雪が降れば
サンタがいるのか、居ないのか。
きっとこの問いは、この先も受け継がれていくんだろう。
ちなみに僕がサンタクロースという人からプレゼントを貰ったことがあるのは一度だけ。
物語のように枕元へと置かれていたプレゼントは、あいにく僕が欲しかったものと違ったけど、サンタが来たという事実だけで当時の僕はすごく嬉しくて、隣に住む幼馴染に嬉々として報告した。
幼稚園の時の記憶をいまだに鮮明と思い出せるのは、幼馴染が僕以上に喜んでくれたからだと思う。
「陽くん、聞いてる?」
思考回路を過去へと向けていたのがバレたのか、マフラーに顔を埋めながら幼馴染が睨みつけてきた。
「うん。聞いてる。クリスマスマーケットに行こうって話でしょ」
「そう!行こうよ!陽くん十二月二十四日はお休みなんでしょう?欲しいものがあるんだー!」
高校を卒業して、既に二十歳も過ぎているというのに、幼馴染を誘うのはどうなんだと一言言いたいけど、どちらにも恋人という存在は居ないし、友達は皆仕事だと知っているだけに何も言えない。
それに、今年も誘ってくれたことにホッとしている自分もいる。
それでも簡単にいいよと言えないのは、星羅が付き合って欲しいことが買い物だけじゃないということをよく知っているからだ。
「星羅の本当の目的は雪を降らせる女性を探すことでしょう?」
呆れながら本音を指摘してあげると、星羅は分かりやすく目を逸らした。
「……買いたいものがあるのは本当だよ?クリスマスマーケットに私が好きなクリエイターさんが参加するらしいし……」
「そのクリエイター、ちょうど一週間前にも別のイベントに参加してたよね?」
「あ、あれー。そうだったかなぁー……」
とぼけようとする星羅にじとっとした瞳を向けると、星羅はなんで知ってるの!と嘆き始めた。
「僕もあの人好きだから」
好きになったのは完全に星羅の影響だけど、別に嘘では無いからしれっと返すと、星羅は胡散臭げな目で僕を見てきた。
「陽くんが……?陽くんの好みと違わない……?」
「別に好み以外のものを好きになったっていいでしょ。それより、毎年その女性が居ないか探して、毎年居ないんだしそろそろ諦めない?」
「今年で最後にするから!!もう一度だけでいいの!会いたいの!」
駄々をこねる子供のように言い詰めてくる星羅に、溜息をつきたくなってしまったのは仕方が無いと思う。クリスマスイブになると、星羅は女性に会うことしか頭にない。
星羅が会いたいと言っている女性は、星羅が幼稚園の時に出会った女性のことだ。星羅いわくその女性は本物のサンタらしい。トナカイのぬいぐるみを持ち、カウントダウンとともに雪を振らせた女性を幼い頃にサンタだと思うのは分からなくもないけど、この歳になっても純粋にサンタだと考えているのはある意味すごいと思う。カウントダウンと一緒に雪を降らせた方法は分からないけど、トナカイのぬいぐるみはクリスマスマーケットで買ったってだけだろうに。
「会ってどうするの?また雪降らせてもらうの?」
「それはして貰えたら最高だけど……!そうじゃなくて、お礼を言いたいの!」
「もうその人だって忘れてるよ……」
たった一度、街で出会った人のことなんて、よほどのことがないと覚えていないだろう。
星羅自身だって忘れていたっておかしくないのに、毎年毎年その女性を探していて、僕はそれに付き合う、というのが流れだ。
「本当に、今年で終わりにするから……」
お願い、と消え入りそうな声で言われてしまえば、断ることは出来かった。
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十二月二十四日当日。
星羅から指定された待ち合わせ場所へと指定されたタワーへと行くと、今にも泣きそうになっている星羅がいた。
「……どうしたの?」
「……陽くんへのプレゼント落とした……」
「何だ、そんなこと……」
「そんな事じゃないよ!!ハンドメイドだから同じものはないし、せっかく陽くんにピッタリなものを見つけたのに……!」
この世の終わりとでもいいだけな悲痛な顔を見て、そこまで気にしなくていいのにな、と思う。
目に見えるプレゼントがなくたって、僕は幼い頃から星羅にクリスマスプレゼントを貰ってきたし、今だってそうだから。
「別にいいよ。どうしても気になるなら今度なにか買ってもらうし」
励まそうとしてそう言ったというのに、星羅は益々顔を歪めてしまい、失敗したなと苦笑する。
こうなってしまえば食べものでつるか。と少し考えたその時。後ろからあの……と声をかけられた。
「はい?」
ぱっと振り返ると、紺色の小さな紙袋を持った女性がいた。だけど見覚えはなく、首を傾げる。
「多分これ、その子が探しているものだと思います」
「え……」
なぜ分かったのか、と聞こうとした声は、星羅のあー!!という声でかき消され、何事かと振り返る。
「あの時の……!お姉さん……!え、でもなんで!?あの頃と全然変わんない……!」
僕と女性の人が呆気にとられている中、星羅は女性に近づき、自分のことを思い出してもらおうと必死になっていた。
「私、小さい頃に貴方にあったことがあるんです!ここで迷子になった時に、魔法を見せてあげるって言ってくれて……!」
女性はこてんと首を傾げ、数秒悩む素振りを見せていたけど、やがて口を開いた。
「……もしかして、よーくんっていう子が隣に住んでいるせいらちゃん?」
「そ、そうです!!え、覚えているんですか?」
「ふふっ記憶力はいいの」
楽しげに笑う女性は、僕たちより年上というのが信じられないほど幼く見える。
「私ずっとお礼を言いたくて!」
「あんなに小さかったのによく覚えてるね」
「本当に魔法みたいに雪が降ったから!あんなの忘れられないです!」
2人が楽しげに話すから、僕はすっかり蚊帳の外で、手持ち無沙汰になってしまった。少し離れて過ごすべきかな、とマーケットの方に目を向けると、女性と目があい、口パクで何かをいわれた。
……頑張って、と言われたような気がするのは僕の勝手な解釈だけど、もし本当に頑張ってと言われていたら、この数分で色々バレたということだ。
その事が気恥ずかしくなって、ホットワインでも飲もうかな、と現実逃避を始めてみたけど、現実世界に戻されるのはあっという間だった。くんっと裾を引っ張られて目を向けると、いつの間にか星羅が隣にいた。
「あれ、あの人は?」
「のえるさんは今からお仕事なんだって」
「へー……お礼は言えた?」
「うん!ばっちり!それより聞いて!今から五分以内に雪が降るかもしれないよ!」
「……なんで?」
「のえるさんがそう言っていたから!」
いくら幼い頃の記憶があるとはいえ、雪が降るという言葉を素直に信じられる星羅に笑う。
星羅は人の言葉を疑うことをほとんどしない。
冷静に考えて、社会人でもある僕が毎年12月24日だけは休みになるなんておかしいと分かるだろうに。
素直で、感情表現が豊かな星羅は、僕が泣きたくても泣けない時に代わりに泣いてくれて、嬉しい時には僕以上に喜んでくれた。
そんな星羅に僕は何度だって救われてきたし、きっとこれからもそうだ。
「……じゃあ、五分以内に雪が降ったら星羅に秘密にしてきたこと教えてあげるよ」
「え、秘密にしてきたこと?なに?」
「雪が降ったら、教えてあげる」
降ればいいな、と思う。
燻ってきた熱を溶かすように雪が降れば、告白だってしやすいから。
願わくば、来年も君とこの日を過ごせますように。
X、アドベントカレンダー企画2024の小説です。
お読みいただきありがとうございました*.゜




