裁き
一人のおばあさんが道端でミカンを拾い集めています。
ミカンはそこらじゅうに散乱していますが、おばあさんの腰は海老のように曲がり、屈むのにもひと苦労。簡単には終わりません。
しかし、道ゆく人々は見て見ぬふりをして通り過ぎてゆきます。
そこへ通りがかったのは三人の青年たち。彼らはおばあさんに、こう声をかけました。
──おばあさん、僕たちが手伝ってさしあげましょう。
青年たちは素早い動きでミカンを拾い集めました。
おばあさんがお礼を言って立ち去ろうとした時、彼女の持つ籠の中から飛び出したものがありました。
──あぁ、私の可愛い毒サソリが……。
なんと、今度はおばあさんの可愛いペットである毒サソリが逃げ出してしまったのです。
青年たちは言いました。
──おばあさん、僕たちが手伝ってさしあげましょう。
青年たちはやっとのことで毒サソリを捕まえ、おばあさんに手渡しました。
おばあさんがお礼を言って立ち去ろうとした時、彼女の下げた袋の中から這い出したものがありました。
──あぁ、私の可愛い毒マムシが……。
なんと、今度はおばあさんの可愛いペットである毒マムシが逃げ出してしまったのです。
青年たちは言いました。
──おばあさん、僕たちが手伝ってさしあげましょう。
青年たちはやっとのことで毒マムシを捕まえ、おばあさんに手渡しました。
その後もおばあさんからは毒グモ、毒ガエル、毒クラゲなど、さまざまや危険生物が逃げ出しました。が、危険をかえりみず、青年たちは老婆の落とした物を拾い続けるのでした。
青年たちが毒イソギンチャクを拾い上げたその時、天から光が差しました。
次の瞬間、腰の曲がった老婆の姿は消え、眩いばかりの女性が現れたのです。長い金色の髪に白磁のような肌、澄んだ青い瞳を持つ美女でした。
彼女は言います。
──人類は無益な戦争ばかり続けています。このままでは自然すらも破壊し尽くしてしまうでしょう。でも……
そこで金髪美女はニッコリと微笑みました。
──このように優しい心の持ち主がいるならば、人類を滅ぼすのは保留にいたしましょう。
そうです! 彼女は人類の存亡について裁きを下す女神様だったのです。
しかし、三人の青年は女神様の言葉を全く聞いていませんでした。
老婆の姿から戻った拍子に、女神様の長いワンピースの裾は、街路樹の枝に引っかかってしまっていたのです。
ハァハァ、ハァハァと、三人の青年は荒い息を吐きながら地に這いつくばり、露わになった太ももを凝視しています。
人類は滅んでしまいました。