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説得

「ふむ、謎の魔術師、か」

ココラカ都市のギルド支部長、デネールが髭をなぞりながら記憶を探る。顔に深い皺を刻み、過去の膨大な記憶を探っていく。冒険者としての現役時代、多くの魔術師と共闘、あるいは戦い、ギルド員になってからも多くの魔術師と接してきた。


「うぬらと戦えるような魔術師は数少ないゆえ、探せば見つかるじゃろうが……」

多くの魔術師を知るデネールでも、心当たりはなかった。そもそも勇者と戦えるレベルの戦闘に長けた魔術師はほとんどいない。


「見つからねえなら構わねえよ。もう死んでるからな」

レオンは興味無さそうにグラスを傾ける。

それを見て、デネールは思う。厄介なことになったと。その魔術師の素性は分からないが、勇者一行を足止めできるのならそれなりの地位を持つ者かその使いの可能性が高い。

それがココラカ都市の管轄内で他国の重鎮である勇者とぶつかったのだ。

勇者は襲われたから殺したと言っていたが、それもどこまで信じられるか……。


「そうか、わかり次第伝えるとしようかの。……それでうぬらはこれから魔術都市に向かうのじゃったな」

「ああ、親父の命令でな。めんどくせえが、レティシア達にはいい経験になるだろうよ」

「そうか、では達者で……どうした?」

コンコンと扉が叩かれた。ギルド二階の執務室には人を通すなと伝えておいたのだが、何か問題でも起こったのだろうか。


「やあやあ、失礼するよ」

返事を待たずに入ってきたのは真っ赤な魔女だ。デネールも彼女のことは知っている。彼が小さなころから魔術都市に君臨する年齢不詳の魔術の女王だ。

彼女は当然とばかりに室内に踏み入り、応接室に座る勇者たちを見下ろす。



「誰だ?客が来るなんて聞いてないぜ」

レオンが目を細め、無粋な客人を睨みつける。物理的な威圧感すら伴うそれを、彼女は笑顔で受け流した。

「彼女は運命の魔女アルフィア。君が春から在籍する魔術学院の理事長じゃよ」

「へえ、こいつが……」

「久しぶり、デネール君。そして初めまして、勇者レオン」

「とんだ大物が出て来たな。……俺達を迎えに来たのか?」

「ふふふ。必要なら送ってあげるけど?」

「いらねえよ。自分でいくさ」

デネールは胡散臭そうに魔女を見る。彼は知っている。彼女は勇者を見に来る程度で足を運んだりはしない。


「それで、なにようじゃ?」

「…ああ、そうだった。君たちの話していた魔術師のことだよ」

アルフィアがそう言った途端、室内に緊張感が満ちた。その発生源は、レオンだ。怒りすら滲ませた瞳でアルフィアを見る。

「てめえ、何で知ってやがる……」

レオンからすれば、獲物を横取りした相手だ。まだその怒りは収まっていない。

何かを隠しているのなら話せ。そう無言の威圧感で脅迫をするが、アルフィアの表情は微動だにしない。それどころか、微笑ましいようにレオンの瞳を見返した。


「無駄じゃ、レオン。彼女は知った風なことを言うのが趣味なのじゃよ」

「まあね。……あれを探すのは止めてくれ。双方にとっていいことにはならないよ」

アルフィアの眼差しは勇者ではなく、デネールに向いている。つまりは、そういうことだ。

「ぬしがそういうのなら、やめよう」

デネールは逆らわない。彼女の予言の精度を知っているためだ。だが、それでは納得のできない者もいる。


「……横から出てきて勝手なことを言いやがって。おい、爺。ディーン第一王子の名で調査を要請する。あれの正体を探れ」

ココラカ都市は、デネス王国領であり、龍王国の権力下にはいない。そのため、ディーン龍王国の王子の命令を聞く必要はないが、冒険者ギルドは大陸中に勢力を広げている巨大組織。

第一王子の要請を拒否すれば、面倒なことになるかもしれない。


「無理じゃ。うぬも手を引け。……これから属する学院の長に逆らってもいいことなど無いじゃろう」

それが分かってなお、デネールはレオンの要請を拒否した。

諭すと、大きな舌打ちが返ってきた。そして大きく鼻を鳴らし、ソファから立ち上がり部屋を出ていった。


「それで、何用でこの都市に来たんじゃ?」

疲れ切った顔でデネールは問う。たった数分で場を乱すのは流石の所業だ。

視線で面倒ごとは御免だと伝える。今のデネールはギルド支部長だ。学生の時のように彼女のお遊びには付き合えない。

「来年の新入生を勧誘してたのさ。何とあの!アリスティア家の新たな当主様だ」

「……なっ!あのアリスティアか」

アリスティア。その名は大陸中に轟いている。名は名でも悪名だが。太古の昔から存在する錬金術の大家であり、その武力によって大陸北東のエリーゼ半島を占領している一族だ。


「……ということは、謎の魔術師はアリスティアの者か。確かにその正体は探らない方がよいな」

勇者にアリスティアの名が伝われば、最悪聖人国とアリスティアの戦争になりかねない。アリスティアの名は聖人国の人間にとって特別の意味を持つ。

「そうだね。アリアは数百年前、聖人国を半壊させたからね」

開戦の理由は分からない。聖人国が大国の威信にかけ情報操作を行い、真実は歴史の陰に消えた。だが確かなことは一つ、アリア・アリスティアは聖人国において、悪魔よりも恐れられ、盗賊よりも嫌われている。

「聖人国の勇者と聖女が、来年にはアリスティアと同じ学び舎に通うのか……」

デネールはとんだ危険地帯だと嘆息した。

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