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不慣れな暗殺者たち

男は音も無く地面に降り立つ。消音の魔術が着地音を殺し、身に纏うローブがあらゆる索敵術式を潜り抜ける。後者は学術都市秘蔵の封印指定魔術だ。

多くの魔術師が集い研究を行うこの都市では時折、公表すれば都市の治安維持や人権を損ねると判断された魔術が生まれる。


例えば人の夢に干渉し、異なる思想を植え付ける夢魔術やあまりの隠密性から都市内の警備網を無力化してしまう透過術式などだ。

それらは研究そのものが封印されるが、術式は残される。そしてそれらの術式は、都市に敵対する魔術師たちに向けられるのだ。


隣では、音も無く降り立った同僚の姿が見える。顔までも包帯で覆われ、その表情も何も見えない。名も知らない。

彼らの属する組織は、学術都市の裏の活動を行う機関だ。表の騎士団や警邏では、手を出せない存在を都市の治安維持のために調整するのが彼らだ。


組織内部には横のつながりはなく、現場の実行役である『カラス』が任務内容に従い、抽出され即席のチームを組み、連絡役の『ハト』の指示に従い、行動する。

男は、隣に立つ男の姿に見覚えは無い。知っているのは、前もって伝えられた男の能力だけだ。それも、任務が終われば、忘れる。


男の記憶では今回の任務が最初の任務だが、おそらくそれは違う。任務が終われば、その任務の情報は全て記憶から消去されるからだ。何度も何度も同じようなことをしてきたはず。だがそれを忘れた男の体感では初任務だ。


もしかすれば隣の男とも組んだことがあるかもしれないが、それを知るのは組織の頭脳である『禿鷹ハゲワシ』のみ。

そうすることで、男達『烏』は、拷問も記憶操作も通じない使い捨ての駒となる。


男達の今回の任務は、魔術学院の生徒の誘拐だ。同じ組織の人間に引き渡すまで彼らの役目。その後、どうなるのかは知らない。知る必要もない。己を持たない彼らは、ただ与えられた任務をこなすのみだ。


相手は魔術学院の一年生。家名も聞いたことは無く、血の濃さが実力に直結する魔術の世界では警戒に値しない。だが、特級クラスに属しており、何かある。


男達は慎重に歩を進める。

庭に張り巡らされた魔術網をすり抜け、対抗魔術を行使し、慎重に警戒に引っかからないように進んでいく。


(他愛ない)


動体物感知、使い魔による肉眼、魔力検知。どの魔術も、訓練を積んだ男達にとっては、基本的な警備網であり、自身の存在を誤魔化すことは簡単だった。

(だが、特級クラスの工房としては、あまりに――)


「〈灰石の棘〉」

あまりに簡単に事が進んでいる。そんな男達の違和感を肯定するように冷徹な声音が、男達に降り注いだ。


「————」

空白に包まれる男達の意識。次の瞬間、大地が逆巻き、牙を剝く。

灰色の棘が幾本も突き出し、庭中を埋め尽くした。

棘の長さは一メートルを超える。人間など優に刺し貫ける長さだ。


(死んだかな?)

ゼノンは隠ぺいの術式を解除し、庭に姿を現した。

敵の力量が分からなかったため、広域に強度の高い杭を生み出したため、少なかった魔力量はさらに減った。

それでも、平均的な魔術師数十人分はあるのだが、常時発動させている魔具に消費される魔力もあり、ゼノンが自由に使える魔力量は少ない。


今ので死んでいなかれば、泥仕合になるか、黒牙コクガが帰って来るまでの時間稼ぎに徹するしかない。純魔術師のゼノンでは、魔力が無くなれば何もできない。

だが、ゼノンの望みは叶いそうにはなかった。


屋敷全域に張り巡らせた本命の魔力結界が、庭を動く二つの人影を捉えていた。

男達が把握していた魔術による警備網は、表向きのダミーだ。本命は屋敷の地下に埋め込んだ魔具による索敵である。

アリスティア家の所有する魔具であり、学院が秘匿した術式による隠ぺいすら見破る。ちなみに、結界を張る魔具と接続する魔具を使用人の纏め役として来ているアニータも持っている。


魔力結界による索敵によれば、人がいる。

だが、音は無く、魔装術で強化したゼノンの五感にも捉えられない。


(暗殺者かよっ!)

気配を殺す走法に魔術結界を掻い潜る侵入方法。敵の正体は明白だ。

狙いは恐らく自分だろうと、察する。


問題は、なぜ狙われるか、だ。心当たりがあるとすれば、教団か、あるいは口の悪い王女様か。だけど、直接的に過ぎる。


教団は密かに誘拐事件を進めている。その対象は、商人や貴族など血筋、家柄に価値がある者たちだ。無名の一魔術師ライアーとしてこの都市に来た自分は、誘拐対象とはずれるだろう。


そして王女様は、誰かに闇討ちを依頼するようなタイプではない。自分でやるタイプだ。

なら、この襲撃は、自分の知らないところで生まれた事件の結果起こったものか、あるいは自分の知らない誤解でもあるのだろうとゼノンは結論付ける。

陰謀渦巻くこの学術都市では珍しくもなさそうなことだと、ゼノンは心中でため息をついた。


背後から、致死の刃が迫る。それを、魔術結界の索敵で分かっていたゼノンは、冷静に魔具で生み出した障壁を使い防いだ。

敵の動揺したような声音が漏れた。自身の存在が察知されているとは思っておらず、奇襲が失敗したことに驚いたのだろう。ゼノンはその隙を見逃さず、影から引き抜いた槍杖を振るう。


いきなり生まれた長いリーチを持つ槍杖を防ぎきれなかった敵は、腕を盾に槍を防ぎ、闇夜へと消えていった。

(腕を壊した)

槍越しに伝わった鈍い手ごたえから、敵の骨を折ったと確信した。

追撃に向かおうとしたが、どこからか飛んできたナイフがゼノンの足を止める。


「チッ」

槍杖を振るい、ナイフを叩き落とした。何も、ゼノンが飛翔物を叩き落とせるほどの技量を持っているわけではない。ただ投擲されたナイフが、ゼノンでも簡単に叩き落とせる程度の速度しかなかっただけだ。


(攻撃役が一人にサポートが一人か)

役割を明確に分けていることが、敵の動きから分かる。それは、敵が連携に不慣れであることを表してる。わざわざ同様の技量を持つ暗殺者を二人揃えて、攻撃を一人しかしないということは、連携不足による同士討ちを恐れているからだ。

そして、戦いにも慣れていない。恐らくは、自身と同等かそれ以下に。そうゼノンは敵の力量を分析する。


攻撃役の腕は折った。これが熟練の暗殺者であれば役割を切り替えることができただろう。だが、敵は連携に不慣れ。今が攻め時だとゼノンは身を沈め、次の衝撃に備える。

魔術を発動させる。対象は空気。範囲は庭全体。効果は質量付与。

つまり、軽い空気が重さを持つ。


「〈仮想質量重責空気メタ・エア〉」

「うぐぅぉおっ!」

暗がりの先から呻くような叫び声が聞こえる。暗殺者の軽く、筋肉の薄い身体には空気はさぞ重いだろうと、ゼノンも重さに耐えながら笑う。

これもまた、錬金術だ。実在する物質を操るだけではなく、非在の物質すら作り出す。


いよいよ魔力が尽きてきた。ゼノンは重さに耐えかね、地面に膝をつく。どこからか、飛んできたナイフが、空気に押され墜落する。

三人とも動けない。だけど、問題は無い。

ゼノンは魔術師だ。


「〈灰石の棘〉」

先ほどよりは範囲を絞った魔術。それでも、鉄をも超える強度を持つ魔術は、二つの肉体を貫いた。

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