新年の挨拶 【月夜譚No.327】
捜すのはいつも自分だ。目を離すとすぐにいなくなって、見つからないからと先に帰ると怒られる。
普段は用もないのに電話してくる癖に、こういう時に限ってこちらがかけても通じないのは何故なのだろう。
彼は人でごった返した境内を足早に歩きながら、辺りを見回した。まだ夜が明け切らない境内は暗がりが多く、人一人を見つけるのも一苦労だ。
初詣に行こうと幼馴染みにせがまれて神社にやってきたのが、十数分前。彼が友人を見つけて少し話している間に彼女の姿は消えてしまった。
いつも勝手に動くなと言っているのに、言うことを聞きやしない。新年早々、どうしてこんな面倒なことになっているのだろう。
うんざりしながら歩き回っている内に、ふとあることを思い出した。
屋台が並ぶ石畳を逸れ、繁った木々の間に入り込む。幼い頃の記憶を頼りに葉を掻き分けて数メートル進むと、視界が開けた。
「おめでと」
振り返った顔が初日の出をバックに笑みを零す。今年二度目の祝いの言葉は思ったより嬉しくて、彼は仕方ないと言わんばかりに笑顔を返した。