6 預言書が文学書みたいに分厚い
「カーライル様が、〝不能〟ということを」
私が内々に思っていた『カーライルの不能説』を暴露すると、ミラ様とメイドのアンは驚いたように目を見開いた。
えっ、違うの?
二人の表情から判断できる情報は、彼が不能であるということを考えていなかったという事。それでは、ミラ様の今までの余裕は何?
「お嬢様、〝受け〟という事も、ありえますから」
アンがミラ様に耳打ちする声が聞こえた。
受け?
受けって何?
「ナ、ナタリア様、それは正しい情報なのかしら?」
ちょっと焦った口調のミラ様。
「多分………」
私がそう答えると、ミラ様は、「そう……それも可能性としてありえますわね」と微かな言葉を落とされた。そして、再び微笑みながら、一冊の古めかしい本を差し出した。
まるで魔術書のような革張りの表紙に小さく書かれたタイトルは、『襲撃体勢万端です──青白き焔を燃やす騎士達』。中は、絵の入ることのない文字だけで書かれた官能小説。大人の(腐女子専用)聖書。王都騎士団の内側を政治と階級問題に鋭くメスを入れながらも、男同士の友情と愛情、そして(あくまでも男同士の)愛欲を綴った騎士同士のイチャラブ本。
都市伝説的に学園の女生徒達に噂される本。
現実に存在したんだ…………。
でも、なんでその伝説の本をミラ様が?
えっ?
えっ?
えっ?
真っ白になった頭が、どピンクに染まっていく。
「ナタリア様、貴女はカーライル様を不能と思っているかもしれませんけど、私達は『こちらと』思っているんですの」
そう言いながら、確信に満ちた瞳を正面から向けてくるミラ様。
ついついその伝説の本から目が離せない。
ミラ様は、そんな私の行動を見ながら言葉を続けた。
ミラの説は、こうだ。
この半世紀も前に書かれたとされる本は、ある種の預言書であると。正にそこに書かれている登場人物達と、自分達を含めた国の人々の存在が、不思議な程にリンクしている。当然、自分もであるし、私ナタリアもそれに近い存在が本に登場しているというのだ。まぁ、そっち方面の本なので、モブらしいのですが。
この本(ミラ様は預言書と呼んでいるので、今後『預言書』と表記)に描かれているのは、騎士団の(第二騎士団)の中でのBL。その中心にいるのが副団長である。
当然、現実では、カーライル様という事になる。
これは、統計上(預言書を元に書かれた類型書物の中での統計)、団長か副団長が、新人騎士を狙う場合が多い。しかしながら、現実世界での団長は嫁LOVEで、子供も三人もいるので、ノーマル(調査済)。バイの可能性もあるが、ノーマルの可能性大。となれば、消去法で副団長のカーライル様が本命。
ここで、副団長カーライル様にスポットを当てて考えてみると、あからさまな愛人LOVEを周囲へのアピール。噂になるほどのアピールが、逆に怪しい。ちなみに、私とカーライル様が性交渉がない事は調査済み。(これについては、ハイデンマルク家の下女を通じて、メイドネットワークからブロッサムス家のシーツに性交渉の跡が無いのを聞き出したそう──怖っ!)。更に、私本人からも先程確認済み。
その上、新婚初夜からのカーライル様の行動。
推理の結果として、カーライル様は男色を知られない為に、愛人を囲ったふりをしている。私は、ノーマルに見られたい為のカモフラージュに使われている被害者というのである。
「そ、そんなこと……」
そんな事あり得ないと、言いかけて言葉が止まる。身に覚えがありすぎるのだ。彼が言う『真実の愛』というセリフは、目の前の本の三冊に二冊には出てきているであろう言葉。読まなくても分かる。前世の記憶が、そう伝えている。
いや違う!
彼は不能なんだ!
そう信じたい!
そう信じたい。
そう信じる方が、まだ許せる。
そう信じないと、自分が惨めになる。
「私はね、正直、誰が悪いとか、誰がいけない事をしているとか、どうでもいいの。ただ、応援したいのよ。それぞれの愛を観ていたいの」
そう言うミラ様は、言葉を続ける。
「でもね、不能説もあり得るわね。アン、ナタリア様、そこのところ調べられるかしら?」
「ミラ様、第二騎士団の身体の診断では問題ないように記載されていました。しかし、EDは精神的な問題が絡む場合があると聞いたことがあります。私では、それ以上の調査は難しいかと」
「ナタリア様は?」
「…………何か分かれば…………」
気が付けば、十冊以上積み重ねられた分厚い本。
調査の名目で本を読み耽る事でお茶会は過ぎていった。
私は預言書を読みながら、挿絵が欲しいと願っていた。
そう、そもそも、この手の本は文学書のように分厚い文字だけの本では駄目なんだ。もっと絵を増やして、セリフを吹き出しで、そう、そうなんだ、漫画にしてほしい。そう、これは、薄い本であるべきなんだ。
なんて事を考えていました。
どうも、私の転生は腐った方向みたいです。
いつの間にか椅子に座っていたアン。彼女もまたそちら側が好きな人のようです。
【昊ノ燈】と申します。
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