私と王子と邪魔者の愉しい愉しい青春記:前編
「私は真実の愛を見つけたのだ」
「‥…はぁ?」
今目の前で戯言を宣ったこの男。
私の婚約者である王子殿下だ。
夢見がちな男なのは子供の頃からなのだが、今はもう学園に通う15歳男子。
えー今度は何の本を読んだのかな?
側近よ、ちゃんと確認したのかい? 王子殿下は王子のくせにピュアピュアな心を持っているのよね。ええそうそう。箱入りボンボンなの。
彼はよく騙されるのよ。疑うことをしない。
それだと語弊よね。猜疑心や疑念と言った感情をどこかに忘れてきたのよ。
私は母親のお腹の中に置いて来たんだと思う。
だって彼の母親‥‥王妃様だけど猜疑心の塊だもん。
あんなのが姑になるなんて私の人生積んだわ。
「えぇぇと王子殿下。もう一度仰っていただけます? わたくし何やら幻聴が‥…。ストレスかしらねぇ」
「えーちゃんと聞いてよー。僕、愛する人と運命の出会いをしたんだ」
目をキラキラさせてて空を仰ぎながらちょっと恍惚気味な王子様。きもいわ。
はいはい。その手に持ってる本。最近学園の生徒間で流行っていますよね。
確か真実の愛があなたを救う。とか。なんだか怪しげな啓蒙書みたいなタイトル。そう。それに嵌ったのね。
(バカヤロー! 一体どこのどいつよ! このボンボンにこんな本与えた奴は。私刑よ!)
私の腸はかつてない程煮え滾っていた。
私は心を落ち着かせるために用意されたお茶をガブガブ飲んでやった。
ええそうよ。ガブガブよ。お陰でお替りよ。すみませーんもう一杯!
「ねえ聞いてる?」
恍惚状態から復活した王子様は首をコテンと傾げながら聞いてきやがる。
くわっー可愛いぃぃ!
はっ?! しまった。
「ええ聞きましてよ。そうですか。王子殿下は素敵な出会いをなさったのですね」
「うん。君もそう思う? 僕もまさか本の通りのことが身の上に起こるなんて驚いたんだ」
王子様は喜びが隠せないでいるらしい。
目が輝きまくっていやがる。あーまぶしいわ!
だけど直ぐに王子様の神々しいお顔は曇りだした。
(あら? どうしたの? 今日はいつになくコロコロ表情が変わるわね)
王子様は言い難そうに、そして意を決したように口を開いた。
「そ、それでね。僕に愛する人が出来ちゃったから君に申し訳なくて。どうしたらいいかわからなくて君に相談したいんだ」
「へーソウダンデスカ」
(呆れて棒読みで返答した私は悪くない。そうだそうだ)
「うー。相談というのか、君の気持を聞きたいと思ったんだ。僕の気持ちばかり押し付けるのはよくないから。ちゃんと君の気持‥‥考えを知りたいんだ」
そうこの王子様はこういう人だった。性根は優しい人なの。思いやりもあって。
ただちょっと‥‥いや大分か、騙され易いだけな人なの。
だから私も憎めないの。困ったことに。
私が躊躇していたら痺れを切らした王子様が。
「教えて」
とまたもや可愛くおねだりしてきやがった。くー質が悪い!
仕切り直しだ。
「王子殿下。わたくしの気持ちと仰られても。急なことで驚きが勝りまして。なんと申し上げるべきか考えがまとまりません。せめて少しのお時間を頂けませんか。よくよく考えとうございます」
「あっ。そうかそうだよね。ごめんね。ゆっくり考えて」
王子様は本当に素直な人なのよね。将来が心配で心配で。私はおかんの気分よ。
「では王子殿下。考えるに辺り詳しく教えて下さいませ。どうして王子殿下は運命の出会いを果たしたと判断なさったのかを。まずはそこからですね」
王子様はその人物の詳細を語ってくれた。出会いから何から何まで。
散々聞かされて思った。ああハニトラじゃんこれ。
くわー王子の側近仕事しやがれー!!
これはこれは緊急会議が必要だわ。
王子、悪いけど今日はお開きよ! また今度続きをしましょう。
私は早々に王子様の御前を辞した。
お城から帰る道中、魔法具を使って私のアドバイザー兼女子友にショートメッセージを送った。
『緊急案件発生・至急我が家に』友はこれで理解してくれる。
私は忌憚ない意見を求めるために友を呼び出した。ええそうよ。それが理由よ。いやだわ。ディスったり、愚痴ったり、笑いたいからじゃあなくてよ。オホホホ。
大急ぎで我が公爵邸に戻って、友が来るのを今か今かと待ち構えていたわ。
友も早速来てくれた。ありがとー。
さあさあ女子会女子会。酒はないけどお菓子で我慢してね。
早速、自室に招き入れて人払いを済ませ盗聴妨害の魔術具と結界を張って秘密のお話の開始よ。
「確か今日はお城で王子様と面会だったよね。なのにどうしたの? またあの王子様、おもろいことしたの?」
友の予想はバッチシ大当たり。まあ、いつものことだけど。
「ええ。どうやら真実の愛に目覚めたらしくて。しかも運命の出会いをしたんだって」
友は遠慮なく爆笑した。しかも涙流していやがる。おいこら。
「あー。なるほどね。最近流行ってるからね。やっぱ王子様も引っ掛かったか。ってかあの人なら引っ掛かるわー。ぷぷぷ。ご愁傷様」
「ちょっとー笑い事だけど、ご愁傷はないでしょ」
「へへへごめんごめん。で。どうしてそうなったの?」
わたしは王子様から聞いた話を掻い摘んで教えた。
運命の出会い‥…
初対面が校舎の曲がり角でぶつかった時。
休憩時間で人気の居ない場所を選んで赴くと必ず出会う。
彼女の困っている時によく遭遇する。
「ふーん。何かそれって怪しくない? っていうより護衛ダメじゃん!何ぶつかるまで王子に接近させてんの! そのことに驚くわ!」
「でしょーでしょー。私もびっくりよ。勿論、お城の近衛騎士隊長には報告したよ。きっちり仕事してもらわないとね」
「あと、その女、怪しい。王子の行動を把握しているよね。これ‥…」
友は何か思い出したような顔で、断言した。
「この女、イベント狙ってる! んで臭い臭い。あたしらと同じ匂いがする!」
「ええーまじっすかー! 姐さん!」
ついつい素がでた。
で、イベントってなんですか?