7 私が泣いた日
ミラ様とのお茶会も終わり、私は一人、悶々とした心持ちで彼を待っていた。
玄関からすぐのリビングキッチンと寝室に使っている小部屋、そしてトイレとシャワールームだけの、小さな住まい。
一人で過ごすなら、十分な間取り。
学園に入学してから借りている部屋。
右隣に住むクルノラは、狭い、古いと愚痴を言うが、それまでとは思わない。確かに、外壁や水回りなどには、築半世紀以上の傷みがあるが、まぁ、きれいに使っている方だと思う。
左隣は、よく分からない。どうも、三人くらいでシェアして暮らしているみたいだけど、生活時間帯が違うのか、殆ど出合うことはない。同じ間取りだと思うのに、流石に三人は辛いだろうな。あっ、ちなみに、左隣が三人でシェアしているというのは、クルノラからの情報。
おそらく、今日も彼は来るだろう。今日がお茶会だったのは、彼も知っている。来たら、また執拗に心配するんだろうな。ミラ様に虐められなかったか、ミラ様に何を言われたか、ミラ様はどんな様子だったのか、そんなに気になるのなら、ミラ様本人に聞けばいいのに…………。
でも、悩む。悩んでも仕方ないけど、悩む。
結局、どっちなんだろ?不能か?同性愛か?もしかして、どっちも?あぁ、それでも……それでも、愛せる?
もしも、不能だったとしたら──身体の関係は無くてもプラトニックな愛を貫く。でも、そうなったら生涯バージンか〜。そんなにしたいとは思わないけど、ずっととなるとな〜。好きよ。カーライル様の事は好き。だけど…………。
もしも、同性愛だったとしたら──私は騙されてたって事になるのよね。同性愛を隠す為だけの存在。そこに愛はあるのかな?でも、彼はちゃんと愛してくれてると思う。それでも、騙されてるとしたら許せない。別に良いのよ、同性愛者だって。私の事を真剣に見てくれるなら。バイセクシャルな場合もあるし…………でも、体を求めてはこないんだよね。やっぱり生涯バージンか〜。
『真実の愛』か………………。
どっちだったら良いんだろ?
私が決める事でもないんだけどね…………。
そんな事を思っておりました。
暫くして、彼がやって来る時間が近付いてきました。
私は、シャワーを浴びて、体の隅々まで綺麗にしていきます。いつもは軽く汗を流すだけなのに──何故って?それは、今日、今一度、彼を誘ってみようと考えたから。彼が正常なら、初めてを捧げても無問題。元々、彼にあげようって思ってたんだから。ウン、問題無し。
そうそう、前回モーションをかけた時は、彼をソファーに押し倒し、私から唇を奪ってみたんだよね。でも、彼は『まだ早いよ』なんて言って、オトナな対応で躱されちゃた。あの時は、私を大事にしてくれてる、やっぱり格好良いな、なんて思ったけど、どうだったんだろ?勃ってたかな?そんな余裕なかったし……。オチ○チ○なんて見てなかった。過去の私よ、もっと冷静に!
──トン トン(ノックの音)
──カチャ(鍵を開ける音)
「ナタリア、来たよ」
カーライル様?
早っ。いつもよりも早いよ。
合鍵を使って入ってきたカーライル様。
「ごめんなさい、ちょっと今シャワー浴びてるから、待ってて」
「ああ」
流石に泡だらけで出るわけにもいかず、ちょっと待ってもらうことに。
ん、ちょっと待って。考えろ、私。
いつも、カーライル様が来る前にシャワーを浴びるなんてことはない。そうすると、彼は、私が彼が来るからシャワーを浴びていると、考えるんじゃないかな。その上、彼は私がミラ様に嫌味を言われたと思っているに違いない。そうなると、私が気落ちしていると考える。そんな私が、彼が来る時にシャワーを浴びているということから、抱いてほしいと思っていると思うに違いない。
と、すると──すぐに出るのはNG。少しでも焦らして、彼が想像する時間を与える。でも、待たせすぎるのもダメ。程良いタイミングで出ないといけない。そして、湯上がりでほんのりピンクに色付いた肌に、うなじが見えるようにアップした髪。好きでしょ。男の人って、うなじが好きなんでしょ。知ってるんだからね。
裸体にバスローブが最適なんだろうけど、流石に恥ずかしいから、下着だけはキチンと着けてバスローブ。これでも胸元はキワドいでしょ。
「オ・マ・タ・セ」
最大級のセクシーさで彼の前に。
どう?
どう?どう?
った〜!勃ってる!あれ、絶対に勃ってるよね。ねっ。
ズボンで分かり難いけど、あの感じは絶対に絶対。
良かった。
カーライル様は、ノーマルだ────?
NOooooooooooo!
OH MY GOD!!
ガッデム!チクショー!なんてこった!
忘れてた〜!
ミラ様から借りた『預言書』を机の上に置いてたんだ〜。
なんで読んでるのよ。カーライル様、なんで『預言書』を読んでるの?
それで、オチ○○ン勃たせてるの?
最悪!
最低!
死んじまえ!
なに狼狽えた顔して、『この本なんだ?凄いな』だよ。
私の格好も見ろよ。
ほら、セクシーだろ。
そそられるんちゃうんか!
男なら、こんな格好している女を前に、本なんて見てんじゃねぇよ。
その後、どうしたかは覚えていない。
とにかく、カーライル様を部屋から追い出し、私は泣いた。
目一杯泣いた。
泣くよね。
正直、ナタリア的には、不能の方が良かったよね。ん〜、どうだろ?