第十六話「籠の中のカナリア」3
第三章 愛という名の呪い
『籠愛舞姫』の多重投影が崩れ、ライブハウスに硝煙が立ち込める。 久遠灯、辰巳響、鉄鏡花、天羽祈。 彼女たちの乱入によって、形勢は一気に逆転した。だが、これは私の喧嘩だ。 彼女たちは、雑魚を掃除して舞台を整えてくれたに過ぎない。
「美流愛! 後ろは任せろ! お前は主役を張ってこい!」
灯がM500で牽制射撃をしながら叫ぶ。 私は親指を立てて応え、再び双子と向き合った。
亜莉愛と華琉愛。 私の遺伝子を受け継ぎ、私の技術を模倣し、私の過去を背負わされた、哀れな鏡像たち。 彼女たちは、まだ諦めていなかった。傷ついた身体を引きずり、機械的に武器を構え直す。
「ターゲット、再捕捉。……排除します」
「お姉様。……なぜ、そこまでして足掻くのですか」
二人の瞳には、依然として組織の教義が焼き付いている。 個を捨て、道具として生きることが至上の幸福であるという呪い。
「……わからない?」
私は、血で汚れた顔を袖で拭った。 乱れた髪をかき上げる。 その仕草は、戦場に咲く花のように美しく、そして傲慢だった。
「アリア、カルア。あんたたちは完璧よ。技術も、連携も、忠誠心も」
私は、消えかけていた改造ペンライトを強く握りしめた。光刃が、再び青白く輝き出す。
「でもね、アイドルとしては二流だわ」
「……?」
「あんたたちの歌には、愛がないのよ!」
私は地面を蹴った。 固有能力『殺戮舞踏』――発動。
世界がスローモーションになる。だが、今回のそれは、ただの高速戦闘ではない。かつて組織で教え込まれた、効率的で無駄のない殺人術ではない。 もっと泥臭く、即興的で、感情を爆発させるような、生きたダンス。
「見てなさい! これが『本物』の輝きよ!」
「来る……!」
アリアが叫び、ワイヤーを展開する。カルアが死角からナイフを振るう。 完璧な挟撃。 だが、私はそれを避けない。 リズムに乗って、体を回転させる。 ワイヤーがドレスの裾を切り裂き、ナイフが髪を掠める。 ギリギリの距離。 死と隣り合わせのスリルこそが、最高の演出。
「そこッ!」
私は、二人の攻撃の隙間に飛び込んだ。殺すためではない。 光刃を収め、無防備な両手を広げる。
「え……?」
双子の動きが止まる。予測不能な行動に、思考回路がフリーズしたのだ。 その一瞬の隙を突き、私は――
パシッ。
アリアとカルアの両頬を、両手で優しく包み込んだ。
時が止まる。 至近距離。 お互いの吐息がかかるほどの距離で、私は二人の瞳を覗き込んだ。そこにあるのは、恐怖と困惑。 まだ何色にも染まっていない、無垢なキャンバス。
私は、世界で一番可愛い笑顔を作った。嘘ではない。計算でもない。私という存在のすべてを賭けた、魂のファンサービス。
「可愛い顔してるんだから……そんな怖い顔しないで?」
私は、甘く、蕩けるような声で囁いた。
「私のために、笑って?」
それは、対象の脳髄を焼き切るほどの、強烈な自己愛と支配欲の塊。 絶対的なアイドルとしての「愛」の押し売り。 呪いの上書きだ。 烏丸が植え付けた「服従」という呪いを、私の「愛」という猛毒で塗り潰す。
ドクンッ。
二人の心臓が跳ねる音が聞こえた。 瞳から、洗脳の無機質な光が消えていく。 代わりに宿ったのは、熱狂。 かつて私が初めてステージで見た、あのファンの男と同じ色。信仰にも似た、絶対的な「好き」という感情。
「……きゅん♡」
アリアとカルアの膝から力が抜けた。二人は、私の手に頬を預けたまま、その場に崩れ落ちた。武器が手から滑り落ちる。 双子の脳内で、烏丸の命令コードが、「美流愛への忠誠」に書き換わった瞬間だった。
戦闘終了。『シスターズ』の他の個体は、灯たちによって無力化され、撤退していった。 残されたのは、私と、私の足元に跪く双子だけ。
「お姉様……尊い……」
「お姉様の汗……聖水……」
アリアとカルアは、頬を染め、身をよじりながら私を見上げている。その目は完全にイッていた。組織の洗脳が解けた反動で、私のファンとしての本能が暴走しているらしい。 いわゆる、重度のシスコン化だ。
「……おい美流愛。これどうすんだ」
灯が、呆れた顔で近づいてくる。響や鏡花も、ドン引きしている。
「知らないわよ。……まあ、バックダンサーくらいには使えるかしら」
私はツンとしながらも、二人の頭を撫でてやる。今まで誰にも撫でられたことのなかっただろう、冷たい銀髪。 これからは、私が撫でてやる。 私が、彼女たちの「鳥籠」を壊してやったのだから、責任は取る。
「ついて来なさい。……私の愛、一番近くで勉強させてあげるから」
その言葉に、双子は感極まったように叫んだ。
「「はいっ! お姉様!! 一生推します!!」」
雨上がりの逝袋。 『リコリス・バロック』に、新たに二人の(厄介な)妹分が加わった。 美流愛は溜息をつきつつも、その表情は満更でもなかった。自分と同じ顔をした少女たちが、自分を愛してくれる。 それは、彼女がずっと求めていた「自己肯定」の究極の形なのかもしれない。
「……あ、そうだ」
私はふと思い立ち、二人に告げた。
「あんたたち、名前は? アリアとカルアだけじゃ、寂しいでしょ」
「ありません。私たちは製造番号でしか……」
「じゃあ、今日からあんたたちも『白雪』よ」
二人が目を見開く。
「白雪……亞莉愛。白雪……華琉愛。……いい名前でしょ?」
「白雪……! お姉様と同じ……家族の名前……!」
双子の全身が、淡いピンク色の光に包まれた。 それは、ただの光学迷彩ではない。 私への愛が、彼女たちの魔力を変質させ、新たな異能へと昇華させた輝き。
「あぁ……力が……溢れてきます……!」
「これなら……お姉様の幻影をもっと完璧に……!」
固有能力『真愛幻影』。愛する対象(美流愛)の姿を完璧に模倣し、実体を持った幻影を作り出す能力。 それは、かつて私を殺そうとした技が、私を守るための最強の盾へと進化した証だった。
「……私のファン、殺したら承知しないからね」
美流愛は、背後をついてくる双子に釘を刺す。二人は「はい!」「命に代えても!」と敬礼する。
硝子の街に、歪で、騒がしく、そして少しだけ温かい姉妹の愛が響き渡る。 籠の中のカナリアはもういない。 空を自由に飛び回る、最強の歌姫たちがそこにいた。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




