2話
裏山は手入れされていないのか、雑草などが伸び放題だった。鬱蒼とした森は月明かりを通さずに、暗がりが存在した。
「歩きにくい……」
持ってきたナタで枝を切りながら、道なき道を進んでいく。
片手にはライトを持ち、照らしながら手掛かりを探すが、なかなか見つからない。
三十分ほど裏山で捜索を続けていると、ポチャン、ポチャンと音が聞こえてきた。
「水の音か……?」
手掛かりがなく、音の方に進んでいく。
「この匂い……」
爽やかな早朝の空気の匂い。
「っ……」
近づくと木々が開け、幻想的な湖があった。
そこだけ月明かりに照らされており、湖は澄んでいて湖の底がはっきりと見えた。
「綺麗だ……」
思わず、そんな言葉が漏れた。
手からナタとライトが滑り落ちる。
引き寄せられるかのように、足が湖へと一歩一歩と吸い寄せられる。
「ん?」
その時だった。
視界の端に何かが映り込んだ。
目を凝らすと、鳴と光が湖に顔をつけて、必死に湖の水をゴクゴクと飲んでいた。
「鳴! 光!」
声を掛けるが、水を飲むことをやめない。
「おいっ……!」
二人の肩を掴むが、それでも水を飲むことをやめなかった。
何だよ、これ……!
不気味な状況に、自然と足が一歩下がる。
「はぁ……くそ……ごめん!」
俺は鳴の腹に蹴りを入れた。
「げほっ……!」
鳴が体勢を崩して、腹を抑えて、口から水を吐いた。
「おい、鳴! しっかりしろ!」
「こ、たろぅ……」
月明かりに照らされた鳴の顔は酷かった。
顔は膨れ上がり、目の焦点が合っていない。口は半開きで涎が垂れていた。
「あぁ……」
鳴は湖に顔を向けると、四つん這いになりながら、湖に向かっていく。
「おい、鳴……!」
俺の鳴の肩を掴んで止めた。
「は、は……な、せぇ……!」
鳴は暴れて俺を振り払った。
「くそっ……」
日頃の運動不足のせいか、俺はあっさりと払いのけられた。
よく見ると、鳴の手足はむくれていてまるで水風船のようであった。
鳴は湖まで辿り着くと、湖に顔をつけて、水を飲み始めた。
「一体、何なんだよ……」
光に目を向けると、状態は鳴と同じだった。
「くそっ……!」
無理に引き離そうにも、力負けする。
何か方法は……!
「くっ……」
光が突然仰向けに倒れ込んだ。
体が痙攣し、口から泡が溢れ出す。
「おい、光……!」
俺が近づくと、光はぐったりしていて、目には光がなかった。心臓に耳を当てると、心臓の音が聞こえない。
「し、心臓マッサージ……!」
俺は光に心臓マッサージをするが、光が息を吹き返すことはなかった。
「そ、そんな……」
友達の亡骸を前に、呆然と立ち尽くす。
「うっ……」
鳴が胸を抑えて苦しみ始め、身体を痙攣させる。
「な、鳴……!」
鳴の心臓も止まっていた。
心臓マッサージをするが、息を吹き返さない。
「くそ、くそ……!」
俺はその場に蹲り、何度も地面を叩いた。
いつまでそうしていたかは分からない。地面には血の跡が残り、俺の拳は血だらけだった。
「助けを呼ばないと……!」
俺は医者ではない。ただの素人。
もしかしたら、鳴と光は死んでいないかもしれない。いや、生きている……!
「あぁ……」
身体と頭がフラフラする。
道を切り拓きながら、山に登ったせいだ。休憩も水分も摂っていない。
「喉乾いた……」
ふと、湖が目に止まった。
澄んでいて、飲んだら絶対に美味しいだろう。
ゴクリと喉を鳴らす。
「一口くらいなら」
疲れ切った身体で、湖に近づく。
湖には自分の顔が映し出された。
「酷い顔だ……」
涙の後、顔についた泥と血の跡。
俺は湖に手を入れて、水を掬い取る。
口元に近づけて、ゆっくりと飲んでいく。
「ああ、美味いな……」
***
新聞の端の方に小さくある記事が載った。
記事の内容は、とある田舎町で男子高校生三名が行方不明になったというものだった。