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第9話 二人の同居生活が始まった―おふくろの味の夕食を作ってくれた!

朝、キッチンの音で目が覚めた。美幸の背中がみえる。7時10分だった。これでも出勤までには十分に時間がある。


「おはよう」


美幸はトーストの皿を持ってきて座卓に並べている。それからホットミルクのカップ、フルーツ、目玉焼きの皿が次々に並ぶ。僕はバスルームに入って歯磨き、髭剃り、洗面を終えて、寝室に入ってスーツに着替える。


寝室は美幸の匂いがする。しばらく忘れていた甘酸っぱいような匂いだ。美幸がここで寝ていたと実感できる。僕はこの匂いが好きだ。癒されるというか、心を落ち着かせてくれる。


そういえば美幸も僕の匂いがすると僕のベッドで初めて寝たときにそう言ったのを思いだした。一緒に住んでいたからお互いの匂いを覚えていた。離れていたからそれが敏感に分かるのだろう。席に着くと美幸が待っていてくれた。


「朝食を作ってくれたんだ」


「早く目が覚めたから、作ってみようと思って、こんな感じでどう?」


「言うことはない。朝食を食べて行かないと11時ごろに疲れてくるから、勤めてからは朝食を抜かないことにしている」


「良いことだね。私もそうする」


二人が食べ終わると、美幸は片付けを始めた。後片付けは僕がするというと、今のうちは私がすると言ってさっさと片付けて洗い終えた。

 

「美幸の今日の予定は?」


「二子玉川でショッピングをして、それから溝の口にも行ってみます。それと今日は夕食を作ってみます」


「無理することはないけど、入社まで何日かあるから、今のうちにできることはしておいた方が良いと思う。勤め始めると時間が取れなくなるから」


僕は8時過ぎに出かけた。美幸は掃除を始めると言っていた。無理をしなければ良いが、美幸は身体が丈夫な方だった。


それと連絡はLINEですることにした。心配だからマンションに帰ったら連絡を入れるように言っておいた。


午後2時過ぎに[帰宅しました]とのLINEが入っていたので安心した。[了解]の返信を送った。


7時過ぎに[これから帰る]のLINEを入れた。[気を付けて帰って]の返信が入っていた。


7時半過ぎにマンションに着いた。いつもは暗い自分の部屋の明かりが点いているので不思議な感じがした。ドアを開けて入ると美幸が出迎えてくれた。良いものだな、迎えてくれる人がいるって、そう思った。カレーの匂いがする。


「おかえり。夕食はカレーライスとサラダにしたけど」


「ありがとう、ごちそうになるよ」


僕は部屋着に着替えてから食卓についた。いい匂いだ。一口食べてみる。美幸が心配そうに見ている。


「おいしくできている。そういえば母さんのカレーに似ているな」


「ママに作り方を教えてもらったから、2種類のルーを混ぜて作るの」


「おふくろの味だね」


「私もママのカレーが好きで、お兄ちゃんも好きだったから、作ってみようと思ったの」


「ありがとう、1年ぶりかな、このカレーの味」


僕はお替りをした。美幸は嬉しそうによそってくれた。


「明日は何がいい?」


「何でもできるのか」


「ママがよく作っていたものなら習ってきたから」


「肉ジャガはできる」


「大丈夫だと思う」


そうして3月31日(日)まで、美幸はおふくろの味の夕食を作ってくれた。

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