第十六話「籠の中のカナリア」2
第二章 模造品のワルツ
「逃げて! 全員、外へ!」
私の叫び声に、ファンたちが我に返り、出口へと殺到する。 ライブハウスはパニック状態だ。 だが、私は逃げるわけにはいかない。 この『籠愛舞姫』の標的は私だ。私がここで彼女たちを食い止めなければ、逃げ惑うファンたちが巻き添えになる。
「お姉様。……無駄な抵抗です」
亜莉愛が、指揮棒のように右手を振るう。 それを合図に、十二人のシスターズが一斉に動いた。銃撃。 サブマシンガンの弾幕が、私を襲う。
「くっ……!」
私は、改造ペンライトの光刃を展開し、飛来する弾丸を弾き落とす。 高熱のプラズマが鉛を蒸発させ、火花が散る。 だが、数が多い。 全方位からの集中砲火。私は、ステージ上のスピーカーを蹴り倒し、遮蔽物にして身を隠した。
「ターゲット、捕捉」
背後から声がした。華琉愛だ。 彼女は私の死角に回り込み、ナイフを突き出してくる。 その動きは、私がかつて組織で徹底的に叩き込まれた「暗殺術」の基本動作そのものだった。
「……ッ!」
私は紙一重で回避する。 ナイフがドレスの袖を切り裂く。反撃に転じようとした瞬間、今度はアリアのワイヤーが私の足首を狙って飛来した。
完璧な連携。 アリアが拘束し、カルアが仕留める。 それは、かつて私が組織にいた頃、教官から何度も見せられた「理想のコンビネーション」だった。 私にはパートナーがいなかった。私は「個」として完成されすぎていたからだ。だが、彼女たちは双子。 互いの思考を共有し、欠点を補い合う、殺しのユニット。
「なぜ逃げるのですか? お姉様」
アリアが、ワイヤーを操りながら無表情に問う。
「私たちは『道具』です。使い手のために働き、壊れるまで消費される。……それが、私たちに与えられた唯一の幸福でしょう?」
カルアが、ナイフの切っ先を舐める。
「自我など不要です。お姉様はバグりました。……外の世界の『毒』に侵され、故障したのです」
「だから、私たちが削除します。……安らかに、部品へと還ってください」
二人の言葉は、かつての私が信じていた「真理」そのものだった。 組織の教義。絶対的な服従。だが、今の私には、その言葉がひどく空虚に響いた。
「……可哀想な子たち」
私は、スピーカーの陰から飛び出した。 弾幕の中を、ダンスのステップで駆け抜ける。
「あんたたちは知らないのね」
私は、光刃を振るい、迫りくるワイヤーを切り裂いた。
「不味いジュースの味も! 湿気った煙草の臭いも!」
アリアの顔に、初めて動揺が走る。
「ブサイクな寝顔を晒せる、仲間の温かさも!!」
私は叫んだ。 それは、かつての自分への決別の言葉でもあった。 道具としての幸福? ふざけるな。そんなものは、ただの思考停止だ。 傷ついて、汚れて、それでも自分の足で立つことの尊さを、私は知ってしまった。
だが、現実は甘くない。 『シスターズ』の戦闘能力は、私の予想を遥かに上回っていた。
アリアとカルアが、無言で視線を交わした。 それだけで十分だった。 二人の首輪が微かに発光し、周囲の空気が揺らぐ。
「光学迷彩……いや、多重投影か」
瞬間、彼女たちの輪郭がブレた。一人、二人、四人……。 残像ではない。質量を持った分身が、私を取り囲むように増殖していく。 烏丸によって強化された、現代の忍術。 空間投影ドローンと、高速移動による視覚情報の撹乱。私の動体視力をもってしても、どれが本体か判別できない。
「終わりです」
無数のアリアとカルアが、全方位から同時に襲いかかってくる。実体と虚像が入り混じる、死の舞踏。 ワイヤー、ナイフ、銃弾。
「ぐぅっ……!!」
防ぎきれない。 ドレスが切り裂かれ、白い肌に赤い線が走る。 左肩を撃ち抜かれ、右足を切られる。 鮮血が舞う。
私は、ステージの中央で膝をついた。ペンライトの光が明滅し、消えかける。
「チェックメイトです、お姉様」
幻影が消え、本物のアリアとカルアが、私の目の前に立った。二人の刃が、私の喉元に迫る。冷たい金属の感触。死の気配。
(……ここまで、か)
私は目を閉じた。 灯さんの不味いコーヒーが、無性に飲みたかった。
ドォォォォォン!!
その時。 ライブハウスの壁が、内側から爆ぜた。 轟音と共に、瓦礫が弾け飛ぶ。粉塵の向こうから、聞き慣れた、そして最高にガラの悪い声が響いた。
「おいアイドル! 私の許可なく引退すんじゃねぇ!」
久遠灯だ。彼女はM500を構え、硝煙の中を堂々と歩いてくる。
「アタシのシマで、勝手にイベントやってんじゃねぇよ!」
辰巳響が、天井から雷と共に降ってくる。バリバリという放電が、彼女たちの電子機器を狂わせ、多重投影を掻き消していく。
「通信妨害、開始。……敵の連携システムを遮断する」
鉄鏡花が、端末を操作しながら現れる。 彼女のハッキングにより、シスターズのヘッドセットからノイズが噴き出し、完璧だった統率が乱れる。
「美流愛ちゃんを……いじめるなっ!」
天羽祈が、防御結界を展開し、私を追撃の銃弾から守る。
「あんたたち……」
私は、呆然と仲間たちを見上げた。ボロボロで、汗臭くて、そして誰よりも頼もしい「家族」。
「遅いじゃない」
私は、血の混じった唾を吐き捨て、立ち上がった。 消えかけていたペンライトが、再び強く輝き出す。
「……形勢逆転ね」
私の瞳に、殺し屋の冷徹さと、アイドルの情熱が宿る。 さあ、反撃のショータイムだ。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




