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十一話「天使の羽は脆い」


 ――落ちてしまう。


 天使のような彼女が、血を口から吐き出して、弱々しい眼差しで虚空を見つめて、落ちようとしていた。


「ロリミア様ッッッ!!!!」


 突如として羽を失ったかのごとく、決闘の最中に力を無くしたロリミア様は、どうやら一瞬自分の身に何が起こったか分からないようで呆然としていた。

 かく言う俺も戸惑いを隠せない。が、慌ててバリアを壊して彼女を抱き抱えれば、彼女は更に吐血して咳き込む。


「お姉様っ!! ああ、そんな、うそ……」

「アンジェラ様!」


 決闘を見守っていたアンジェラ様は、ロリミア様の異常に気付くといち早く飛行魔法で向かってきた。俺の腕の中で目を閉じるロリミア様の呼吸が浅いことに気付かれると、アンジェラ様は顔を青くする。


「レオ様、急いでお姉様を保健室へ――」


 彼女の言葉に頷きかけた時、俺たちの頭上に影が差した。


 ロリミア様の使役するマグマをまとった巨人は、未だ俺を執拗に狙って攻撃しようとしていた。

 ロリミア様を抱えた今では、反撃の術が無い。避けようにもアンジェラ様まで巻き込まれてしまう。


 身を挺してどうにかしようとした矢先、上にバリアが張られた。


「まったく、世話が焼けるなぁ!」

「リューシャ! 助かった!」


 たまたま彼女も俺たちの決闘を見に来ていて良かった。

 どうやらリューシャがバリアで巨人の攻撃から守ってくれたらしい。あの一撃を咄嗟に防御出来るなど、やはりリューシャは強い。俺では出来なかった芸当だ。


「ロリちゃん起きそうにないし、ボクがこの巨人をなんとかするよ。レオくん、アンジェちゃん。ロリちゃんのこと頼んだよ」

「もちろんだ。リューシャも気を付けてくれ!」

「誰に向かって言ってんのさ。任せなさいな」

「すみません。お願いします、リューシャ様……! クリス! 他生徒の避難をお願いします!」

「分かった!」


 各々、非常事態を目の前にやるべきことを成す。俺も胸元を血で汚して気絶したロリミア様を抱え、アンジェラ様が気休めの回復魔法をかけ、医務室へと駆け込んだ。


 この国最高峰の学園の医務室ともなれば、高名な医者が責任を持って医務室の訪問者を診てくれる。

 だから俺はロリミア様を運ぶなり、あとは医者と妹のアンジェラ様に任せた。


「すみません、俺は決闘場に戻ります。あの巨人がリューシャ一人でなんとかなるとは考えにくいので」

「お姉様がバフ魔法を大量にかけ、マグマすら身にまとった巨人ですからね……止められる方はそうそういないでしょう。申し訳ありませんがお願いします、レオ様」

 

 ロリミア様のことが気がかりじゃないわけではない。だが彼女が使役していた巨人がもたらすであろう被害は考えるだけでも肝が冷える。

 額に汗をにじませ、浅く呼吸を繰り返すロリミア様を見て心苦しくなったが、医務室を出た。


 案の定、決闘場に戻ればリューシャ一人では苦戦していた。どうやら生徒の避難がまだ終わっていないらしく、彼女はまだ残る生徒たちを守りながらの防戦一方を強いられていたらしい。


「まったく、誰かを守るなんて性に合わないって……!」

「大丈夫か、リューシャ!」

「遅いよレオくん! ロリちゃんは無事なんだろうね!?」

「まだ分からん。医務室の先生とアンジェラ様に任せたところだ。クリス! 先生は呼んだか!?」

「先に避難させた奴らに任せた!」

「いや……先生が駆けつけるより、ボクが対処する方が早そう。レオくん、少しの間だけ気を引いてよ。最後のロリちゃんの命令はレオくんを吹き飛ばすことだし、君なら簡単に陽動出来るからさ」


 そう言うとリューシャは魔法を唱える準備を整える。

 どうやら大掛かりな魔法らしく、大抵の魔法はサッと唱えるだけでも高威力が約束される彼女が時間をかけているということは、この巨人すら止められるほどに強力なものなのだろう。


「こっちだ!」


 巨人の注意をリューシャから逸らすべく、俺は大きく動いて存在感を放ち、巨人の目を奪った。たちまち俺に攻撃が向くが、空を飛びながら避けていく。


 ちょうどクリスによる生徒たちの避難が終わった頃、リューシャも魔法の準備を終えた。


「《パーマフロスト》!」


 一瞬だけ、ひやりとした空気が頬を撫でる。その無情な冷たさを認識した次の瞬間、マグマをまとった巨人は足元から凍りついた。

 決闘場は巨人のマグマのせいで高温に包まれていたが、リューシャが唱えた魔法によって一気に気温が急降下した。


 ようやく駆けつけた先生が巨人の氷像を見て驚き、事の顛末を聞く前からカンカンに怒るのも至極当然のことだった。




「悪魔の呪い?」

「そうなんです。お姉様、悪魔の呪いにかけられていまして……」


 先生から説教されかけたが、事情を説明すると解放された。止むに止まれぬ事情を察した先生は今回のことを大目に見てくれたおかげで、俺たちはロリミア様の様子を見にくることが出来た。


 そこで俺はようやく初めて知った。ロリミア様にかけられた呪いの正体について。


「てっきり、ただ成長しないだけの呪いかと……」

「それは表向きに伝えていることです。お姉様がいずれ死ぬと広まれば、『角が立つから』とお姉様が……」

「ロリちゃん、そんなん気にする性質(タチ)だったっけ? もう角立ってると思うんだけど」

「大事な話をしているんだ、リューシャ」

「ごめんごめん」


 医務室、ロリミア様が眠るベッドの近くにも関わらずリューシャは相変わらず軽い。


「悪魔の呪い……確か、一定の期限を過ぎると死んでしまうのですよね。ロリミア様の寿命はあとどのくらいですか?」

「……大人にはなれない、と告げられました。なので、あともって数年かと……」

「そん、な」


 せっかくまた会えたのに。

 こんなのって、アリなのか。


 だがアンジェラ様は顔を曇らせ、クリスも居た堪れなさげに顔を逸らしている。それが残酷な真実であると如実に表していた。


 そんな時でもリューシャは空気を読まない。


「悪魔の呪い、解けないの?」

「お父様が必死に世界中を探し回りましたが、お姉様が死なずに済む方法は……」

「解呪すると死ぬ方法しか無いんだ」

「はい。当時、国一番の魔術師、メイヴィス様に解呪を頼みましたが……彼女でも、首を横に振りました」

「ふーん、そっか。おばあちゃんが……」

「はい、おば……えっ?」


 アンジェラ様は一瞬、呆気に取られる。俺は聞いたことがある話なので、特に強い反応を示すでもなかった。


「メイヴィス様のお孫様……でいらっしゃったのですか、リューシャ様は」

「メイヴィス・オールヴェルトでしょ? 去年死んだけど、それまで国一番の魔術師だった人。あれ、あたしのおばあちゃんだよ。そっかそっか、おばあちゃんがロリちゃんの呪いを解こうとしたんだね……」


 思わぬところで縁を垣間見て驚く様子のアンジェラ様だが、リューシャは構わず自分の思考に集中した。

 そしてひとしきり脳内と議論し、結論が出たらしい。一度頷いた彼女はアンジェラ様を見上げる。


「悪魔の呪いの解き方、あるにはあるんだよね、アンジェちゃん」

「は、はい。……しかし」


 アンジェラ様は一瞬口ごもった。


「……それで解いた瞬間、お姉様は急に成長なされて負荷がかかり過ぎて死んでしまいます」

「なるほど。悪魔の呪いを解くと今まで成長してなかった分、急成長してしまうのか」

「はい。……呪われた当時でしたらまだ解呪も出来ましたが、お姉様が悪魔の呪いにかけられていると知ったのは、呪われてから一年後でして……その頃には既に解呪すると危険な域に達していました。一年分とはいえ子どもの成長は早いですから」


 だから昔の姿のままなのか、ロリミア様は……


「それ以外の解呪方法は?」

「お父様が東奔西走されて探しましたが、見つけても強い悪魔の呪いなので全て効かず……」

「ふむふむ。なるほど、分かった」

「何がだ?」

「……いや、不確かな情報だからまだなんとも言えないや。少し家――っていうかおばあちゃん家行かせてくれる?」

「一体どうしたんだ、リューシャ」

「ボクだってロリちゃんを助けたいってことだよ」


 ロリミア様と友人にも関わらず軽薄なリューシャの態度に憤慨しようとした。が、意外にもリューシャは真剣味を帯びたトーンで返す。

 

「ロリちゃんを助ける方法があるかもしれないんだよね」


 その一声に、俺たちの視線が一斉にリューシャに向く。だが彼女はもったいぶって話すことはせず、代わりにまっすぐと俺を見つめていた。

 正確には、俺の黒い眼を。


「このアストリア王国で君のような黒目黒髪の人間、見たことある?」

「……いや、無いが」


 俺のトレードマークとも言える闇の色をした髪と瞳。時折からかわれることはあるものの、特に気にしたことなく生活してきた。

 だがリューシャにとっては大事なようだ。


「そう。おかしいでしょ。メラニン色素が少ないボクたちは髪や目の色が明るいけど、レオくんは逆に暗い」

「よく分からないが、それがどうかしたのか?」

「……昔、君のように黒目黒髪の――恐らくメラニン色素が多い人間がたびたび歴史の岐路に現れた。その者たちはどうやら悪魔の天敵らしい」

「なっ……は、初めて聞いたぞ、そんな話」

「だって滅んだとされてたし、そもそも曖昧な話ばかりで眉唾物扱いされてたからさ」


 少なくとも俺は学校の教科書を読破したが、そんな話は聞いたことが無かった。

 となれば、一部のマニアックしか知らないような専門知識か。この友人は一体普段から何の本を嗜んでいるんだか。


「何で『悪魔の天敵』だなんて仰々しい呼び名がされているのか。それは決して悪魔を倒す力を持っているからじゃない。悪魔の扱う術をどうにかする力を持っていたから――とかなんとか」

「……それ、本当なのか?」

「さぁ、一概にそうだとは。それを調べるためにも、おばあちゃん()行くんだよ」


 最高峰の魔術師だったリューシャの祖母ともなれば、家にある蔵書の量も膨大であると容易に想像がつく。


「あ、そうだ、レオくん手伝ってよ。思い当たる本がたくさんあるから運ぶの大変なんだよね。それを学校まで持ってきて、みんなで読んで情報集めよ。そしたらロリちゃんを助けられる方法もあるかも」

「もちろん、俺に出来ることがあれば手伝う。このままロリミア様を見殺しになんて出来ない」

「リューシャ様……ありがとうございます、お姉様のために」

「なんというか、意外だな。リューシャ嬢のことは孤高の天才だと思ってた」

「クリスくーん、孤高って何さ。ボクだってロリちゃんのために家にある本片っ端から読んで、ようやく悪魔の天敵なる存在を知ったんだよ〜? 友達想いとは思わないのー?」

「わ、悪かった」

「冗談冗談。じゃあアンジェちゃんとクリスくんはロリちゃんのことを頼んだよ」


 なるほど、知識の出どころはロリミア様を気にかけて読んだ本だったのか。

 

 俺が編入して初日、リューシャは俺に軽薄に絡んできた。どうやら興味を持ったらしい。そんな調子で付き合いが始まれば、彼女は気まぐれで、飽きたらすぐに投げ出す軽い性格をしていた。

 だから、友人のために頑張る姿は意外だった。彼女が人のために何かするところを想像出来なかったから。


 それとも、ロリミア様をそんなに大事に思っているのか。


 寮長に外出許可を得た俺たちはリューシャの祖母の家へ向かい、リューシャがタイトルから見て気になった本を俺が持つことになった。

 あまりにも積まれた本は流石の俺も運ぶのに一苦労したが、これもロリミア様のためだ。


「うわ、よくそんな持てるねレオくん」

「持たせておいてそう言うな。なら少し手伝ってくれ」

「ここぞとばかりに頼れる男のコとして頑張ってくれないと、ロリちゃんも振り向かないよーん」


 ……確かに肉体労働となれば俺の出番だ。つべこべ言わずに何百冊もある本を持って飛行し、速攻で寮へと戻った。


 戻った頃にはロリミア様はお目覚めになられていた。吐血してから気絶して以降の話を残った二人から聞いたらしく、少し苦々しい顔をしていた。


「……迷惑をかけたようね。リューシャと一緒に巨人を止めてくれたこと、感謝するわ」

「いえ、俺は別に――」

「それと決闘はあなたの勝ちでいいわ。こんな無様を晒したもの。負け犬みたいに吠えることしか出来ないわよ」

「負け犬だなんて! あのまま勝負を続けていればどうなっていたか分かりません。あれは呪いのせいで!」


 それより自分が死に向かっている実感はあるのだろうか。ロリミア様はご自分の命に執着される様子は無い。

 だが。


「うるさいわね、呪い呪いって。もう死ぬ身なのは分かってるのよ!」


 いつも気高いロリミア様が、医務室の片隅で癇癪を上げるように叫んだ。


「決闘に負けたのも呪われたのも全て私の責任。誰かに、何かに押し付ける気は無いわよ! ……どうせ、もう、死ぬんだから」


 ロリミア様らしくない、自棄になって悲痛な声を上げていた。

 そのせいだろう、彼女は咳き込んで再びうずくまった。アンジェラ様はロリミア様の容態を心配するが、その目には涙が浮かんでいた。


 ロリミア様は、ずっと我慢していたのか。


 自分は助からないと悟った彼女の心境を慮ると心が痛む。それを表に出さないように気丈に振る舞い、誰に対しても毅然な態度で接していた。

 きっとそうして強がっていたのだ。そうやって生きてきたのだ。


 死ぬからと、憐れまれたくないがために。


 ――生きたいと喚いてアンジェラ様たちを困らせたくないがために。


「…………失礼します」


 居た堪れなくなり、俺はロリミア様のいる医務室を出てしまった。


 きっと今は俺がいたところでロリミア様の助けにはなれない。むしろストレスすら与えてしまうかもしれない。


 だが俺は拒絶されたとしても、最後までロリミア様に恩を返すことを諦めるつもりは無かった。


「……リューシャ」

「そうだね、寮に戻ろっか? ロリちゃんを助ける方法を調べるためにさ」


 同じく医務室を後にしたリューシャを呼べば、察しの良い彼女は快く頷いた。


 全て自己責任であると訴えたロリミア様だが、そんなわけがない。全て悪魔のせいだ。

 そいつさえいなければ、ロリミア様が死にかけることも、アンジェラ様が悲しまれることも、クリスが何も出来ない悔しさに駆られることも無かった。


 しかし、ロリミア様を助けられるかもしれない。

 全員が笑ってずっと過ごせるような、そんな未来が実現するかもしれない。


 そのためなら俺はどんな奴にだって身を捧げてやる。

 ロリミア様への恩返しとして、そして初恋の人には幸せでいてもらいたい純粋な好意を持って。




 その日から俺たちは持ち運んだ本に目を通し、有用そうな情報を探す日々に明け暮れた。勉強すらそっちのけで、本の羅列に目を通す毎日だ。

 俺やリューシャはもちろん、クリスやアンジェラ様にも協力してもらっている。

 ただしアンジェラ様には無理はさせられない。生徒会の仕事もあれば、放課後には近くの病院に入院することになったロリミア様のお見舞いもあるからだ。

 

 そう思っていたのだが……


「アンジェラ様、そろそろお休みになられた方が……」

「いえ……お姉様の命の刻限が迫っているのに、私が無理しないわけにはまいりません……」


 俺の忠告とは反対に、アンジェラ様は目に見えてやつれるほど作業にのめり込んでいるようだった。

 ロリミア様のことを引き出して強く言っても聞かない。ロリミア様も頑固だったのだ、妹のアンジェラ様も姉君に似て頑なだった。


「ロリミア様のご様子はどうですか?」

「……『私のために無理する必要なんて無いのよ』、と。相変わらず、自分の生を諦めていまして……」

「……」


 今は休学扱いされているロリミア様と、しばらく会っていない。だからアンジェラ様から様子を聞くしかなかったが、どうやら死が近い実感から諦観されているようだ。

 連日の作業による慢性的な寝不足と、ロリミア様の死が近いことによる精神的負担からアンジェラ様も覇気が無い。


 だが応援の声をかけることしか出来ない。例え魂の力を削ったとしても、今全力を尽くさねば俺たちは後々後悔するだろうから。


 俺たち四人のみならず、ロリミア様や生徒会の人脈も頼って作業は続いた。当初俺が運んだ本には有用な情報は無く、リューシャの祖母の家を往復して何度も本を運ぶ羽目になった。

 そのせいか筋力に置いて俺の右に出る者はいなくなったが、それは余談だ。




 そしてその日は突然やってきた。


「レオ! 見てくれ、ここの部分!」


 もはや日課と化した何冊もの本に目を通す行為に、クリスが終止符を打ったのだ。


「これ……まさか」

「ああ。多分、リューシャ嬢の言う『悪魔の天敵』の文献だ」


 随分と古い本にはしおりが挟まれており、その部分には目的の情報が記載されていた。目を通すと摩訶不思議で眉唾な情報だったが、今は藁にもすがりたい。


「……一か八かで試してみる価値はありそうだな。クリス、今すぐリューシャとアンジェラ様を呼んでくれ。やってみよう」

「ああ!」


 ようやく見つけた希望に、連日の作業で死んでいた目に光が宿る。


 この手の作業に慣れているのか同じ作業量にも関わらずあまり疲労の見えないリューシャ、日々の激務のあまり普段ですら船を漕ぐアンジェラ様を呼び、クリスが見つけた文献を見せた。


「……なるほど、これなら……レオくん、もし()()()()()()大丈夫?」

「構わない」

「なっ、れ、レオ様! 最悪死んでしまいますよ!?」

「ここでロリミア様に恩を返せず、どこで返せと言うのですか! ……ロリミア様を救えるなら、俺はどうなっても構わない」

「しかし……」

「アンジェの心配ももっともだが……レオ、お前なら大丈夫だと思う」


 俺の身を案じてくれるアンジェラ様を制し、クリスは信頼の眼差しを向ける。


「だってその身体は一体誰のために鍛え上げてきたんだ?」

「……! 無論、ロリミア様のためだ!」

「ああ。ロリミアのことを想って馬鹿みたいな体格が出来上がったんだ。お前ならいけるよ」


 クリスは俺の想いの強さをよく知る男だ。だから俺の覚悟も知っており、むしろ後押ししてくれた。

 アンジェラ様が心配そうに俺を見るが、もう決めたことなのだ。


 この身が裂けようが、ロリミア様を助けられるならば喜んで捧げる。


「これやるには儀式のために大量の魔力が必要になるよ。正直、儀式の途中でも魔力を回復し続けないと」

「でしたらグロリアバチのハチミツをすぐに大量に手配いたします」

「確か急激に魔力を回復させる効果があるんだったか。けど、そんなすぐに集まるか?」

「大丈夫ですクリス、お姉様の下僕や生徒会の皆様を頼ります」

「そうだ、君たちの人脈広いんだった……」


 流石ロリミア様の妹君というか……温厚そうに見えるが、逞しい限りだ。


 一縷の希望にすがり、俺たちは結束力を高めて見つけた一つの方法の準備を進める。


 ――待っていてくれ、ロリミア様。今度は俺が恩を返す番だ。


 もういいんだ、強がらなくても。プライドの袖に隠した『生きたい』を出したっていいんだ。どうせ死ぬ身だからと何もかも諦めて手放す必要は無いんだ。


 俺が死んでも、貴女の未来を奪わせはしない。

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