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第16話 「恋愛ごっこ」はもうやめにしよう―でもEDになってしまった!

今日、僕は早く帰ってきた。それは昨晩のことがあったからで、僕は美幸を一人の女性として見ていたことが明確に自覚できたからだった。


美幸はLINEで8時過ぎに帰宅すると知らせてきていた。今日の夕飯は二人の好きなカレーをつくることにした。一人暮らしも長くなって、美幸の作る料理を覚えたりして、レパートリーも増えてきた。それを一緒に食べるのも当たり前になってきている。


美幸が帰ってきた。着替えを終えるとお腹が空いたと言うのですぐに夕食にした。美幸はおいしいと言ってお替りをしてくれた。今日は美幸が疲れているようなので僕が後片付けをした。そしてコーヒーメーカーでコーヒーを入れて二人で飲み始めた。


「美幸、話があるけど」


「何? 改まって」


「『恋愛ごっこ』のことだけど」


美幸が緊張するのが分かった。


「昨日のことでよく分かったんだ。自分の本当の気持ちが」


「本当の気持ちって」


「美幸を妹としてではなく一人の女性として思っていると」


「私はいつもお兄ちゃんのことを一人の男性と見ていたわ。だからお兄ちゃんにも早く気づいてもらいたかった」


「それでもう『恋愛ごっこ』は終わりにしないか? もっと自由に美幸と付き合ってみたいと思うから」


「良かった。『恋愛ごっこ』を終わりにして、何もなかったことにしようと言うのかと思って心配した」


「僕がそんなこと考えるはずはないだろう。美幸を離したくないと思っているのに」


「昨晩、いたずらをし過ぎたのでお兄ちゃんに嫌われたかと思って」


「確かにやり過ぎだったけど、我慢できなくなった。それで僕の本心が分かったからよかった」


「それじゃあ、もう『ごっこ』の範囲もなくなったのね」


「なくしよう。それでいいのか、美幸は」


「はい」


そう言って僕をじっと見た。


「じゃあ、お風呂の準備をしてきます。先に入っていい?」


「ああ、先に入って」


美幸は寝室へ入って行った。お風呂はもう沸かしてある。そしてお風呂に入った。『恋愛ごっこ』はやめようと言ったけど、これから美幸とどういうふうに接していこうか、美幸はなにをしてくるのかを考えていた。


美幸がお風呂から上がってきたので、僕が続いて入った。僕がお風呂から上がると美幸はリビングにいなかった。


寝室に入っていくと美幸は僕の布団に入って顔だけ出していてこちらを向いていた。美幸ははにかんだような目つきで僕をじっと見ていた。


僕は空いている左側に入ろうと布団をまくった。美幸は何も着ていなくて裸のままだった。いつもはパジャマを着ているのに、美幸の生まれたままの姿が目に入ってきたので驚いた。小さい時には一緒に裸になってお風呂に入っていたが、大人になってからの美幸の裸を見るのはもちろん初めてだった。


色が白くて手足がすらっと長い綺麗な身体だった。一瞬のことだけど目に焼き付いた。でも僕は目をそらして布団を元に戻した。


「お兄ちゃん、布団に入って」


僕は気を取り直して布団の中に滑り込んだ。美幸が抱きついてくる。瞳と初めて交わったのは僕が発熱して朦朧としていた時で、もちろん瞳の裸なんか見ていなかった。瞳の裸をみたのはずいぶん後になってからだった。


美幸が抱きついてきているのに合わせて僕も美幸を抱き締めていた。でも僕の身体が反応していないことに気がついた。瞳とはこうはならなかったのにどうして? 気にするとますます反応しないことであせってくる。可愛い美幸が抱きついてきているのに、本当にどうしてだろう。


僕の手が動いていないことに美幸は気づいた。


「どうしたの、お兄ちゃん、思いどおりにして、お願い」


「美幸、だめなんだ」


「何が?」


「何がって、あそこがいうことを聞かない。EDになったみたいだ」


「どうして、私がいやなの?」


「そんなことはない。大好きだ」


「それならどうして? 飯塚さんとはできたのでしょう。私ではだめなの?」


「僕にも分からない。少し時間がほしい」


「分かった。じゃあ、いつものように後ろから抱いて」


「ああ」


後ろから抱き締めると、美幸はこの前のようにお尻を突き出してきた。僕はそれを受け止めたが、やはりだめだった。あの時とは状況が全く違う。美幸もお尻の感触でそれが分かったみたいでやめてしまった。


僕は美幸にすまなくて黙って抱いていただけだった。美幸のすすり泣く声が聞こえてきた。しばらくするとそれは寝息に変った。僕は少しほっとした。僕はいろいろなことを考えていたが、眠ってしまったみたいだ。


翌朝、目が覚めたら、いつものように美幸はこちらを向いて僕に抱きついていて腕の中にいた。


「美幸、昨晩はごめん。せっかく美幸がそんな気持ちになってくれたのに」


「お兄ちゃん、気にし過ぎ、そのうちなんとかなるから」


「時間が解決してくれるかな?」


「私にも分からないけど、お兄ちゃんの気持ち次第だと思う」


「僕の気持ち次第か? いろいろ考えてみてはいるけど」


「起きましょう」


そういって、美幸はバスタオルを身体に巻いてバスルームへ入っていった。それからいつものように二人は朝食を食べて、美幸が先に出勤して、僕が後から出勤した。


◆ ◆ ◆

その日一日は美幸からLINEが入らなかった。LINEを入れても既読にはならなかった。気になったので早めに帰宅した。夜遅くなっても美幸から何の連絡も入らない。美幸はもう僕の顔を見たくないのだろうか。


とうとうその日、美幸はマンションへ帰っては来なかった。突然、家出してしまった。僕が悪かったんだ。美幸に恥をかかせてしまった。美幸の惨めな気持ちが痛いほど分かった。

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