1 自己紹介
短編の「お前を生涯愛することはない──当然ですわ」を長編にしてみました。
と言っても、小ネタで貫ける短編と同じドンデン返しではいけないので、ちょっと(?)いじっています。
楽しんでいただけたら幸いです。
私の名前は、ナタリア・ブロッサムス。
王都の学園を卒業したばかりの十八歳。
王都から遠く離れた地方男爵の第一子にして長女。下に弟が二人いるんだけど、今は関係ないので割愛。
その私は今、文官見習いの傍ら、ちょっと趣味で執筆活動を行っております。
先程、前世と言いましたが、そう、私は前世の記憶を持っているのです。と言っても、特段偉人であったとか、生まれ変わりたい強い想いがあったとかではない……と、思うのです。だいたいがなんで前世で死んだのかも知りませんし、どんな人間だったのかも、詳しく分かりません。男であったのか、女だったのかも分からないんです。ただ、漫画、テレビ、映画、ハンバーガー、車等の日常だろう断続的な記憶だけ。
これじゃあ、チートも何もあったもんではありません。
話を戻します。何故、私が文官見習いと執筆活動の二足の草鞋を履いているかというと、二年前に遡ることになってしまいます。
それは──
──二年前──
※当時の関係者の話を元に作成したものです。
「お前を生涯愛することはない!」
そう言ったのは、当時、私の恋人だったカーライル・ハイデンマルク様。新郎。
結婚式を挙げたばかりの初夜の事。
そう言われたのは、新妻となった新婦のミラ様。大きく頷いて、返しの言葉を言われたそうです。
「当然ですわ!」
そのような返答がなされるとは予期してなかったカーライル様でしたが、修羅場になる事なく妻が納得してくれたと判断し、モヤモヤとしたモノを心に残しながらも夫婦の寝室を後にしたそうです。
所謂、白い関係、白い結婚を貫こうという宣言をしたのだけど、新妻のあまりにあっさりとした様子に──何故?と思われたのは当然でしょう。
そもそも、この婚姻は両家の利益を優先させた政治的なものだったそうです。
子爵家出身にして第二騎士団副団長まで上り詰めてしまったカーライル様が、有力貴族の後ろ盾を得る為にジョナリス侯爵家の令嬢を嫁にもらう。
侯爵家側としても、騎士団と縁を持ち、中央との関係を太くする。
どちら側にとっても利点が存在する婚姻。
所謂政略結婚。地方の貧乏男爵家出自の私には、縁のない上級貴族の常識。
それにしても、そこに当事者であるミラ様の意思が顧みられていないのが残念であり、可哀想と思うのは、私が貴族としての意識が低すぎるからでしょうか?
貴族家に生まれたからには、政略結婚も当然許容すべき事であり、そこに愛を求めることはナンセンスだと理解していたであろうミラ様。侯爵家に生まれた身として覚悟していただろうからこその『当然ですわ!』なんだろうと、彼が自分を納得させても仕方がなかったとは思います。でも、そこでちゃんと自分が感じた違和感を追求しておけば良かったんですけど…………。
とにかく、そんな感じでカーライル様とミラ様、それぞれ独り寝の初夜は過ぎていった。
日常は過ぎていきます。
本来のカーライル様のような各騎士団副団長としての仕事は、会議、訓練、職割、団長の世話、経費、書類の確認といった忙しさの中に漬け込まれたものらしいのですが、ここ第二騎士団に於いては、大体の事務系の仕事は団長と副団長補佐がやってくれるので、副団長の仕事は、ほぼ団員の訓練のみに専化されているみたいでした。
そんなカーライル様、日が落ち、宿直と言葉を交わして帰るのは愛人宅。というか、愛人部屋。つまり、私の部屋という事になる。貧乏男爵家が王都にタウンハウスなんて持ってる訳もなく、寮に入れるほど寄付もしていないから、学園に程近い、比較的治安の良い所に部屋を借りていた。まあ、同じような境遇の貧乏貴族仲間もある程度いたので、半ば第二学園寮みたいになっていたのですけれど。
それよりも、私はこの時の自分の立場を愛人と称しております。カーライル様の結婚前なら恋人で良いのですが、結婚しちゃったら愛人でしょう。未経験で愛人なんて、ちょっと胸が詰まる思いですが、仕方がありません。ケジメです。
そのカーライル様は結婚の翌日から、殆ど家に帰っていない。五日に一日帰るかどうかといったところで、私の部屋に居付いている。
カーライル様の実家から付いてきたという執事長は、あまり良い顔をしないけど、文句を言うようなタイプではないとの事。そもそも彼は、この婚姻の為に実家を出て屋敷を設けていました。そこで、実家から付いてきた元乳母の夫婦が執事長、女中頭として屋敷を切り盛りしてくれているのです。
執事長のヨハンは、実家の長であるハイデンマルク子爵の従者から執事長になった為、何かと忙しそう。彼の妻であり、カーライルの乳母であったハンナは、新しい下女の教育とミラに付いてきたジョナリス侯爵家出身の侍女、メイド達との折衝にこちらも大忙し。
つまりは、口煩い者もなく、カーライルは結婚してからも自由を謳歌していたのです。
「新婚生活はどうですか?」
仕事を終え、愛人宅に帰ろうとしたカーライルに声をかけてきたのは、フレイマン・トレンディウス様。
伯爵家の出自で、カーライル様から見て先輩騎士。第二騎士団では副団長補佐。伯爵家といっても三男なのでと、子爵家のカーライル様に尽くしてくれるという良い人。確かに、伯爵家といっても、三男では家を継げる可能性はほぼ無いし、嫡男が家督を相続した途端に爵位を持たない貴族になるか、平民に落ちるしかないでしょう。だとしても、二年年下の上司に不満を溢す事なく丁寧に対応してくれる。万年笑顔の人。
カーライル様が苦手な事務方の仕事も熟し、職務以上に彼の事を気にしてくれて、世話を焼いてくれるフレイマン様と出会えたことは、副団長になれた事以上の幸せだと、カーライル様はいつも言っておられました。
おそらく彼は、カーライル様が新妻の待つ屋敷に帰ることなく、愛人宅に入り浸っている事も知っていたでしょうが、咎めるような事を口にすることはなかったようです。ただ、結婚した同僚に対しての常套句として、新婚生活とは口にしていたみたいですが。
そんな金髪碧眼の先輩騎士に軽い挨拶を交わして、彼が向かうのは、私の部屋。
フレイマン様は、屋敷とは違う方向に帰るカーライル様を、笑顔で見送る毎日。彼は宿直は滅多にしないらしいので、カーライル様の代わりに残業で書類整理でしょう。
私と彼の出会いは、カーライル様がまだ駆け出しの騎士だった頃。学園生だった私に一目惚れだったらしいです。
彼曰く、私との結婚を考えた事もあったらしいのですが、私はまだ学生の身。その上、男爵家では騎士団副団長の後ろ盾には弱すぎる。実力主義の世界とはいえ、後ろ盾は大事だから言葉にできなかったのだとか。
「ゆくゆく団長になれる日が来たら、爵位こそ変わらないが立場は侯爵と同等と見なされる。そうなりさえすれば、側妻を持つ事も醜聞でもなくなる。それまで待ってくれナタリア」
そう言われた時は、目の前が真っ暗になりました。
だってそうでしょう。学生でありながら将来が側妻。初恋で側妻。頑張っても側妻。やっぱり側妻。どうしても側妻。
「君と知り合えてから一年か……」
ふと溢してしたような彼の言葉に、振り向くと、彼が優しく微笑む。
やっぱり好きなんだよね。
そんな事を想ってた。
【昊ノ燈】と申します。
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