる。 彼女もまた龍脈の化身だが、東帝都のアシュラツリーによって力を吸われ、弱体化させられている。本物の神の力が枯渇し、偽物のシステムによって作られた人形たちが、神の力を無尽蔵に食い荒らしているという皮肉。


「クソッ、やっぱりアタシの力じゃ、この土地の呪いには勝てねぇのかよ!」


 響の拳から、力が抜けていく。 自分の故郷であり、自分を拒絶した土地。 その呪縛が、数千年の時を経てなお、彼女を縛り付けようとしている。


「属性反転も通じません! 結界の密度が高すぎて……私のフィールドが押し負けてしまいます!」


 祈が必死に杖を振るう。 展開した極彩色の領域は、神将たちが放つ濃密な紫煙に侵食され、ガラス細工のように砕け散っていく。圧倒的な「量」の暴力。 個の能力がいかに優れていようと、都市そのものが持つエネルギー総量には敵わない。


 科学も、魔術も、神の力さえも通じない。京帝1000年の技術の結晶、烏丸保憲の執念が、絶望的な壁となって私たちの前に立ちはだかっていた。


「……嘆くな、ポンコツ龍神」


 戦場の喧騒を切り裂いて、不釣り合いなほど冷静な声が響いた。鉄鏡花(くろがね きょうか)だった。


 彼女は、飛び交う斬撃と呪符の嵐の中、一歩も引かずに立ち尽くしていた。 その手には武器はなく、ただ一台の携帯端末が握られている。周囲で爆発が起き、破片が頬を掠めても、彼女は瞬き一つしない。


「力で勝てぬなら、知恵を使え。……それが、我々が人間である所以だ」


 鏡花の義眼が、高速で明滅する。緑色のデータストリームが、彼女の網膜を滝のように流れ落ちていく。彼女が見ているのは、十二神将の動きではない。 この空間に満ちる「呪力の波長」だ。


 螺錠門から供給されるエネルギーの流れ。神将たちの身体を構成する術式の編み目。そして、この場を支配する結界の周波数。 それら全てを「数値」として認識し、膨大なデータをリアルタイムで処理していく。 呪術という非合理な現象を、科学という論理のメスで解剖する。


「なっ……お前、この状況で計算してんのかよ!?」


 灯が、瓦礫の陰から叫んだ。正気ではない。 一歩間違えば即死する戦場のド真ん中で、数式を解いているようなものだ。


「当然だ」


 鏡花は、端末の画面を指で弾いた。その指先には、迷いも震えもない。


「呪術もまた、法則(コード)に過ぎない。……どれほど強固なシステムであれ、構築されたものである以上、必ず構造上の弱点(セキュリティホール)が存在する」


 彼女の脳内(ブラックボックス)で、数千、数万のシミュレーションが実行され、破棄されていく。 力押しでは勝てない。 持久戦でも負ける。 ならば、敵のシステムそのものをハッキングし、内側から崩壊させるしかない。


「……見つけたぞ」


 数秒の沈黙の後、鏡花が呟いた。 その瞳に、確信の光が宿る。


「再生サイクルの隙間だ。……エネルギーが供給され、実体化するコンマ数秒の遅延(ラグ)。そこが、この鉄壁の唯一の綻びだ」


 鏡花が、インカムに向かって鋭く指示を飛ばす。 それは、指揮官の命令であり、執刀医の指示だった。


「美流愛! 響! 座標X-20、Y-50へ同時攻撃だ! ……そこが結界の継ぎ目だ!」


「X-20……?」


 美流愛が視線を走らせる。鏡花の指示した場所は、神将たちの足元でも、急所でもなかった。彼らの背後にそびえる螺錠門。その巨大な螺旋の基部、地面と接する一点。一見、何もないただの柱の根元。だが、鏡花の目を通せば、そこには微かに光の脈動が遅れ、エネルギーの渦が淀んでいる箇所が見えているはずだ。 肉眼では決して捉えられない、霊的な縫い目。


「あそこね……!」


 美流愛が即座に反応する。理由は聞かない。根拠も求めない。 鏡花が「そこだ」と言えば、そこが急所なのだ。 それが、リコリス・バロックの信頼関係。


「了解! ……行くわよ、シスターズ! 私のステップについてきなさい!」


「はいっ、お姉様!」


「ラジャ! ……テメェの計算、信じるぜ!」


 響が地を蹴る。 科学者の冷徹な計算が、絶望的な戦場に、一筋の細く鋭い勝機(光)を描き出した。


術式解体(コード・ブレイク)、開始する」


 鏡花がエンターキーを叩くと同時に、反撃の歯車が噛み合った。

自分が読みたい物語を書いています。

可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。

(制作に関してAIを利用しています)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ