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人手不足

「はあ」

俺は扉を閉め、封印の術式を施す。寂寥感に胸を締め付けられながらも、魔術師として術式と儀式を保存しようとする自身に呆れに近い感情を抱きながら。


青白い結晶が扉と部屋を覆い尽くしていく。封印を終え、1階への階段を登ると、その先にはリリエルさんが立っていた。


そういえば、師匠はリリエルさんは置いていくと言っていた。以前聞いた話では、リリエルさんは二代目の作品。きっと彼女は、誰か個人に仕える使用人ではなく、アリスティア家当主に仕える人形なのだろう。


「行かれましたか」

リリエルさんは人形の単純な表情に、僅かな悲しさを滲ませ、そう言った。


「うん。あの人らしい別れだ。……二人っきりになったね」

苦笑が滲む。それは寂しさを誤魔化すためのものであり、積み上がった問題に対する降参の笑みでもあった。


「はい。使用人も私だけになりました」

師匠は本当に、リリエルさん以外を連れて行ったみたいだ。この広大な城に二人だけ。

厳密には、勝手に住み着いている幻獣、妖精どもを合わせればもっといるが、アリスティア家の関係者は二人だけとなった。


家を継いだのなら、自分でどうにかしろ。きっとそういうことだろう。


「……とりあえず、使い魔の管理と一般設備の管理を頼む。……霊園と魔獣牧場は俺が管理するから」

差し当って必要なのは城の維持とエリーゼ半島の防衛。そして、管理に武力が必要となる施設の点検だ。

霊園などは緑爺さんが管理していた施設だが、あの人が消えれば数日で荒れ果てるだろう。

必要となれば、木の精霊(ドライアド)と簡易契約を結び、管理してもらうしかない。

リリエルさんには、比較的安全な場所の管理を任せよう。


「かしこまりました。ですが、人手の調達は急務です」

師匠と共に、彼女の配下も皆消えた。それはつまり、深刻な人手不足を意味する。


「……ホムンクルスの使用人を作ろう。彼らの製造と学習が終わるまでは、普段使わない部屋の維持は後回しでいい」


アリスティア家は広大なエリーゼ半島をたった一家で管理している。そのため、雑多な業務が数多く存在する。


城内の施設の維持管理、使い魔の管理、島内の魔物の間引き、外敵の排除など数多い。師匠と配下が消えた今、人手も武力も何も足りない。


「どうしようか。今狙われたらまずいよね」

「はい。まずいですね。……ですがその本を使えばどうにかなるかもしれません」

彼女はアリスティア家の固有魔術を知っているみたいだ。そして嘘も慰めも言わない彼女がどうにかなるというのなら、固有魔術には期待してもよさそうだ。


「まあ、読んでみるよ」

俺は書を手に自室に向かう。誰もおらず、魔石の明かりが照らすだけの城内は、心なしか暗く感じる。

窓の外を見ると、吹雪が吹き荒れていた。エリーゼ半島は季節感が乏しく、時の経過を感じることが少ない。


だが、今年は違った。麓の村人が迷い込み、魔物に喰われることはあったが、明確な侵略者が入ってきたのは初めてだ。

俺がここに来てから10年たった。師匠が消えて、何かが始まろうとしている。


師匠から継いだこの半島を守るためにも、もっと力が必要だ。

あの人は、俺が継いだものをどうしようとかまわないと言っていたが、俺は守りたい。すでにここは第二の故郷だ。外様のものにくれてやる気はなかった。


□□□


数日後、俺は自室なった執務室で本を前に頭を抱えていた。側には、メイド服に身を包んだリリエルさんが控えている。

「……アリスティア家らしい魔術だが、こういう系か……」


魔術には多種多様な種類がある。存在しない原子を産み出す属性魔術や、異界の存在を呼び出す召喚術、物質の構成を変える錬金術など様々だ。


ちなみに、アリスティア家は、代々錬金術を得意とする家であり、俺も一番得意なのは生物の錬成だ。

だからこそ、この固有魔術は俺にピッタリであり、もっと早く教えて欲しかったという気持ちも強い。


「はい。素材も必要になりますが、現状を打開するきっかけになるかと」

リリエルさんが静かに首肯する。

俺は手の上の本を魔術の炎で焼いた。


師匠が異世界に旅立った後、俺はリリエルさんにエリーゼ半島とアリスティア家を取り巻く情勢を教えてもらった。

この手の話は師匠は一切教えてくれなかった。まじであの人、魔術の話しかしなかったな。そのくせ、いきなり消えるんだからたちが悪い。


このエリーゼ半島は周辺国家に狙われている。エリーゼ半島はセントラル大陸北西に位置する半島であり、太いレイラインが何本の交差する霊地である。

そのため、国家のみならず、魔術師や異種族など、様々な人間、人外がこの地の資源を狙っている。


数日前にやってきた5人組も、エリーゼ半島の南に位置するデルウェア帝国の工作員らしい。師匠が消えることを予知して、探りに来たというのが、リリエルさんの尋問で分かった。


全員捕まえたから時間は稼げるだろうが、奴らもいずれ、師匠が消えたことを確信するだろう。そうなれば、師匠よりも劣る魔術師一人で、この半島を守り切ることは出来ない。今の俺は、戦力を向上させる必要があった。


「……とりあえず、使い魔の確認と、地下の5人組の処分だな」

()が目覚めれば、戦力の向上になる。あの五人には頑張ってもらうとしよう。


俺は書斎から場所を移し、地下の使い魔制御室に来ていた。ここは、アリスティア家が保有する使い魔たちの契約媒体の保管庫だ。


先代当主、アリア・アリスティアは、大量の魔物たちを呪術で支配し、この半島を守らせていた。どうやら彼女は、この部屋の使い魔たちは置いて行ってくれたらしい。


円柱型の部屋であり、周囲の壁一面に小さなクリスタルが大量に並んでいる。中央に置かれた巨大な結晶で、彼らを操れる。


結晶の鏡に、エリーゼ半島の地図が記されており、そこにいくつも光点が示されている。数は数千を超えている。


普通、使い魔契約は魂と魂を接続するものだ。師匠はそれを、結晶型の魔具を媒体にすることで、魔具さえあれば誰でも使い魔を制御できるようにしている。


「これだけ使い魔がいれば、当分の防衛は出来そうだな」

俺は制御端末を使い、使い魔たちに命令を出す。子を増やせ、と。


師匠が作った隷属呪術は、親から子にも引き継がれる。正確には、親である使い魔の命令に絶対服従させる呪術が埋め込まれる。


いずれ魔物の数が溢れ、呪力が薄まった結果、使い魔同士で殺し合うかもしれないが、それならそれでいい。


魔物は魔力を取り込むことで強くなる。魔物を殺し、魔石を食らえば強力な個体が生まれるかもしれない。


「次は5人組だ。リリエルさん、彼らは実験室に入れてくれ」

「かしこまりました」

リリエルさんは恭しく頭を下げた。


読んで下さり、ありがとうございます!

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