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妖精龍人

昼食後、俺が向かったのは、『魔獣母胎』を使った離れの尖塔ではなく、俺が目覚めた培養室だ。

俺が砕いた培養槽はとっくの昔に掃除されており、何機もの培養槽が並んでいる。その内の一つに、彼女は収まっていた。


淀んだ緑の溶液の中、彼女は膝を抱え、浮かんでいる。

少女のような外見だった以前とは違い、僅かに成長し、20歳前後ほどの外見年齢になっている。

臀部と頭部から生えた龍の部分は、以前見た時よりも馴染んでいるように見えた。肌にも何か所か鱗が生えており、光の加減で青白く映っている。


そして何よりも違うのは、内包する『力』だ。

ガラス一枚挟んでいても、彼女の内包する膨大なエネルギーを感じ取れる。

自然に濃厚な魔力を身体に纏わせており、もし至近距離で魔術を放っても、彼女の魔力に掻き消されるか、大きく威力を減衰させられるだろう。


だが例え、魔力の壁を突破できても、龍の肉体に阻まれることは疑いようもない。

黒妖精人ダークエルフの肉体に宿しても、この能力、この神秘。

龍という存在のでたらめさの一片が垣間見えるというものだ。


「目覚めさせてくれ」

一体、どういう存在になったのか。胸の奥から湧き上がるような好奇心を押し殺しながら、リリエルさんに命令を下す。彼女は今、別室の作業室にいるが、この部屋の様子は望遠術式と収音術式で把握している。


作業室にいるリリエルさんが制御盤に手を突き、魔術を発動させる。それは精神に刺激を与え、覚醒を促す魔術。それをかけた瞬間、黄金の瞳が開いた。


そして、烈火の花が咲いた。肌を突き刺すような魔力の渦を感じた瞬間、俺は反射的に防御の魔術を発動し、それが俺の命を救った。

全身から放出される業火は地面を融解させ、周囲の培養槽を余熱だけで叩き割った。


それこそまさに、龍の炎。文明を焼き、人理を嘲笑う覇者の咆哮だ。

熱せられた空気が室内を渦巻き、常人なら息をしただけで、肺まで焼かれることになるだろう。

あまりにも熱く、強く、猛々しい炎は意志を持っているかのように、炎の女王の目覚めに喚起し、暴れ狂う。


赤の世界と化した室内は、前世でいう、地獄のようだった。炎は室内をまっさらに溶かし、生き残っているのは、炎の鱗を纏う『龍』と、結界を張っていた俺だけだ。眼前では薄緑の魔力の膜を舐めた炎が、背後に凄まじい速度で流れている。


今のところ、全ての熱を防げてはいる。だがそれは、指向性のない魔力の放出だからだ。もしもこの炎が統制され、一点に向かえば、数多の魔術防御を施した、アリスティア城も貫かれるかもしれない。


「この部屋で起こして良かったな……」

この部屋には、培養槽の中身が逃げ出したときのことを考え、隔離装置がある。きっと今頃、制御システムが異常を感知して、外界と隔離されているはずだ。だがそれは、部屋の内にいる俺は守ってくれない。


(忠誠術式が機能してなかったらやばいかも)

〈魔獣母胎〉には、対象の精神に忠誠心を刻む魔術が組み込まれている。魂に刻まれた忠誠術式は、彼女が俺に逆らわないようにするものだが、何分初めての魔術だ。

失敗してる可能性も――


(一応、準備しておこう)

俺は影の中に蠢く、切り札に意識を集中させる。だが、俺の心配は杞憂だった。

炎に抱かれた『妖精龍人』がゆっくりと地面に降り立つ。初めての地面の感触を不思議そうに確かめ、全身に纏った炎を消した。


とはいえ、この部屋の温度は、人が蒸し焼きになるほど高いため、結界は解けないが。彼女は黄金の瞳で俺を見る。そして俺の前まで歩み寄り、ゆっくりと膝をついた。


「我が主、ゼノン・アリスティア様。この身朽ち果てるまで御身の側に」

鈴を鳴らすような綺麗な声が、俺の耳朶をくすぐる。しばらく、意識を奪われていたが、何も返事をしていなかったことを思い出し、声を掛ける。


「……ああ。よろしく。君の名前は、ゼノヴィアだ」

以前から考えていた彼女の名前を教える。ゼノヴィアと言うのは、古代の言葉で、激烈な者を指す。炎龍の因子を継ぐ彼女にはぴったりだ。


当の本人は、ゼノヴィア、ゼノヴィア、と彼女は自分の名前を刻み込むように何度も繰り返す。そして彼女はおもむろに立ち上がる。


「ちょっ!」

今まで培養槽に入っていた彼女は当然、裸だ。目の前で立ち上がると、全部見える。豊かな胸元も薄く腹筋が浮かぶ滑らかな胴体も、長くしなやかな下半身も、彼女は隠そうとしない。


褐色の肌が、健康的な艶やかさを醸し出しており、年ごとの男には目の毒だ。

彼女は手をかざす。すると、室内の温度が急速に冷やされ、人間の生存できる環境へと戻った。


「……申し訳ございません。目覚めたばかりで力の制御が覚束なく」

彼女にとってはあの劫火すらも、寝ぼけて放った程度の一撃でしかないらしい。

「いや、大丈夫」

被害と言えば、培養室が潰れて、蒸発したぐらいだ。つまり、取り返しがつくぐらいの被害だ。


「……魔術も使えるみたいだね」

「主様が与えてくださった知識のお陰です」

若干目を逸らしながら、会話を続ける。完全に逸らせないのは許してほしい。

彼女には学習装置で魔術の知識も与えたが、それでもこうも自由に使えるのは、妖精人の血だろう。

思い描いたとおり、妖精人の魔術と、龍の異能を持って生まれたみたいだ。


「私の役目はなんでしょう」

彼女は問う。己の役割を、存在意義を。

それは彼女にとって必要不可欠な物。意味を持って生み出された彼女は、自身の生きる意味を、造物主たるゼノンに求める。


「……基本的に俺の護衛、なんだけど…」

良い淀む俺に、ゼノヴィアは首を傾げる。さらりと銀の長髪が肩を流れ、胸元に掛かる。それでも数房の髪では彼女の巨大な果実は覆い隠せていない。


「その前に、服着よっか」


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