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4 女中頭ハンナは頑張ってます

今日は、ここまでです

 そんな当時を、ハイデンマルク家の女中頭ハンナよりの聞き取りで。


 ミラ奥様がお茶会を開くという。

 私、ハンナの女中頭としての腕を見せる時がきたのです。

 ミラ奥様には、本当に申し訳なくて居た堪れない。全くと言っていいほど帰ってこない家長──私が乳母として成長を見守ってきたカーライルお坊ちゃま。いやいや、もうカーライル・ハイデンマルク様とお呼びしなければならないのでしょう。そんなカーライルお坊ちゃまが、愛人にかまけて、新妻となった侯爵家令嬢のミラ様を放置しているのです。式の翌日から帰ってこないという呆れるばかりの事態。惨事、もう惨事と言っていいのかもしれません。こんな事が本家の旦那様や奥様に知られたらと思うと、ゾッとします。そうなくても、子爵家の次男坊が侯爵家の令嬢を嫁にもらうというので、上や下にの大騒ぎでしたのに。

 私の育て方が悪かったのでしょうか…………。


 そんな事を思っていると、亭主のヨハンがそっと肩に手を置いて、ゆっくりと慰めてくれました。

 ヨハンも、こちらに来てから執事長となり、忙しい毎日を送っています。本家ではただの執事だったのが、いきなりの執事長への抜擢。本家と違い領地が無いので、本家の執事長のセバス様とは仕事内容が異なり楽ではあるのでしょうが、慣れない仕事で大変だと思います。それも、家長が帰らない屋敷の執事長。

 ああ、全く、カーライルお坊ちゃまときたら!


 ともあれ、ミラ奥様の、いやこの屋敷最初のお茶会は、お客様が一名だけらしい。元侯爵家令嬢の開くお茶会なので、最低でも十人は招待するのかと思えば、気が抜ける思いがした。ならば、よほど位の高いお方が招待されるのかとも思えば、そうでもないよう。

 ミラ奥様付けのメイドのアンさんに聞いてみたところ、位の低い貴族令嬢を呼ぶだけなので、格式張った感じではなく、ラフな感じのお茶会でお願いします、とのことだった。


 ここで、ややこしい事がある。

 私が、メイドのアンを『アン様』と呼ぶと、アン様は呼び捨てで良いという。確かに、屋敷内の職位からすれば、女中頭の方がメイドより明らかに上になる。ですけれど、アン様は侯爵家からミラ奥様に付き従ってきたメイド、その上、伯爵家の出。本家の皆様よりも爵位が上のお嬢様。私なんか父母、祖父母軒並み平民の由緒正しき平民です。呼び捨てにできますか?

 とりあえず、『アンさん』でお茶を濁しています。


 話が逸れてしまいましたが、お茶会です。

 例え、小規模のラフなお茶会であろうとも、ミラ奥様に恥をかかせることのない、全力を尽くしたいと思う所存にございました。



 お茶会当日。

 ここで知るなんて、あり得ない事だとは思いますが、ここにきて初めて知った、お茶会のお客様。それは、ナタリア・ブロッサムス。

 カーライルお坊ちゃまを誑し込んでいる『悪女』。

 そんな『悪女』ナタリア・ブロッサムスが門の前でウロウロしている。

 華美ではなく、落ち着いたと言うか、地味と言うか、シンプル、そうシンプルなドレス。まるで既製品のドレスをアレンジすることなく、そのまま着ているようなドレス。まあ、安物ではないようですが、ミラ様に比べると生地からして雲泥の差。それどころか、アンさんのメイド服と比べても、○○なドレス。カーライルお坊ちゃまは、まともなオーダードレスの一着も贈っていないのでしょうか?愛人ですよね。


 そんなナタリア・ブロッサムスを迎えると、彼女はキョロキョロと視線を移ろわせながらの挨拶を返してきた。そして手土産を預かる。

 マダムフローリストのビスケット。

 流行りの菓子店の詰め合わせビスケット。無難な手土産。

 それにしても、キョロキョロし過ぎですよ。確かにハイデンマルク邸と言うか、カーライルお坊ちゃまの新居は、家というよりも館、いや、プチ宮殿(?)といった様相ですからね。本家の領の子爵邸よりも大きい御屋敷。元々、ミラ様の御実家の侯爵家のタウンハウスの一つだったとか…………。普通、タウンハウスって、幾つもあるものなのですか?


「うわぁ、ガゼボが個人宅にあるんだ…………」

 ナタリア・ブロッサムスが呆けた声をこぼした。

 そう、呆れるしかないでしょう。地元の子爵領の屋敷にも無かったガゼボがある家。

「ここ、王都だよね………」

 塞がらない口から言葉が漏れている。

 分かります。よく分かります。私も同じ気持ちです。

 私の常識では、ガゼボは湖畔にある物。そう、その湖畔自体までが庭の一部として存在している。いや、池なのでしょうか?でも、水は綺麗ですし。やっぱり湖なのですか?


 その時、私ナタリアも呆然とするしかなかったのを覚えています。

 お茶会の会場として案内されたのは、水辺に建てられた真新しい東屋(ガゼボ)。途中通り抜けた庭園も背の低い花達が咲き乱れている。人手がかかってるなぁ。

 案内された先にいたのは、赤い髪のキリッとした女性──大通りのテラスでご一緒させてもらったメイドのアン。あの時もそう思ったけど、まるで定規でも内蔵されているみたいにピシッとした動き、一流だわ。そして、その向こうには、ガゼボの中で佇むミラ様のお姿。


 ガゼボに到着すると、アンさんと交代して奥に引っ込む。

 茶菓子の差配です。女中頭の力の見せどころ。

 後ろでは、ミラ様の挨拶が聞こえてきました。

 おそらく、あの可愛らしくも上品な笑顔で話掛けているのでしょう。


「いらっしゃいませ。ようこそブロッサムス様、今日はこの屋敷で初めてのお茶会なの。私、初めてのお茶会をどうしてもこのガゼボでしてみたかったのよ。ね、風が心地よいでしょ。私のお気に入りの場所。だからね、気楽に楽しんでください」


 

 このミラの挨拶で始まったお茶会が、私、ナタリア・ブロッサムスが今まで築いてきた価値観をぶっ飛ばし、スピンをかけて華麗に着地する事になってしまうことを、まだ知らなかった。




【昊ノ燈】と申します。


読んでいただき、ありがとうございます。

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